204 ボアボアの母乳

 俺はボアボアを撫でながら尋ねる。

「ところでボアボア」

「ぶい?」

「ボアボアは母乳を出せるのか?」

「ぶぅいぶいぶいぶいぶぅい!」

 ボアボアは勢いよく語り始める。


「お、おう。ボエボエが急に乳離れしたのか」

 最近、ボエボエが乳離れしたらしく、乳が張って仕方がないと困っているらしい。


「ぶいぃ~」

「なるほど、まだボエボエは乳を飲む時期だと」

「ぶい」

「ボエボエ」

「ぶい?」

 俺が呼んだら、陸ザメたちと一緒にいたボエボエが駆けて来る。


「ボエボエはどうして母乳を飲まないんだ?」

「ぶ~ぃ~」

「なるほど。ボアボアが怪我をしたからか」

「ぶい!」

「まあ、母乳の成分はほとんど血と同じって言うしな」

「ぶぶい!」


 元気な時でさえ、母乳を出すことは体力を使う。

 大怪我して、血を大量に流したボアボアの母乳を飲もうとは、ボエボエには思えなかったのだろう。


「だが、今はボアボアも元気になったから飲んでもいいんじゃないか?」

「ぶぅいー」

「肉がうまいと」

「ぶぶい!」

 特に焼いた肉がうまいとボエボエは言う。

 最初はボアボアのことが心配で母乳を飲まなかったが、今は肉の美味しさに目覚めてしまったようだ。


「ぶぅい~」

 ボアボアとしてはまだボエボエには母乳が必要だと考えているらしい。


「ぶぶい」

 だが、ボエボエは自分はもう大きくなったし、母乳はいらないと考えているようだ。



「ぶい! ぶい!」「ぶぶぶい! ぶい」

 何とか言ってやってくれと、ボアボアとボエボエが同時に言ってくる。


「そうは言われてもな。どっちが正しいのかは、俺には判断がつかないな」

「ぶぶ~い~」「ぶい」

「ケリーが何も言ってないんだから、ボエボエの成長にとって悪影響があるってわけではなさそうだが」

「ぶい~」「ぶぶい」


 ボアボアは「それならいいのだけど」と言っている。

 そして、ボエボエは「肉がうまい」と言っていた。


「あとで、ケリーに改めて聞いてみるよ」

「ぶうい」

「それはそれとして……」

「ぶい?」

 思わぬ方向に話が展開してしまったが、本題は別にある。


「ボアボアの母乳を少し分けてもらうことは可能か? もちろん体調が完全に戻ってからの話だが」

「ぶいぶい?」

「えっとだな。俺たちはバターを作りたいんだ」

「ぶぁぅ?」

「バターを知らないのか。白くて、熱したら溶ける……油的なものなんだが」

「ぶぅい」

「イジェの村で分けてもらったりしたことはないか」

「ぶい」

 どうやら、ないらしい。


「あれば、見せて説明できるんだが、ないんだよな」

「ぶぅ、ぶい」

「そうか、分けてくれるか」

 よくわからないけど、いいよと言ってくれた。


「ぶぶい」

「ああ、もちろんバターが出来たら、ボアボアにもあげるよ」

「ぶうい」

「元気になったらな。分けてくれ」

「ぶぅい」

「む、もう絞って欲しいのか。うーん。ボアボアは怪我が治ったばかりだしなぁ」

「ぶぶぶい」


 急にボエボエが飲まなくなったから、乳が張って困っているという。


「そうか。もちろん、俺たちも分けてもらえるなら、とても助かるんだが、一応ケリーに見てもらってからだ」

「ぶい」


 あとでケリーにボアボアの診察をお願いしに行こう。


「ぶぶい~」

「うむ。確かに張っているといっていいかもしれないな」

「ぶぅい」


 俺がボアボアと話していると、ボエボエはヒッポリアスとベムベムと遊び始める。

 遊んでいる子供たちを眺めていると、ピイが俺からボアボアへと移動した。


「ぴい~」

「ぶぅい~」

 ピイがボアボアにマッサージしていく。

 ボアボアは気持ちよさそうに、地面に横たわる。


「ピイはマッサージがうまいよな」

「ぶうい」

「ピイ、ボアボアの体は凝っているのか?」

『こってる!』

「そうか。怪我していたからかもしれないな」


 怪我をすると、無意識でその怪我をかばうように動いてしまう。

 それにより、不自然な力がかかり、筋肉が凝ったりするのだ。


 そこにイジェがやって来た。

 イジェはいつもより動きやすそうな格好だ。


「ア、マッサージ?」

「ぶい~」

「ウン、ミンナオハヨウ」

 イジェは足元にじゃれつく子供たちを撫でながら、挨拶した。


「イジェ、ボアボアが乳を分けてくれるって」

「ホント? アリガトウ」

「ぶぶいー」

「だが、怪我が完全に治っているか、ケリーの診察を受けてからの方がいいと思うんだが」

「ソウダね。ウン。ソノホウがイイとオモウ」


 俺はイジェと一緒にボアボアのことを撫でた。

 ボアボアは、俺たちに撫でられることより、ピイにマッサージされることで気持ちよくなっていた。


「ピイのマッサージはダニ類も取ってくれるからな」

『とる』

「ドウシテもダニはツクモノね」

「そうなんだよな。気を付けていてもね」


 森や草むらには虫がいるものだ。

 藪を漕いだりしたら、いつの間にか噛まれている。

 そのうえ、ダニに噛まれたら病気になることもあるのだ。


「俺たちは風呂に入っているときに、とってくれているし」

「ピイ、エライ」


 ピイだけでなく、洗濯場や浴場にいる臣下スライムも大活躍だ。

 毎日手軽に洗濯できるようになったことも、開拓団の健康維持に大いに役立っている。


「ピイたちには本当に助けられているよ」

「ぴぃ~」

 ボアボアをマッサージしながら、ピイは嬉しそうに鳴いた。

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