194 原因調査
ケリーはしばらくロロを撫でたあと、ポケットから棒のようなものを取り出した。
「ケリー、それはなんだ?」
「これはだね――」
そして、ケリーは一瞬固まった。
「そうだね、テオさんは先に食堂に戻るといい。私はまだやることがあるからね」
「手伝うよ?」
「いや、手は足りている」
「遠慮しなくても――」
「遠慮しているわけではないよ。これからするのはあまり気持ちのいいものではないんだ」
そこまで聞いて、俺はケリーがこれから何をするのか理解した。
ロロの便を棒でかき分けて、詳しく調べるつもりなのだ。
魔獣学者ならば、頻繁に行う日常的な調査なのだろう。
確かに、それは一般人の俺にとっては、あまり気持ちのいい行いではない。
「手間もかからないし、時間もかからないよ。専門的な調査だから、手伝ってもらって楽になるものでもないし」
「そうか、わかった」
ケリーは俺とフィオに配慮してくれたのだろう。
「じゃあ、頼む」
「うん。私もやることをやったら、すぐに食堂にもどる」
俺はロロを抱っこしたまま、フィオとヒッポリアスと一緒に食堂へと歩いていく。
「ケリーどしたの?」
フィオが心配そうに尋ねてくる。
「ロロのうんこを調べるんだって」
「そかー。うんこー」
「変な物を食べてないか確認しないといけないだろう?」
「いけない!」
『たべてない』
ロロは変なものを食べてないとアピールしてきた。
「そうだね。でも念のためだよ」
「……ぁぅ」
俺たちが食堂に入ると、ロロのことを心配していたみんながこっちを見た。
「ロロ、ダイジョウブ?」
イジェが駆け寄ってくる。
ロロたちの食事を、主に作ってくれたのはイジェだ。
だから心配してくれたのだろう。
「ロロはちゃんと出せたし、元気になったよ。やっぱり便秘気味だったみたいだ」
「ヨカッタ」
「おお、そうか。よかったよ」
冒険者たちもほっとしたようだ。
クロ、ルルも走ってくる。
『いたい?』『だいじょうぶ?』
『だいじょうぶ』
ロロの様子を見て大丈夫だとわかったのか、クロとルルは尻尾を激しく振った。
ロロも尻尾を振って遊びたそうにしていたので、床に置く。
たちまち、子魔狼たち三頭は、ヒッポリアスと一緒に遊び始めた。
フィオとシロはいつものように保護者のように近くで子魔狼とヒッポリアスを見守っている。
それをみて、冒険者たちは頬を緩めた。
「やっぱり、こうじゃないとな!」
「ああ、子魔狼たちが元気に遊んでいると、ほっとするよ」
「ヒッポリアスもこうみると、やっぱり子供なんだよな」
子魔狼たちとヒッポリアスはみんなの癒しなのだ。
俺も冒険者たちと一緒に子魔狼たちを眺めた。
先ほどまで体調が良くなかったロロのことは特に注意して観察する。
ロロも、いつものように元気にじゃれあっていた。
「うん。ロロも元気だな」
「げんき!」
フィオも嬉しそうに尻尾を揺らす。
「そうだな。ひとまずは安心だ」
「ところでテオさん。ケリーさんは?」
「ロロが出した物を調べているところだ。変な物を食べたか確認しているんだろう」
『たべてない』
「そうだな、ロロは変な物を食べてないよな。念のためだよ」
じゃれながらもロロはしっかりと言う。
「確かにそれは大切ですね」
変な物ではなかったとしても、俺たちが気づかずに消化の悪いものを食べさせていた可能性もある。
ケリーもシロも知らない、ロロたちが消化しにくい固有の食べ物だってあるかもしれないのだ。
「ケリーがいうには、すぐに終わるって話だったし、すぐに戻って来ると思うぞ」
「そうですか。ではケリーさんを待ちましょう」
「やっぱり気になるか?」
「ええ、白銀狼王種ですからね」
「それの亜種らしいが……、わかった時点で教えてくれればいいものを」
「ケリーさんは調べることが多い方ですから」
小さいものを含めれば、毎日新発見があるのだろう。
それを細かくメモに記録し、ノートにまとめ、将来的には論文として発表するはずだ。
それがケリーのメインの仕事である。
発見したことが、俺たちに役立ちそうなら教えてくれるが、そうでないならわざわざ教えるまでもないのだ。
例えば、とある花の花弁の数が新大陸と旧大陸では違うという発見を教えてもらったところで、俺たちには意味がない。
ケリーが教えてくれるのは、その花が食用や薬用など、俺たちが役立てられる場合だけだ。
「……確かに、シロたちの種族名が何であっても、俺たちの生活は何も変わらないからな」
「その通り。テオさんのおっしゃる通りです。後回しになるのは当然でしょう」
「だが、気になるよな」
「ええ、気になりますね」
俺はヴィクトルの席の正面に座った。
すると、若い冒険者が尋ねて来る。
「テオさん。それで、その白銀狼王種っていうのは、なんなんですか?」
みんな気になっていたのか、冒険者たちは一斉に俺の方を見た。
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