188 アーリャの朝
甜菜の状態を確認すると、イジェは朝ご飯の準備をはじめた。
俺はそれを手伝っていく。
「コレをキッテ」
「了解」
「オサラのジュンビをオネガイ」
「了解」
イジェは指示出しと並行して自分の作業もこなしていく。
「イジェ、手慣れているな」
「ソウカナ? ソンナコトナイとオモウけど」
イジェは照れて謙遜しているが、大勢の食事を作るのは大変な作業だ。
少人数分の食事を作るのとも、大勢の食事の調理はまたコツが違う。
「村でもみんなの食事を作ったりしていたのか?」
「ミンナのショクジはミンナでツクッテタ」
「やっぱりそうなのか。集団での作業が得意だと思った」
「ソウカナ? テオさんがテツダウのウマイからダヨ」
「いやいや、イジェの指示がいいからだよ」
イジェと二人で楽しく作業をしていると、アーリャがやって来た。
「おはよう、イジェ、遅くなった。……テオさんもおはよう」
「オハヨウ!」
「おはよう」「ぴぃ!」
俺の挨拶に合わせてピイも元気に挨拶した。
アーリャは真っすぐにこちらに歩いて来ると、手を伸ばして俺の頭の上に乗っているピイを撫でる。
ピイも気持ちがいいのか、俺の頭から肩へと移動して、プルプルしていた。
「ピイもおはよ」
アーリャは十年前にジゼラが倒した魔王の娘だ。
新大陸の開拓団に最初から参加していたが、俺は昨日まで気が付かなかった。
とはいえ、子供だったアーリャと十年前に出会っただけなのだ。
気付けなくても仕方がないと思う。
「アーリャはいつも朝ご飯の手伝いをしているのか?」
「たまにだけど」
「ホトンド、マイニチだよ。マイニチ、テツダッテクレテいるよ!」
「そうだったのか」
アーリャは、特に攻撃魔法を得意とする優秀な魔導師だ。
だが、これまで新大陸において攻撃魔導師の出番は少なかった。
それはとても幸運なことだ。
戦闘力を発揮する機会など、ない方がいいに決まっている。
アーリャたち攻撃魔法を得意とする魔導師が暇なのはよいことだ。
しかし、当人たちが役立たずのような気がして焦る気持ちもわかる。
だから、アーリャたち攻撃魔導師たちは自分で仕事を探して、色々と手伝いをしていたのだろう。
「イジェ、手伝えることある?」
「うん。サンサイのシタショリをオネガイ」
「わかった」
イジェに指示されたアーリャが作業を開始する。
アーリャの担当する山菜の下処理は、俺の作業より複雑だった。
特定の部位を切り落として、沸騰していないお湯に入れて、沸騰して数十秒後に引き上げて水にさらすようだ。
その複雑な作業を、イジェの指示なしでアーリャはこなしていく。
「アーリャは手際がいいな」
「まだまだ下手」
「うん。アーリャはジョウズだから、テツダってクレルとスゴクタスカル」
「……うん」
イジェに褒められて、アーリャは少し照れ臭そうにしていた。
しばらく、三人で作業をしていると、さらに冒険者たちが三人やって来た。
「おはよう。すまん、イジェ、遅くなった」
「ダイジョウブ! オハヨウ」
「昨日、飲みすぎたかもしれん。テオさん、アーリャもおはよう」
「ああ、おはよう。飲みすぎはほどほどにな」
「おはよう」
そのまま、みんなで朝ご飯の準備を進めていると、
『ておどーる』
ヒッポリアスがやって来た。
「お、ヒッポリアスどうした。おはよう」
「お、おはよう」「おはよう、今日も可愛いな」
「きゅお!」
ヒッポリアスはみんなに鳴いてあいさつしながら、俺の足元までやってくる。
そして甘えるように俺の足に前足をかけた。
『くろ、ろろ、るるが鳴いてる』
「ん? 子魔狼たちが? 何かあったのか?」
『おきたらておどーるがいないから』
「……そうか。フィオとシロはいるんだろう?」
『いる』
それなら子魔狼たちに危険はないはずだ。
だが鳴いていると言う。体調が悪いのかもしれない。
その可能性は低いとは思うが念のためだ。
「イジェ、すまないが……」
「ウン、ココはダイジョウブ、クロたちのトコロにイッテあげて」
「すまない」
俺はヒッポリアスとピイと一緒にキッチンを出て、ヒッポリアスの家へと向かう。
ヒッポリアスが抱っこして欲しそうにしていたので、抱きあげた。
「きゅおきゅお!」
ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を振って、俺の顔を舐める。
「そういえば、イジェの発音が少しずつ流暢になっている気がする」
「きゅお?」
「流暢になると言うより、旧大陸なまりに近づいていると言った方が正確か」
俺たちの言葉も、イジェの言葉も、言語神からもたらされた同じ言語だ。
だが、発音は各地によって多少違う。
イジェのは新大陸のなまり、俺たちのは旧大陸のなまりがある。
イジェ以外のみんなが旧大陸なまりで話しているから、少しずつなまりが移っているのだろう。
「それがいいことなのか。悪いこと、いや寂しいことなのかわからないが……」
俺たちとの会話はよりスムーズにできるようになるだろう。
だが、新大陸なまりは、今は亡きイジェの一族のなまりなのだ。
『きゅお~。ふぃおは?』
「フィオの言葉は旧大陸なまりとも新大陸なまりとも違う」
『そうなの?』
「ああ、フィオは魔狼たちの中で育ったからな」
フィオの言葉は魔狼なまりと言った方がいいかもしれない。
『そっかー』
「そうだぞー」
そんなことを話しながら、俺たちはヒッポリアスの家の扉を開けた。
☆☆☆
新作はじめました。
『転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる』
よろしくお願いいたします。
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