192 ケリーの治療法
俺はロロの言葉をケリーに伝える。
「ケリー。ロロがありがとうだって」
「ん。気にするな。ロロはえらいな」
ケリーはロロを撫でまわす。
俺たちの話を聞いていた冒険者たちもロロの賢さに驚いたようで、口々に褒めていた。
「きゅーんきゅーん」
ロロもケリーに甘えるように鳴いている。
ケリーもどこか嬉しそうだ。
そんなケリーに俺は尋ねた。
「便秘ってことは、水を多めに飲ませる以外に対処法はないのか?」
ロロの体調が悪い理由と、そうなった原因もわかった。
あとは対処法がわかれば、解決だ。
「そうだな。ロロは魔狼の上位種である魔白狼のさらに上位種の亜種だからな」
「ん?」
ケリーの、まるで魔白狼の上位種だと確定したかのような口ぶりが少し気になった。
だが、今は対処法の方が重要だ。
「魔力も高く体力も子供とは思えないほどある。便秘に限らず、大概の病気は放っておけば治るが、対処する方法はある」
「そのやり方を教えてくれ。俺の作れる薬なら、すぐに作ろう」
「薬は必要ない。とはいえ、気休めみたいなものだが……」
そういうと、ケリーはロロを抱っこするとテーブルの上に乗せて仰向けにする。
「テオさんも見ていてくれ。今後テオさんもやる機会があるかもしれないからね」
「ああ、わかった」
俺はケリーが何をするのか、真剣に見つめる。
冒険者たちは少し遠巻きに、ケリーとロロを見つめていた。
シロ、クロとルル、ヒッポリアスも椅子の上に乗ると、テーブルに前足をかけて見つめている。
「まてまて!」
そこにフィオが駆け込んできた。その後ろにはジゼラもいる。
フィオが言っているのは、俺たちの訛りに直せば「待って待って」だろう。
フィオは促音が苦手なのだ。
「ふぃおもみる」
「うん、フィオも見ていなさい」
「うん」
フィオは俺の隣に来て真剣な表情でケリーとロロを見つめる。
「あ、気になっているから言っておくと、皿洗いは終わらせたよ」
皿洗いが終わったかどうかは、誰も気にしていなかったが、ジゼラが教えてくれた。
「ジゼラ、ありがとう。フィオもありがとう」
「うん。これから治療をするんだね」
ジゼラはシロの隣に立って、ロロのことをじっと見る。
「きゅーん」
皆に見つめられて怖くなったのか、ロロは仰向けのまま尻尾を足の間に挟んだ。
「大丈夫だよ。怖くないからね」
俺がロロの顎の下を撫でると、
「テオさん、そのまま撫でてやってくれ」
「わかった」
「痛いことはしないが、ロロは不安だろうからね」
ケリーはロロの尻尾を優しくつかんで、足の間からどける。
「テオさん、フィオ、ロロのおへそはこの辺りにあるんだが……」
そう言ってケリーはロロの胴体の中心あたりを撫でる。
「狼のへそは目立たないな」
「へー」
「確かに目立たない。たまに目立つ子もいるけどね」
ケリーはロロのへその周りを右回りで優しく撫でる。
「こんなふうに撫でていると、腸が刺激されて、便秘が治りやすくなる。気休め程度だけどね」
「ほほう? 力加減は?」
「力は入れなくていい。あくまでも優しくだよ。お腹はデリケートだから、力を入れたら痛いからね」
「なるほど」
撫でながらケリーはロロに語り掛ける。
「ただのマッサージだよ。痛くないだろう?」
「……ぁぅ」
「怖くないだろう?」
「ゎぅ」
どうやら、痛くも怖くもないらしい。
ロロもリラックスして、ケリーのマッサージを受けている。
マッサージしながらケリーが言う。
「普通の狼なら一日出さなかったぐらいでは体調悪くはならないんだけど」
「魔狼の方が排泄回数が多いのか?」
「そういうわけでもないかな。でもロロたちはご飯を沢山食べているだろう?」
「そうだな。育ち盛りだし」
そのうえ、子魔狼たちは、魔熊モドキ、つまり悪魔にいじめられていた。
ご飯も満足にもらえない環境にしばらくいたのだ。
「加えて、かなり過酷な環境にいたしロロたちは、沢山食べたほうがいいんじゃないか?」
「テオさんの言う通りだね。沢山食べた方がいい。だけど……」
「何か問題が?」
ケリーの含みのある言い方が気になった。
沢山食べすぎて、消化が追い付かなくなって、便秘になったのだろうか。
「何も問題ないよ。ただ、ロロたちはとても強い魔獣なんだ。代謝も消化能力も栄養を取り込む能力も高い」
「うん? 消化能力高いなら、やっぱり沢山食べてもいいんじゃないか?」
「もちろんさ。ただ、沢山食べるってことは、沢山出さないといけないってことだよ」
「それは、まあ、そうだろうね」
それは人も変わらない。
食べたら出る。生き物にとって不変の理だ。
「普段なら、沢山食べた分、沢山だすから問題ない。クロやルルのようにね」
「わふ!」『だす』
クロとルルも、遊んだりせずにケリーの話を聞いている。
「それに、代謝が高いってことは、必要な水の量も多いんだ」
「つまり、昨日水を飲まずに、いつも通りいっぱいご飯を食べたから便秘になったと?」
「恐らくは、そうかな」
ケリーは話している間、ずっとマッサージを続けている。
「普通の狼なら、いや普通の魔狼でも、一日程度なら何の問題も起きないさ。ただ」
「ただ?」
「ロロたちは、みんなも知っての通り魔白狼の上位種
何でもないことのように、ケリーは新事実を口にした。
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