190 様子のおかしいロロ

 ロロは踏ん張っているが、中々でないようだ。


「ロロ、でないか?」

『でる』

「また後で出したくなったらすればいいんだよ」

『……でる』

「…………便秘か?」

「……ぁぅ」


 俺はロロのお腹を撫でてみる。

 どうやら、いつもより張っているようだった。

 もしかしたら、本当に便秘なのかもしれない。

 あとで、ケリーに相談した方がいいだろう。


「無理しなくていいんだよ」

「ぁぅ」

「出したいときに出せばいいんだからね」


 俺はロロのことを撫でまくった。


「トイレしたいって、ちゃんと報告できたから、ロロもえらいよ」

「ぁぅ」


 ロロは少ししょんぼりしている。

 クロやルルみたいに出せなかったことを気に病んでいるらしい。

 あとで、ちゃんと出せたときには、改めてうんと褒めてやらなければなるまい。


「ろろ? おなかいたい?」「わふ?」

「ぁぅ」


 心配したフィオとシロもやって来た。

 シロはロロのお尻をぺろぺろと舐める。

 母犬は子犬のお尻を舐めて排泄を促すが、魔狼もそうなのだろうか。


「ぁぅ」

 舐められてもロロは排泄できなかった。

 そのうち、時間が経てば、ロロも出るようになるだろう。


 そのとき、ヒッポリアスの家の扉が開いて、イジェが入ってくる。

「アサゴハン、デキタよ!」

「おお、ありがとう」

「コマロウたち、ダイジョウブだった?」


 子魔狼たちが鳴いていると、ヒッポリアスがわざわざ呼びに来ていたから、心配してくれたらしい。


「ああ、少し寂しかったみたいだ」

「ヨカッタ」

「ロロ、朝ご飯を食べたらしたくなるかもしれないぞ」

「わぅ」


 ご飯を食べた後の方が、便意は来るものだ。

 ロロもご飯を食べたら、出せるようになるかもしれない。


 俺はヒッポリアス、ピイ、子魔狼たち、フィオ、シロとイジェと一緒に食堂へと向かう。


「手伝えなくてすまん」

「ダイジョウブ! ミンナがテツダってクレタから」

「それならよかった」


 食堂に入ると、ジゼラ、ケリー、ヴィクトル、アーリャや冒険者と学者たちが揃っていた。

 飛竜やボアボアは大きすぎるので、当然いない。

 小さなベムベムたちやボエボエもいない。

 ボアボアたちは、ボアボアの家でご飯を食べているのだろう。


 俺たちは挨拶しながら、席に付くと子魔狼とシロ、ヒッポリアスたちのご飯の準備を進める。

 子魔狼たちとシロ、ヒッポリアスのお皿を床に並べた。

 やはり、床の方が子魔狼たちには食べやすいのだ。


「よし、食べていいよ」

「がふ」「……」「がふ」


 子魔狼たち、シロ、ヒッポリアスがご飯を食べはじめる。

 だが、クロとルルはパクパク食べているが、ロロはあまり食欲がないらしい。

 食べてはいるが、少しずつだ。


「ゆっくりでいいよ」

「ぁぅ」


 用を足せなかったから、へこんで食欲が乏しいだけならいいのだが、病気なら大変だ。

 俺は自分のご飯を食べながら、ケリーに尋ねる。


「ケリー。あとで聞きたいことがある」

「ん? 後でと言わず今聞いていいぞ」

 そういいながら、ケリーは自分の皿を持って、俺の隣にやって来た。


「なになに? 面白い話?」

 ジゼラまでやってくる。


「面白い話ではない」

「そっか」


 移動してきたジゼラは、手を伸ばしてロロの背中を撫でる。


「どうしたの? お腹空いてない?」

「ぁぅ」


 一目見ただけで、ジゼラはロロの様子がおかしいと気付いたようだ。


「そうなんだ。ロロの様子がおかしいんだ。食欲がないみたいで」

「ふむ? ロロも食べているようだが」


 ケリーは素早くロロを撫でまわして様子を見る。


「なるほど」

「ロロも食べてはいるんだが、いつもに比べてゆっくりなんだ」

「ゆっくり食べるのはいいことだよ」


 ケリーの口調からは余裕が感じられる。

 どうやら、触診の結果、あまり重症ではないと判断したらしい。


「それはそうなんだが……」

「だが、まあ、確かに急にゆっくり食べ始めたのなら心配になるのもわかる」

「だろう?」

「あとでロロの様子を見てみよう」

「頼む」


 俺はなるべく急いで食事を済ませる。

 そうしておいて、ロロの食事の様子を観察した。


 ヒッポリアスや子魔狼たちはあっという間にご飯を食べ終わっている。


「ぁぅ?」「……」『おなかいたい?』

「きゅお」


 朝ご飯を食べ終わったクロとルルが心配そうにロロの様子を見ている。

 ヒッポリアスも心配そうだ。


 いつもならば、クロはロロの分まで食べそうな勢いで、お皿に顔を突っ込みに行きかねない。

 だが、今朝はクロもロロの様子がいつもとおかしいと感じているのか、心配そうに見守っている。


 イジェとフィオとシロもご飯を食べ終わると、心配そうにロロのことを見守る。


「ロロ、ダイジョウブ?」

「大丈夫だとは思うんだが……変なもの食べたか?」

『たべてない』


 いつも人の言葉で主張しない大人しいロロがはっきりと言った。


「変なものは食べてないか」

「ぁぅ」


 ゆっくりだが、ロロはご飯を食べていく。


「チガウゴハン、ツクる?」

『おいしい』

「おいしいらしいよ」

「ノコシテもイイカラね」


 ロロがはっきりとおいしいと言ったのは、朝ご飯を作ってくれたイジェに気を遣ったのだろう。

 小さくて体調が悪いというのに、とても優しいことだ。


 ゆっくりだが、ロロは全部朝ご飯を食べ終わる。


「ロロ、苦しかったりしないか? 無理してないか?」

『してない』


 そうはいうが、ロロの動きは鈍い。

 いつもみたいにコロコロ転がって遊ぶ気配がない。


 大人しいロロの様子を見て、クロとルル、ヒッポリアスも遊ぶような気分ではないのだろう。

 大人しくして、ロロを見守っている。


☆☆☆


新作はじめました。

『転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる』

よろしくお願いいたします。


https://kakuyomu.jp/works/16817330650805186852

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