196 シロたちの種族
俺は改めてケリーに確認する。
「今回のことは、水の摂取不足が原因と考えていいのか?」
「ああ、それでいいよ。消化不良になった物もなかったし」
「それならよかった」
「いつもより運動したから、水が足りなくなった可能性もあるけど、それはクロとルルも一緒だしね」
「そうなんだよな。基本的にロロは、クロとルルと同じだけご飯を食べて同じぐらい運動しているからね」
「こっそり変な物をロロだけ食べていたわけでもなかったし、違いがあるとすれば水の量だね」
俺はクロ、ルル、ヒッポリアスと遊びながらこちらを気にしているロロに呼びかける。
「ロロ、聞いたな? ちゃんと水を飲むんだよ」
「……ぁぅ」
「クロとルルもだよ」
『みず!』『のむ』
「おしっこは俺とフィオに言ってくれればすぐにトイレに連れて行くからな。遠慮はしなくていい」
「うん!」
フィオは立ち上がって、子魔狼たちのところに歩いていく。
「しろでもいい。しろがといれにつれてく」
「わふ」
「きゃふ」「……」「あう」
「俺とフィオがいなかったら、建物の外ですればいいし。漏らしても俺が処理するから気にするな」
我慢して体を壊すより漏らした方がいい。
そもそも、子魔狼たちは幼い子供なのだ。
漏らすのは普通のことである。
『まかせて』
俺の肩の上に乗っているピイも掃除は任せろと言ってくれていた。
子魔狼たちは賢いのでこれからはちゃんと水を飲んでくれるだろう。
「私にも言うといい。テイムスキルがないから、言葉わからないが、まあトイレに行きたそうにしてくれたら、連れていこう」
ケリーがそう言うと、冒険者たちも、
「そうだな。俺たちは言葉がわからないがトイレか? って聞いたら子魔狼たちの返事の仕方でなんとなくわかるだろ」
「うんうん。トイレぐらいなら、俺たちが連れて行くし、別に外でしてくれてもいいし」
『そとにしたら、しんかたちがなんとかする』
ピイも冒険者たちに同意している。
基本的に子魔狼たちの尿は環境に悪くはない。
むしろ害獣を遠ざける効果もある。
そうはいっても、中庭などでおしっこしたら悪臭の原因になるのも確かだ。
そのうえ、地下水に混じれば病気の原因にもなりうる。
「ピイ、助かるよ」
『まかせて』
だから、拠点のすぐ外で粗相したとき、スライムたちが処理してくれるなら、とても助かるのだ。
これで、子魔狼たちのことは安心だ。
ケリーの観察結果とそのうえでの対処法の話が終わるのを待っていたようにヴィクトルが
「ケリーさん。それでその、白銀狼王種というのは? 気になって仕方ありません」
「ああ、そういえば報告を忘れていたみたいだね。シロ」
「わふ」
子魔狼たちとヒッポリアスを見守っていたシロがケリーのところにやってくる。
ケリーは椅子から立ち上がると、
「シロ、椅子の上乗ってくれないか?」
「わう」
シロに自分が座っていた椅子に乗るように促した。
「白銀狼王種だけの特徴について説明しようと思う。まずはこの爪を見て欲しい」
ケリーはシロの後ろに回り込むと、前足を掴んで肉球が見えるようにする。
「普通の爪に見えますが……」
「ヴィクトルさんにもそう見えるんだね。確かに見た目はほぼ変らないから、違いがわからなくても何の不思議もないんだけど」
そう言いながら、ケリーはポケットからこぶし大の水晶を取り出した。
「これを見ていて欲しい」
何をやるのか気になって、俺は椅子から立ち上がって、ケリーとシロの正面に移動する。
『くろもくろも』「ぁぅ」『みる』
『ひっぽりあすもみる!』
子魔狼とヒッポリアスも見たいと言って俺の足にまとわりついている。
「ケリー、実演はちょっと待ってくれ。クロ、ロロ、ルルとヒッポリアスが見たいと言っているからな」
「ああ、わかった」
俺は子魔狼たちとヒッポリアスを机の上に乗っけた。
ジゼラとフィオも机に上半身をのっけて、食い入るようにシロを見ている。
冒険者たちも気になるのか、俺の後ろには人垣ができた。
「さて、改めて。これを見て欲しい。シロ、この石をひっかいておくれ」
「わふ」
シロは素直に前足で水晶の塊をひっかいた。
「シロありがとう、えらいぞー」
「わぁう」
シロは嬉しそうに尻尾を揺らす。
ケリーはその水晶を手に取って確認すると、どや顔になった。
そして、その水晶を皆に見せつける。
「ほら。これをみてほしい」
「……水晶に傷がついていますね」
口調こそ落ち着いているものの、ヴィクトルが驚いているのは間違いないだろう。
「うん。ヴィクトルさん。水晶を傷つけられる爪を持つ魔狼っていると思う?」
「見たことも聞いたこともありません」
水晶は非常に硬い鉱石である。
人や獣の爪で傷をつけるのは難しい。
水晶を傷つけられる物といえば、爪よりもずっと硬い金剛石や紅玉、蒼玉、黄玉などが有名だ。
どうやら、シロの爪は、少なくとも水晶より硬いといえるだろう。
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