180 付いてくる陸ザメ

 ヒッポリアスも、付いてきている陸ザメたちのことが気になるらしい。


「きゅうお?」

「そうだな。少し止まって」


 ヒッポリアスに止まってもらって、俺は背から降りる。

 アーリャも俺に続いて背から降りた。


「べむべむべえむ!」


 俺が降りると、陸ザメたちは大喜びで足元に群がってくる。


「一緒に来たい?」

「べえむ?」


 遊びに来ていいって言ったので、早速遊びに来るつもりらしい。


「そっか。歓迎するよ」

「べむべむ!」


 遊びに来るついでに、俺たちの拠点近くで住処を探すつもりのようだ。


「それだったら、持っていきたいものはないか? 一緒にもっていくけど」

 魔法の鞄にはまだまだ余裕がある。


「べむう?」「べむ?」


 陸ザメたちはみな大切そうに農具を持っている。

 だが、それ以外何も持っていない。


「まあ、いつでも取りに戻れるけど」

「べむ!」


 少し考えたあと、陸ザメたちは、持っていきたいものは特にないという。

 農具と甜菜以外の財産は基本的にないようだ。


「じゃあ、行こうか」

「べーむべむ」「べむべむ」


 嬉しそうに陸ザメたちは歩き出す。

 だが、陸ザメの短い足で、拠点まで歩くのは大変だろう。


「みんながヒッポリアスの背に乗れたらいいんだが……」

『のせれる!』


 ヒッポリアスはそう言うが、さすがに二十頭の陸ザメを乗せるのは大変だ。


「とりあえず、乗れるだけ乗ってもらって」

「べえむ!」


 ヒッポリアスが姿勢を低くしてくれる。

 そして、俺とジゼラとアーリャで、陸ザメたちをヒッポリアスの背中に乗せていった。


「乗ったのは十五頭か。結構乗れたね」

「じゃあ残りは、僕とテオさんで抱っこしよっか」

「そうだな」


 残りの陸ザメは五頭。

 ジゼラが三頭抱っこして、俺が二頭抱っこする。


「私も……」

「アーリャはいいよ。ジゼラは力持ちだし、俺は元々荷物持ち。運ぶのは得意だからね」

「うんうん。良い運動だよ、身体がなまらなくていい」


 そしてヒッポリアスはゆっくり歩き出す。

 揺らさないように慎重に気を使って歩いて行く。


「べむべーむべむべむ」「べえぇむううべむ」


 ヒッポリアスの背中に乗っている陸ザメたちは大喜びだ。

 背中に乗れなかった陸ザメたちががっかりしているかもしれない。

 そう思って、尋ねたのだが、

「あとで交代する?」

「べむ!」

 抱っこがいいという。


 俺が抱っこしている二頭のうちの一頭はベムベムである。

 ベムベムは俺に抱っこされるのが好みらしい。

 だから、ヒッポリアスの背中に乗らなくてもいいと言ってくれる。

 気に入ってくれたのなら、なによりである。


 そんなことをベムベムと話していると、アーリャが言う。

「ジゼラすごい」

「ああ、凄いな」

 ジゼラは器用に、三頭のうち一頭を頭に乗せ、二頭を小脇に抱えている。


「そっかー。甜菜は焼いてもおいしいんだね」

「べむうべむう」

「あ、火はイジェの一族に借りてたんだ」


 ジゼラは陸ザメたちと楽しそうに会話していた。

 それを見ていたアーリャが言う。


「あの、テオさん。どうしてジゼラさんはわかるの?」

「ん? 陸ザメの言葉のことか?」


 正確には言葉では無く意思である。

 言語化するのは気合いを入れてテイムスキルを行使するか、従魔にするしかない。

 今の俺には。ベムベムたち、陸ザメの伝えたいことが、言語化されていない形で伝わってきているのだ。


「うん。テオさんはテイムスキルがあるけど……」

「謎だ。ジゼラがどうして言葉がわかるのか、俺にもわからん」

「そうなんだ」


 アーリャは不思議な物を見るような目で、ジゼラを見ていた。

 実際、ジゼラは不思議な存在なのだ。

 不思議と言うより、文字通り人智を超えた存在と言えるかもしれない。


「まあ、勇者だからな。常識が通じないんだ。文字通り規格外なんだよ」

「そっか。それなら父が敗れて当然かも」

「……やっぱり、思うところがあるのか?」


 アーリャの父は最強の魔族、魔王である。

 その魔王は、十年前にジゼラに敗れているのだ。


「別にない。でも一回試合したい」

「あー。気持ちはわかる」


 魔族には力比べを好む者が多い。

 強者を見たら、挑みたくなる気になる者もいるだろう。


「今度、お願いしたら良いよ」

「うん。してみる」

「べむ? べえむ」


 ベムベムは、アーリャとジゼラが喧嘩するのではないかと心配になったようだ。


「いや、喧嘩じゃないよ」

「べむう」


 ベムベムはほっとした様子で太い尻尾を揺らした。

 陸ザメたちは基本的に争いごとが苦手なようだ。


「ところで、ベムベムは甜菜ばっかり食べているのか?」

「べむ!」

「草ならなんでも好きなのか。ほんとに? 雑草も?」

「べむ」

「木の葉っぱも食べるのか。肉は?」

「べえーむ」


 どうやら、陸ザメは草食らしかった。

 そんなことを話している間に、ボアボアの家が見えてきた。

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