205 燕麦の畑に向かおう
ボアボアたちを撫でていると、ヴィクトルを先頭にして冒険者たちがやって来た。
「お待たせしました」
「マッテナイよ。アリガト」
気候学者と地質学者が同行している。
「あれ? 先生方も農作業を?」
「フィールドワークのついでだよ。俺一人で歩き回るのは危ないからな」
気候学者が笑いながらそういうと、ボアボアのことを撫でた。
「私も同じくです。土壌を見てわかることもありますから」
地質学者もフィールドワークのついでに収穫作業を手伝ってくれるつもりのようだ。
「アリガト! タスカルよ」
「まあ、俺は若くないし収穫作業にどれだけ役立てるかどうかもわからんがな」
開拓団の中では高齢な部類に入る、五十代の気候学者が自嘲気味に言う。
「私の方が、役立てる気がしませんよ。農作業したことありませんし……足を引っ張っているようなら遠慮なく言ってくださいね」
地質学者は農作業に自信がないらしい。
地質を調べるのと農作業は別ということなのだろう。
「ダイジョウブ。ヒトデはアルダケタスカる!」
「はい、がんばりますね」
そんな話をしている間に、冒険者たちはボアボアの家から鎌を取ってくる。
その鎌はイジェの村から持ってきたものだ。
冒険者たちが農具を持ったことを確認すると、イジェは大きめの声を上げた。
「ミンナ、シュッパツしよう!」
イジェがそういって歩き出すと、冒険者たちが後に続く。
「ボアボア、俺たちは麦を刈りに行くから、また後でな」
「ぴぃ!」
「ぶぶい!」
ボアボアとボエボエに別れを告げる。
ピイがボアボアの背から俺の頭の上に移動するのを待って、俺も冒険者の後に続いた。
「べむべーむ」
「ベムベムたちもついてきてくれるのか?」
「べぇむ!」
俺の後ろにはベムベムたち陸ザメがついて来る。
「今日は麦の収穫だぞ? ベムベムたちにできるの?」
「べむ!」
できると言っているが、果たして本当にできるのか。
陸ザメたちの持っている農具はスコップや鍬など、甜菜を収穫するのに適したものだ。
そして、麦の収穫に使うのは鎌である。
「まあ、無理はするなよ」
「べーむ」
陸ザメたちが労働力にならなくても、その分、俺たちが働けばいいだけだ。
手伝ってくれる冒険者の数は充分足りているのだから。
そう考えて冒険者を見ると、鎌の数が冒険者より少ないことが分かった。
イジェの村から持ってきた鎌は三本しかないのだ。
「イジェの村から持ってきた鎌だけでは数が足りないな」
「剣で代用できるでしょう」
ヴィクトルはそう言って、腰の剣に手をやる。
「代用は出来るだろうが、専門の道具の方が効率的だろう」
「それはそうですね。次回の収穫作業のときには……」
「いや、今からでも間に合わせよう」
急げば不足分の鎌ぐらいならばすぐに作れる。
俺は鎌を持っている冒険者に声をかけた。
「すまんが、鎌を少し貸してくれ」
「ああ、もちろんいいぞ」
俺は借りた鎌を観察する。
「相変わらず、イジェの村の農具は品質がいいよな」
「全くだ。故郷の村にはこんな高品質の農具はなかったよ。旧大陸ならいくらするかわからん」
どうやら、その冒険者は農家出身らしい。
「俺も全く同感だ」
冒険者と話をしながら、鎌の分析を進めた。
その鎌の形状は大鎌に分類されるものだ。
大鎌は人の身長に近い長さの柄を両手で持って大きく振るうようにして使う。
刃も大きく、効率よく麦を刈ることができるのだ。
「ただ……イジェの村の鎌は、大鎌にしては少し小さいか?」
「そうだな。恐らく身長の差だろう」
「それはあとで調整すればいいか。ありがとう」
俺は鎌を冒険者に返すと、小さい姿で隣を歩くヒッポリアスに声をかける。
「ヒッポリアス。背中に乗せてくれ」
「きゅうお!」
ヒッポリアスはすぐに大きくなってくれる。
「ありがとう」
俺はヒッポリアスの背に乗ると、柄にするための木材を魔法の鞄から出した。
「作る鎌は五本ぐらいでいいかな?」
「そうですね。それでいいと思います。全員が刈り取り作業に従事するわけでもありませんし」
五本作れば、イジェの村の鎌と合わせて八本になる。
俺とヴィクトル、イジェと冒険者たちと学者先生。
合わせて、十五名だ
鎌を持たない七名は、休憩するか、刈った麦の回収作業に従事すればいい。
俺は冒険者たちの平均身長から、どのくらいの柄の長さがちょうどいいか計算していく。
「大体のイメージは出来た。後は」
俺はヒッポリアスの背の上で木材に鑑定スキルをかける。
かけ終わったら、すぐに製作スキルを発動させる。
「よし、一つ完成」
完成した柄を魔法の鞄に放り込み、次の木材取り出す。
休まずに鑑定スキルをかけて製作スキルで柄を作る。
それを五回繰り返した。
「次は刃の製作だな」
俺は金属のインゴットを魔法の鞄から取り出した。
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