182 新大陸の子供たち

 陸ザメたちが、雑草を食べている間に、冒険者たちがやってくる。

 ヴィクトルが拠点に戻って呼んできたのだ。


「新しく引っ越してこられた、陸ザメさんたちです。陸ザメさんたち、私たちの仲間ですよ」

「べむう!」


 最初、沢山の冒険者をみて警戒していた陸ザメたちだったが、仲間と聞いて安心したようだ。

 陸ザメたちは「べむべむ」鳴きながら、冒険者たちに挨拶して回っていた。


「甜菜を栽培できる魔物って凄いなぁ」

「旧大陸にはいないタイプだな」

「かわいいな」


 冒険者たちも陸ザメたちのことが気に入ったようだった。

 顔合わせが済んでしばらく経ったころには、夕方になりはじめた。

 夕方になったら、夜ご飯だ。

 せっかく、陸ザメたちの歓迎会もかねてボアボアの家の前で、みんなで一緒にご飯を食べる。

 とはいえ、陸ザメは草食性。

 雑食の俺たちとは食べる物が違うのだ。


「リクザメタチのゴハンもツクッタ」


 イジェは凄く薄味で調理した山菜料理を作ってくれたようだ。


「べえむ!」


 陸ザメたちはイジェの料理を気に入ったようで、美味しい美味しいと食べていた。

 それでも、陸ザメたちは基本的に小食だった。

 身体の割に大きめの口で、小さくゆっくり動かしてもぐもぐ食べていた。

 子魔狼たちのほうがまだ、沢山たべるぐらいである。


「ふうむ。ゆっくり消化するのかもしれないね。それに栄養の吸収効率が良いのかも」


 ケリーは陸ザメたちに尽きっきりで、メモを取っていた。


 俺もヒッポリアスや子魔狼たちにご飯を食べさせながら、自分も食べる。


「ドウ?」

「ああ、イジェ。いつも通り凄く美味しいよ」

「ヨカッタ」


 そういって、俺の隣に座ったイジェは少し表情に影があった。


「どうした? なにか気になることでも?」

「ウーン。ドウシテ、トウサンはツレテイッテ、クレナカッタンダロウ」

「……陸ザメたちとの取引に?」

「ウン。ベツにアブナいコトはナサソウダケド」


 危ないからだめと言われていたのに、陸ザメは全く危なくなさそうだ。

 疑問に思う気持ちもわからなくはない。


「だが、取引相手だからな。子供は連れて行かないんじゃないか?」

「ソウイウモノ?」


 商人が、商談に、自分の幼い子供を連れて行くことはまずない。それが普通だ。


「少なくとも旧大陸ではそうだった。イジェの一族がどういう習慣なのかはわからないけど」

「ソッカ。ソレナラソウイッテクレレバ、ヨカッタノニ」

「まあ、その年は本当に危ない場所に畑を作っていたのかもしれないしな」

「マイトシ、イドウシテイルカラ?」

「そう。ベムベム。どうなの?」


 美味しそうに山菜を少量の塩で茹でたものをゆっくり食べていたベムベムに尋ねた。


「べえむう~」

 ベムベムは、畑に安全にたどり着けるかどうかなど考えたことがないという。


「べえむ」

「なるほど、どちらかというと、たどり着くのが難しいほうがいいと」

「べむ!」


 その方が、野生の猪とかが甜菜を食べに来ないから良いのだという。


「野生の猪が来ないって、相当危なくないか?」

「べむ?」


 ベムベムは余り深く考えていなさそうだ。

 たどり着けないほうがいいが、それよりも土地の状況の方が大事らしい。



 ベムベムがご飯を食べ終わると、

『あそぼ』「ぁぅ」『あそぼ』

「べっむべむ」

 子魔狼たちがベムベムにじゃれつきはじめた。

 ベムベムも嫌がっている様子は無く、嬉しそうに一緒になってコロコロ転がりはじめる。

 その姿を見ると、ベムベムも子供のような気がする。


「ベムベムって何歳?」

「べむう?」

