183 早起きのベムベム

 ベムベムたち、陸ザメが仲間になってくれた次の日の朝。

 俺はごそごそという小さめの何かが動く音で目を覚ました。


「ん?」

「べむぅ……」


 物音の発生源はベムベムだった。

 俺のあげたスコップを手にしたベムベムは、玄関の扉を開けようとしているようだった。


「ベムベム、おはよう」

「べむ」

「外に出たいのか?」

「べぇむ」

「そうか、少し待ってくれ」


 俺は起き上がると、玄関へと向かう。

 起き上がるのと同時に、待ち構えたようにピイが俺の肩に飛び乗った。


「ピイもおはよ」

「ぴっぴぃ」

 ピイは俺が気付くより先に目を覚ましていたに違いない。


 昨夜、陸ザメたちの歓迎会を兼ねて、ボアボアの家の前で宴会が開かれた。

 その途中で、俺は子供たち、つまりイジェとフィオ、ベムベム、ピイ、ヒッポリアス、シロと子魔狼たちを連れて拠点に戻ったのだ。

 甜菜を水に浸けるためである。

 イジェが丁寧に指導してくれたおかげで、甜菜を水に浸ける作業はすぐに終わった。

 作業が終わった頃にはベムベムと子魔狼たちは既に眠っていたし、フィオとイジェも眠そうにしていた。

 だから、俺たちはヒッポリアスの家で、そのまま皆で眠りについたのだ。


「ベムベムは早起きなんだな」


 窓の外を見ると、東の空の太陽がまだ低い位置にあった。

 恐らく日の出から一時間ぐらいしか経っていないだろう。

 普段なら、まだ眠っている時間である。


「べむぅ」

 褒められたと思ったのか、ベムベムは自慢げに胸を張っている。


 ヒッポリアスの家の中を見回してみる。

 フィオとイジェは、シロと子魔狼たちに寄り添うように毛布にくるまって気持ちよさそうに眠っている。

 そして、小さくなった状態のヒッポリアスは仰向けになって「ゅぉぉぉぉ」といびきをかいて眠っていた。

 自然界における圧倒的な強者としての態度なのか、無防備なお腹や首も丸出しだ。


「相変わらずヒッポリアスは寝相が凄いな」

「べむ!」


 どうやらベムベムはヒッポリアスに憧れを持っているらしい。

 キラキラと目を輝かせてヒッポリアスを見つめている。


「さて、ベムベム。扉はこうやって開ければいいんだよ」

「べむ!」

「昨日、ヒッポリアスの家に来たときには、ベムベムは眠っていたものな」

「べぇむ」


 ベムベムたち、陸ザメは賢いが人族と暮らした事があるわけではない。

 扉の開け方がわからなくても仕方が無い。


「ついでに洗面所とトイレの場所と使い方も教えておこう」

「べむ」


 トイレの場所と使い方を教えたら、すぐにベムベムは実践する。

「べむ?」

 用を足した後、ベムベムはこちらを見て首をかしげた。


「そうだよ。それであってる。ベムベムは賢いな」

「べぇむ!」

 褒めると、ベムベムは嬉しそうに両前足をぶんぶんと振る。


 トイレを済ませると、ベムベムは自分で扉を開けてヒッポリアスの家から外に出る。

「べむ」

「うん。家の外に廊下があるんだよ。廊下の出入り口も、開け方は一緒だよ」


 昨日、拠点の各建物をつなぐ廊下を作ったのだ。


「べむ?」

「そう、それが廊下から外にでるための扉。廊下の色んなところにあるから、どれでも好きなところから出入りしていいよ」

「べぇむ!」

 ベムベムは廊下の扉を自分で開けて外に出る。

 俺もベムベムと一緒に外に出た。


「……涼しいな」

「べむ」

 涼しいというより肌寒かった。

 昨日までの暑さが嘘のようだ。


「夏が終わりかけているのか?」


 俺が考えていたよりも秋の到来は早いのかもしれない。

 新大陸の冬は寒いとイジェや気候学者から聞いている。

 夏の暑い時期も、旧大陸より短いのかもしれない。


 俺が秋の到来の前にやっておくことを考えていると、

「べぇむ~?」

 ベムベムが扉を開けたり閉めたりしながら、こちらをみている。

 廊下の扉の開閉はこれでいいのか聞いているのだろう。


「そうだよ。扉の開閉は、それでばっちりだな。さすがベムベム」

「べえむ!」

 ベムベムは嬉しそうに両前足をぶんぶんと振った。


 さきほど褒めたときも、両前足を振っていた。

 きっと、嬉しいと両前足を振るのかもしれない。 

 シロたちが尻尾を振るのと同じだろうか。

 いや、昨日、ベムベムが陸ザメの皆と再会したときは両前足を振っていなかった。

 嬉しいとは別の感情があるのかもしれない。

 あとで、ケリーに報告しておこう。


「べむ?」

「ベムベムはお父さんのところに行きたいの?」

「べむ!」


 陸ザメたちはボアボアの家にいるはずだ。

 ヒッポリアスの家からボアボアの家までは近いし、危なくもない。

 だが、ベムベムはまだ幼い子供。念のために同行した方が良いだろう。


「そっか。じゃあ、一緒に行こうか」

「べぇむ!」


 すると、ベムベムは嬉しそうに駆け出した。

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