191 ケリーの診断

 俺がロロの背中を撫でていると、フィオが言う。


「ておさん、ろろをまかせた」

「ん?」

「ふぃおはさらをあらいにいく」

「ああ、そうか。俺も手伝いに行きたいのだが……」

「ておさんは、ろろのそばにいたほがいい」

「そうだな、すまない」

「うん。しろもみてて」

「わう」


 フィオはお皿を持つとキッチンへと移動していった。


「あ、ぼくも手伝うよ」

 そう言って、ジゼラも皿を集めると、フィオを追ってキッチンへと移動していった。


 そのころには食事を済ませた冒険者たちもロロの様子を見に来る。


「大丈夫か? 毒赤苺ポイズンレッドベリーでも食べたか?」


 地質学者が心配そうだ。

 地質学者はヴィクトルや冒険者と一緒に毒赤苺を食べて食中毒になって苦しんでいた。

 毒赤苺の恐ろしさが身にしてみているのだ。


「それなら大変だな」

「ああ」


 地質学者の言葉を聞いた、冒険者たちも心配そうにしている。


『たべてない』

「食べていないそうだぞ」


 俺がロロの言葉を通訳すると、冒険者たちはほっとしたようだ。

 屈強なヴィクトルがあれほど苦しんだのだ。

 小さなロロなら命にかかわる。そう考えていたのだろう。


「心配ですね」

「大丈夫?」


 ヴィクトルとアーリャも心配そうだ。

 アーリャは優しくロロのことを撫でる。


「ぁぅ」

 ロロはアーリャの手に身体を押しつけてる。

 他の冒険者に対するのと比べても、アーリャにはよく懐いているように見えた。


 みんなが心配そうにしている中、ケリーが言う。


「それほど心配することではないよ」

「本当か? 具合悪そうだぞ」

「ああ。テオさんが心配するのもわかるけどね」

『だいじょうぶ』


 ロロも大丈夫と言っている。


「大丈夫なら、早く教えてやればよかっただろう?」

 地質学者が少し責めるような口調でケリーに言う。

 冒険者たちもうんうんと頷いている。

 早く教えてくれたら、心配しなかったのにと思っているのだ。


「言わなかったのには事情があるんだよ」

「どんな事情なんだ?」

「便秘だよ」


 何でもないことのようにケリーは言う。


「確かに、クロ、ルルは朝起きてトイレをしたが、ロロはでなかったな」

「だろう? 私がロロの便秘に気付いたとき、みんなは美味しく朝ご飯を食べていたからね」

「配慮ありがとう」

「気にしなくていいさ。最初の触診で見当はついたけど、確定させるために観察を続けていたし」


 そういいながら、ケリーはロロを撫でまわす。


「ロロ、飲む水の量が足りないぞ」

「ぁぅ?」

「クロとルルに比べても少ない。水を飲まないと便秘になりやすくなるんだよ」

「……ぁぅ」

「テオさん、ロロに水を。ついでにクロとルルにも」

「ああ、わかった」


 俺はキッチンに移動し、大きな容器に水を入れて、ロロの元へと急いで戻った。

 そして子魔狼たちの皿に水を入れていく。


「飲みなさい」

「ぁぅ」

 ロロは素直に水を飲む。


「クロとルルも飲みなさい」

「ぁぅぁぅ!」『うまい』


 水を飲む様子はロロとクロ、ルルに違いはなさそうだった。


「こまめに水はあげているつもりだったんだが……」

「その点に関しては、私のミスだな」

「ケリーの?」

「ああ。テオさんがベムベムたちを助けに行っている間、私が子魔狼たちと一緒にいただろう?」

「そうだったな」


 昨日、俺は子魔狼たちとフィオとシロ、イジェをボアボアの家に残して、悪魔を倒しに向かったのだ。

 そんな子供たちの面倒をみてくれたのはケリーだった。


「子魔狼たちにも水をあげたりおやつを食べさせたりはしたのだが……」

「ぁぅ」

「ロロは余り水を飲んでいなかったんだな。ロロ。ボアボアの家の水が口に合わなかったか?」

『ちがう』


 ロロの言葉の意味はケリーにはわからない。

 だから、俺が通訳する必要がある。


「口に合わなかったわけではないらしい。ロロ、水を飲みたくなかったの?」

『おしっこでる』

「そりゃ、出るだろうな」

「ぁぅ」

「…………トイレの回数が増えたら迷惑をかけると思ったのか?」

「……ぁぅ」

「気にしなくていいんだよ」

「ゎぅ」

「これからは気にしないで、飲みたいだけどんどん飲みなさい」

「……」

「わかった?」

『わかった』


 どうやら、わかってくれたようだ。

 ロロはとても賢い子魔狼なので、これからは大丈夫だろう。


「怒ってないよ。ロロはえらいな」

「きゅーん」


 ロロがしょんぼりしていたので、俺はロロを褒めて頭を撫でる。

 そんなロロを元気づけるかのように、クロとルル、ヒッポリアスはぺろぺろとロロを舐めていた。


「で、どういうこと? テオさんと違って、私はロロの言葉がわからないんだ」

「ああ、すまない」

「まあ、大体は推測できたけど、一応教えてほしい」

「簡単に言うと、トイレがちかくなったらケリーの迷惑になると思ったらしい」

「……人の子でも、普通そんな配慮しないぞ」

「そうだな。ロロは優しい子だからな」

「だが、それで体調が悪くなるのは良くないし、私はロロのトイレの世話も全く迷惑だと思わないと伝えてくれ」

「わかった。ロロ、ケリーはトイレの世話も迷惑じゃないって」


 通訳しなくても、ロロは人の言葉が大体わかっている。

 だが、念のためだ。

 テイムスキルのある俺の方が、誤解のない伝達ができるのは間違いない。


『ありがと』


 ロロはケリーにお礼を言いながら、尻尾を振った。


☆☆☆


新作はじめました。


「転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる」


可愛い幼女がモフモフたちや精霊たちとのんびり奮闘する話です。


よろしくお願いいたします。


https://kakuyomu.jp/works/16817330650805186852

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