「十歳か。ベムベムたちの中では子供の年齢なのか?」

「べむ!」

 ベムベムは大人だと言う。


「べえむ」

 だが、近くにいたベムベムの父が子供だと教えてくれた。

 当のベムベムは子供らしく子魔狼たちと遊んでいた。


 それを眺めているイジェを見て、俺は甜菜のことを思い出した。


「イジェ。砂糖作りは明日から始めようか」

「キョウからミズにツケル!」

「ああ、そうだな。イジェの村から持ってきた壺もあるし、今から食堂に行って甜菜を水に浸けておこうか」

「ウン!」


 俺とイジェは、ヴィクトルや冒険者たちに一言伝え、食堂へと向かうことにする。

 冒険者たちは、ご飯を食べたあと、飲み会へと移行していた。

 ジゼラはケリーと仲良く酒を飲んでいるようなので、放っておく。


「べむ!」「べぇえむう」

 陸ザメたちも、どうやら酒を飲んでいるようだった。

 言葉も通じないのに、冒険者たちと楽しそうにわいわい過ごしている。


「……大丈夫なのか?」

「べむう」


 ベムベムは子供だからお酒を飲まないようだ。

 少し呆れた様子で、親たちを眺めながら教えてくれる。


「へー。自分たちで酒も造ってたのか」

「べむ」


 甜菜をつかって酒を造ることまでしていたようだ。


「あー。子供は連れて行かないっていう、イジェのお父さんの方針って、酒がらみかもな」

「……ソウカモ」

「陸ザメたちと楽しくお酒飲む場には、子供は連れて行かないもんな」

「ウン」


 そんなことを話しながら、俺とイジェは拠点に向かって歩いて行く。

『だっこ』「ぁぅ?」『いく』

 子魔狼たちが連れて行けというので抱っこする。


「きゅうお~」

 小さい状態のヒッポリアスが尻尾を振りながら俺たちの前を歩いて行く。


「べむう」

 ベムベムは俺の服を右手で掴んでついてきた。

 左手は俺の作ったスコップを持っている。


「ふぃおもいく」

「わふ」

 フィオとシロもついてくるようだ。


「飲み会は子供にはつまらんよな」

「つまんない!」「わふ!」

「フィオたちは今日は何をしていたんだ?」

「じ!」「わふ!」

「モジをオシエテモラッタ」

「ケリーに?」

「そう! ふぃおかける!」「わふう」

「ナマエ、カケルヨウニナッタ」

「おお、すごい」


 フィオとイジェはケリーから文字を習っていたらしい。

 シロも自慢げに尻尾を振っているので、一緒に学んでいるのだろう。

 普通の魔狼は文字を読めないが、シロならとても賢いので読めるようになるかも知れない。

 そんな気がした。


「べむ!」

「ベムベムも字を学びたいの?」

「べえむう」

「じゃあ、あとでケリーに頼んでみよっか」

「べむう!」


 ベムベムも向学心があるようだ。

 陸ザメも賢いので、文字を読み書きできるようになるかもしれない。


「子供たちは凄いなぁ」

 そう呟くと、俺の肩の上に乗ったピイがプルプルした。

 きっと同意してくれているのだろう。

 ピイは可愛いが王である。子供という感じではない。


 ふと抱っこしている子魔狼たちをみると、気持ちよさそうに眠っていた。


「スゴイ?」

「ああ、凄いぞ。よし、ぱっぱと甜菜を水に浸けて早めに寝ようか」

「ウン」

「ふぃお、ねむくない!」「わふ」

「寝る子は育つんだぞ」

「べーむう」


 ベムベムはそろそろ眠いらしい。

 当然のように、俺たちと一緒に眠るつもりのようだ。

 それは、きっと楽しいだろう。子魔狼たちも喜ぶに違いない。

 そんなことを考えながら、俺たちは拠点に向かって歩いて行った。

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