181 冒険者たちと陸ザメ

 ボアボアの家には、ボアボア親子だけでなく、ヴィクトルとケリーがいた。

 それだけでなく、フィオ、シロ、子魔狼たちまでいた。

 シロと子魔狼たちは、ボエボエたちと遊んでいるようだ。

 上空を飛んで着いてきていた飛竜も、俺たちより先にボアボアの家に戻って出迎えてくれる。


 ボアボアと面識のある陸ザメはベムベムだけだ。

 俺は陸ザメたちが怯えないように、距離が近くなる前に予め言う。


「あの大きいのはボアボア、その隣の小さいのはボエボエだよ」

「べえむ!」


 ベムベム同様に、陸ザメたちはボアボアを見ても怯えなかった。

 俺たちが近づくと、ヴィクトルとケリーがやってくる。


「みなさん、お疲れ様です」

「沢山、仲間がいたんだね」

「ああ、生き残りがいて、こちらに引っ越したいらしいから連れてきたよ」

「それはいいですね。みなさん、私はヴィクトルと言います」

「ケリーだ」「イジェです」「ふぃお!」「があう」

「ぶぶい!」「ぶえ」

『なかま!』「ぁぅ」『るる』

「べむうべむ!」


 陸ザメたちはヒッポリアスの背から降りると、皆に「べむべむ」言いながら挨拶していた。

 俺とジゼラも抱えていた陸ザメをおろす。

 ベムベムは俺の手を握って「ベムベム」言っているが、他の陸ザメたちは挨拶したあと、イジェの周りに集まった。

 陸ザメたちは、イジェの一族にお世話になってきたからか、イジェが好きらしい。


「あれから、どうなったのか聞かせてもらえませんか?」


 ヴィクトルから尋ねられる。

 ケリーとイジェから、ある程度ヴィクトルも話を聞いているだろう。

 だが、念のために、最初から順を追って丁寧に説明することにした。


 説明の途中で、子魔狼たちがじゃれついてくるので、俺は地面に腰を降ろす。

 そして、ひざのうえに子魔狼たちを乗せて、撫でながら説明していく。

 ヒッポリアスも小さくなって、甘えてくるので子魔狼たちと一緒に撫でておく。


「べむ」

「ベムベムも撫でてあげよう」

「べえむ」


 俺の周りに小さい生き物が集まってくるのを、ケリーはうらやましそうに見つめていた。

 説明の途中で、ベムベムたちの習性についてケリーが聞いてくるので、ついでに説明する。

 草食であることや、巣穴についてなど、俺の知り得たことを大体全て話していった。


「陸ザメたちは――」

「陸ザメ?」

「ああ、俺が勝手に呼んでいた種族名だ。陸に住んでいるけど、サメっぽいからな」

「ふむ。いいセンスだ」


 ヒッポリアスに海カバと名付けたケリーだけあって、陸ザメという名称を気に入ったようだ。


「つまり、陸ザメさんたちは、この辺りに住処を作りたいということですね」

「べむう!」

「そういうことだ。だが、甜菜の畑を作れる場所の近くが良いらしいが……」

「つまり、畑予定地を選定してから、住処を決めると言うことですね」

「べむ」

「そういうことらしい。畑予定地が決定するまで、開いている病舎とかに住んでもらおうかなと」

「それはいいですね、今は空いてますし」


 そんなことを話していると、

「べえむ!」「べむべむ」「べええむう」

「ぶぶい!」

 ボアボアと陸ザメたちが意気投合して、ボアボアの家に入っていく。

 イジェとフィオ、シロも一緒だ。


「もしかして、ボアボアと陸ザメたちって、仲が良いのかな?」


 俺が呟くと、陸ザメたちについて行かず、俺の手を握っていたベムベムが言う。

「べむう」

「ふむ。ボアボアたちとは、関係があったのか。つまりどういうととだ?」

「べむうべむう」


 直接面識があったわけではないらしい。

 だが、ともにイジェの一族と仲が良かった動物同士。

 陸ザメたちが雑草を食べ尽くしたて、開けた場所にしたあと、ボアボアがぬた打つ。

 その場所に甜菜を植える。そういうサイクルがあるらしい。


「なるほどなぁ。みんなは、住処が決まるまで、ボアボアの家に住みたいのか?」

「べむ」


 どうやら、そういうことらしかった。

 そんなことを話していると、陸ザメたちがボアボアの家から出てくる


「べむべむう」

「ここ?」

「コッチ」

「べむう」


 陸ザメの言葉をフィオが通訳して、イジェに伝えているようだ。

 そして、イジェから許可をもらった場所の雑草を陸ザメたちが食べ始める。

 ヤギほど早くはない。陸ザメたちは、結構小食なのかもしれない。


「イジェ。その辺りを陸ザメたちは甜菜畑にしたいのか?」

「ソウ! ツチがイイ、ミタイ?」

「そっか、草を食べることで開けさせて、畑を作るのか」

「収穫から、種植えまでの期間に食べられる範囲を畑にするといった感じかもしれないね」


 ケリーはメモを取りながらそんなことをいう。


「ベムベムも食べてきて良いよ」

「べむ!」


 ベムベムも雑草を食べにいく。


「甜菜はどうする? どこに埋めたいとかある?」

「べむう~」


 それも今考えているところらしかった。

 陸ザメたちには、甜菜を埋めて保管すべきところにこだわりがあるようだ。


「決まったらいつでも言ってくれ」

「べむべむ!」


 その後、しばらくの間、陸ザメたちは雑草をむしゃむしゃ食べていた。

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