177 陸ザメ
ジゼラは剣をスコップ代わりにして甜菜を掘ったらしい。
高級な剣だし、剣を作った職人が見たら卒倒しそうな行為ではある。
だが、まあそれはいい。
そのぐらい雑な扱いをしても壊れないように調整してあるのだ。
アーリャは魔法を使って、掘り起こすのを手伝ったようだ。
風魔法と、ツチマホウをうまく使ったらしい。
ヒッポリアスと飛竜はその手を使ったようだ。
身体が大きく力も強いので、掘り起こすことぐらい簡単だろう。
「べむべむ!」
陸ザメも大喜びで短い尻尾を揺らしている。
掘り起こした甜菜を、ジゼラは撫でながらいう。
「テオさん、この甜菜でかいねえ!」
「そうだな。ジゼラ三人分ぐらいあるか?」
縦、つまり葉っぱの根元から、甜菜の先までの長さは一メトルあった。
そして横は〇・六メトルぐらいある。
どのくらい重いのか測るのは難しいが、運ぶのが大変な重さなのは間違いない。
「私、五人分ぐらいありそう。テオさんが一つでいいって言った意味がわかったよー」
「イジェの一族も現地で切ってから運んでいたらしいからな」
「そりゃ、このまま運ぶのは難しいよ」
『ひっぽりあす、はこべる!』
「そうだね。ヒッポリアスなら運べそうだな」
「きゅうおー」
ヒッポリアスは誇らしげに尻尾を振った。
そんなヒッポリアスを俺は撫でた。
「もしかしたら、だけど、この巨大さゆえに甜菜は悪魔に目をつけられたのかもな」
「どういうこと?」
「悪魔はこの巨大な甜菜と大木に憑依していたんだ、小さな木には憑依していなかった」
「なるほどー」
大きさ関係なく憑依できるなら、そこらの雑草に憑依するだろう。
そんなことができるなら厄介なことこの上ない。
「大木も、そこら中に生えているわけでもないしな」
「憑依対象が沢山固まっていたから、悪魔が目をつけたってこと?」
「そうかもしれないと思っただけだ」
「……その場合、この子の仲間を殺す理由が無いと思う」
アーリャがぼそっと言う。
確かにそれはその通りだ。
陸ザメを、イジェや子魔狼たちのように捕まえて、そこら中に甜菜を栽培させればいいのだ。
そうすれば、自分の憑依できる植物を大量に増やすことができる。
「悪魔はバカなのかも? テオさんはどう思う?」
「バカなら助かるが、敵がバカだと期待するのはあまり良くないな」
「そだねー」
「とりあえず、甜菜は魔法の鞄でこのまま運ぼう。みんな、特にケリーは実物を見たがるだろうし」
「そだね! 絶対喜ぶね」
そして、俺は陸鮫に作ったばかりのスコップを渡す。
「こわされた農具の代わりになるかわからないが、良かったら使ってくれ」
「べむ?」
「ああ、もちろんいいよ。使いにくさとか合ったら言ってくれ。すぐに修正する」
「べむ!」
陸ザメは、そのスコップで少し地面を掘った。
「べえむ!」
「気に入ってくれたみたいでうれしいよ。他に必要な物はないか?」
「べむう」
「ゆっくり考えていいよ」
陸ザメが考えている間に、俺は甜菜を魔法の鞄に入れておく。
「べええむうう」
陸ザメまだ考えているようだ。
「農具でもいいし、小屋でも良いよ、悪魔に壊されたりしてないか?」
「そもそも、ベムベムはどんなことろに住んでるの?」
「ベムベム?」
「その子の名前。名前が無いと不便だから」
ジゼラは何でも無いことのように言う。
「勝手に名付けたらだめだろ」
「いやだった?」
「べえむう!」
陸ザメ、いやベムベムはとて喜んでいた。
ベムベムがうれしいならなによりである。
「で、ベムベムはどんな所に住んでいるんだ?」
「べむ!」
ベムベムは案内するよと歩き出す。
確かに、説明してもらうより実際に見た方が早い。
「べーむべむべむ」
ベムベムは俺の上げたスコップを大事そうに抱えて歩いて行く。
畑をほんの少し離れたところで、俺は木の陰からこちらを覗いている何者かに気がついた。
「…………」
無言でこっちをじっと見ている。
隠れているつもりなのだろう。片目だけでこちらを覗いている。
だが、木の太さが細いせいで、身体の大半が反対側から見えていた。
「ベムベム。あれは知り合いか?」
姿形はベムベムそっくり。種族名仮称陸ザメだ。
だが、ベムベムより二回りぐらい大きい。
きっとベムベムの仲間だろう。
「べむ? ――べむ!」
俺が教えると、ベムベムは一生懸命走り出す。
「べむううべむう」
「べむべむ」
ベムベムたちは涙を流して再会を喜んでいる。
ベムベムたちも、生きて再会出来るとは思っていなかったのかもしれない
「ベムベムのお父さんみたいだぞ」
パパとか息子と呼びかけているので、親子なのだとわかった。
「ベムベムのお父さん、生きてたんだね。よかったよ」
「うん、よかった」
「がぁるう」
ジゼラとアーリャも、涙ぐんでいた。
子供のいる飛竜も、感動した様子だった。
故郷の子供を思い出しているのだろう。
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