184 早朝のボアボアの家
俺はベムベムの後ろを歩いて付いて行く。
ベムベムは駆けても、あまり速くない。のたのたという言葉がふさわしい動きだ。
「ベムベム、そっちじゃないよ」
「べむ?」
ベムベムは寄り道しようとするのでとめておく。
ヒッポリアスの家からボアボアの家という短い道のりでも寄り道しようとするとは。
子供だから仕方が無いのかもしれない。
「近くには川もあるし、一人で寄り道したら危ないぞ」
「べむ!」
「ベムベムは泳げるのか」
「べぇむ!」
ベムベムは泳げるから川は怖くないと自慢げに言っている。
陸ザメは、その名の通りサメに似ているし、泳げたとしても不思議はない。
「だがな、ベムベム。魔猪とか魔熊とかもいるかもしれないし」
「……べぇむ」
「悪魔もいつ現われるかわからないしな」
「べべむべむむむ」
悪魔と聞いて、ベムベムは怖くなったのか俺に駆け寄ってくる。
そして俺の手を両前足でぎゅっと握った。
ベムベムは細かく震えている。
「昨日、悪魔は倒したし、また現われても倒すから大丈夫だよ。……ジゼラが」
悪魔とは魔熊モドキの別名である。
シロとフィオたちの群れを全滅させ、イジェの村を滅ぼし、ボアボアに重傷を負わせ、陸ザメたちを何匹も殺したのが悪魔だ。
「べべむむ」
「恐れることはないけど、一応みんなと一緒に行動した方が良いんだ」
ベムベムを怖がらせるつもりはなかった。
ただ、子供一匹で出歩いたら、危ないと教えたかっただけなのだ。
「俺たちと一緒に居れば、怖くはないよ」
「べべむむむ」
俺は震えるベムベムを抱っこする。そして優しく撫でた。
肩に乗っていたピイもベムベムの頭の上に乗り移って、ふよふよした。
「……べべむ」
しばらくして、ベムベムは元気になった。
短めの尻尾も揺れている。
「さて、陸ザメたちのところに行こうか」
「べむう!」
俺はベムベムを抱っこしたまま、ボアボアの家へと向かった。
元々、ボアボアの家との距離は短いので、あっというまに到着する。
「静かだな」
「べむう」
ボアボアの家はしんと静まりかえっていた。
ベムベムと同様に陸ザメたちが目を覚まして活動を開始していると思ったのだが、そうではないらしい。
俺は音を立てないようにして、ボアボアの家の扉を開けた。
「ぐぁ」
中に入って、まず目に入ったのは飛竜だった。
玄関を塞ぐかのように横たわっていた飛竜は小さな声で鳴くと入ってきた俺に頭を押しつける。
「飛竜、起きてたのか」
俺は他の者が目を覚まさないように小声で尋ねる。
「ぁぅ」
きっと、飛竜は外敵に備えて、玄関を入ってすぐのところで眠ったのだろう。
俺はベムベムを抱っこしたまま飛竜を撫でる。
ベムベムとその頭の上にのるピイも、俺と一緒に飛竜を撫でた。
もっとも、ピイは撫でるというよりも、触れてプルプルしていたと言った方が正確だ。
「みんなは?」
「がぁぅ」
飛竜がどいたので、ボアボアの家の中が見渡せるようになった。
陸ザメたちは、部屋の端っこにまとまって眠っている。
その中になぜか三名の冒険者が混じっていた。
「……自室に戻れないぐらい酔っ払って、置いて行かれたか」
常に危険に対処すべき冒険者としては反省すべきだ。
きっと、あとでヴィクトルに怒られるに違いない。
「べむべむ」
降ろすようにベムベムが言うので、床に降ろした。
「ぴぃ」
名残惜しそうにピイは、ベムベムの頭の上から俺の肩にも取ってくる。
「べむ」
ベムベムは一声お礼を言うと、よたよた歩いて陸ザメの塊に合流した。
そして、早速寝始める。
陸ザメは集団で固まって寝るのが好きなのだろう。
「ボアボアは……」
猪そっくりなキマイラであるボアボアは陸ザメから少し離れた場所で眠っている。
その横にはボアボアの子供であるボエボエが眠っているし、その上にはジゼラが眠っていた。
「まあ、ボアボアは暖かいからな」
ジゼラがくっついて眠りたくなる気持ちはわかる。
「ぴぴぃ」
「ん? どうした」
『けりー、だいじょうぶ?』
「大丈夫って……あっ」
ピイに言われて探してみたら、ケリーはボアボアの尻尾の下にいた。
ケリーが大丈夫かどうかでいえば、今のところ大丈夫だ。
「……ボアボアの体勢が変わったら危なそうだな」
『うん』
尻尾の下なので、ボアボアがごろりと横に転がっても、多分大丈夫だ。
だが、寝返りをうつ際に、ボアボアが後ろ足を伸ばしたら、蹴られるかもしれない。
本気の蹴りではなかったとしても、ボアボアの巨体が繰り出す蹴りを食らえば、骨ぐらい折れるだろう。
それに、起き上がる際に、後ろ足で踏まれたら死にかねない。
ボアボアが糞をしたら、直撃する位置でもある。
ボアボアは室内で糞はしないだろうが、
「ボアボアがおならをしても、ケリーに直撃するよな」
『する』
俺は念のためにケリーを起こすことにした。
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