193 元気になるロロ
白銀狼王種とケリーが口にした瞬間、
「え? 本当ですか?」
ヴィクトルが驚いて目を見開いた。
「いや、ロロたちが白銀狼王種というのは、今初めて聞いたが……」
俺がそう言うと、ケリーは顔を上げてこちらを見た。
「そうだったか?」
「そうだぞ」
「そうか、すまない」
ついうっかりしていたらしい。
ケリーは謝ると、すぐに視線をロロに戻して、マッサージを再開する。
「それで――」
ケリーが説明を再開したその時、
――ぷぅぅぅ~~
ロロが長いおならをした。
とても良い兆候に違いない。
「腸が回復したのか? 治ったと考えても?」
俺はケリーに尋ねた。
「もともと、病気というほどの状態ではなかったけどね。ロロ、楽になった?」
『ありがと』
「ロロがありがとうと言っているぞ。ロロ、お腹苦しかったり痛かったりしないか?」
『だいじょうぶ』
「そうか、苦しくも痛くもないか。よかった」
「……ぁぅ」
「どうした?」
『でる』
「お、出るか。少し待て。ケリー、みんな、ロロが便意を感じたらしい」
心配してくれていた皆に報告すると、俺はロロを抱っこして外へと走る。
フィオとヒッポリアスが走ってついて来る。
シロは、食堂に残ったクロとルルの面倒をみるために残ってくれた。
「食堂にもトイレを設置すべきだったかな」
「くさくなる」
「確かにな。その可能性はあるが……」
俺たちは嗅覚が鈍いから、食堂にトイレが併設されていても困らない。
だが、鼻のいいフィオやシロ、子魔狼、ヒッポリアスにとっては臭いでつらいかもしれない。
「少し離れたところになら作ったほうがいいか……。でもそれならわざわざ作ることもないか」
病舎の近くにトイレだけの建物は既にあるのだ。
「ま、作るとしても後回しだな」
フィオは俺より速く走って、ヒッポリアスの家の扉を開けてくれる。
「ありがとう、フィオ」
「えへ」
そのまま、ヒッポリアスの家に入ると、トイレの扉を先回りしたヒッポリアスが開けてくれた。
「ヒッポリアスもありがとう」
「きゅお!」
ロロが漏らさないように、フィオとヒッポリアスは気を遣ってくれたのだ。
俺はトイレに飛び込むと、ロロを便座に乗せる。
「ロロ、思う存分していいからな」
「ゎぁぅ」
ロロは一生懸命踏ん張った。
そして、ついに出すことに成功したのだった。
「ロロ、えらいぞー」
今朝、褒め足りなかった分をたっぷり褒める。
「ぴぃ~」
ロロは尻尾を振って甘えて鼻を鳴らした。
俺はそんなロロを撫でまくる。
ついでにロロのお腹も撫でた。
「おお、お腹の張りも解消しているな」
改めてお腹を触ることで、今朝、どれだけロロのお腹が張っていたかよくわかった。
「今朝はパンパンだったみたいだな」
「きゅ~ん」
ロロの甘えが止まらない。
後ろ足で便座に立つと、俺の肩に両前足を乗せて、顔を舐めてくる。
「そうかそうか、ロロはいい子だなー」
苦しくなくなって、ロロも嬉しいのだろう。
尻尾の揺れもますます激しくなっている。
「ろろ、よかたね!」
『げんきになった!』
フィオとヒッポリアスも、元気になったロロを見て嬉しそうだ。
「さあて、ロロ。みんなも心配しているだろうし、元気な姿を見せに行こうか」
「わぁう!」
俺はロロを抱っこして、出した物を流そうとした。
「ちょっとまて」
だが、いつのまにか俺の背後に立っていたケリーに止められる。
「どうした?」
「出した物を調べなければ。今後のためにも」
「そうか、ありがとう」
「いやなに、仕事だからね」
ケリーは魔獣学者として開拓団の一員になったのだ。
ロロが出した物を調べるのも、確かに仕事の一つだと言えるだろう。
「ふむ。やはり量が多いな」
ケリーは真剣な表情でしゃがみ込むと、ロロの出した物を覗き込むように観察しながら言う。
「…………」
俺に抱っこされたロロも、そんなケリーを無言でじっと見ていた。
すっきりした直後ははしゃいでいたが、いつものロロは結構大人しい。
クロ、ロロ、ルルの中で一番静かなのがロロなのだ。
クロやルルとロロと比べて、人の言葉で意思表示してくることも少ない。
「テオさん、いつもより多い?」
「そうだな。いつもよりも量が多いな」
「クロとルルに比べたら?」
「クロとルルが今朝出した量より多いな。二倍とまではいかないが……」
「五割り増しぐらい?」
「そのぐらいだ」
俺が答えると、ケリーは立ち上がってロロのお腹を撫でた。
「うん。張りも治まっているね」
「おかげさまで」
『ありがと』
「ロロがありがとうだって」
「気にしなくていいよ。子供が体調崩すのは当たり前だ」
ケリーは優しく微笑むと、ロロの頭を撫でた。
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