178 陸ザメたちの住処

 俺たちはベムベムとベムベム父の再会を、静かに見守った。

 しばらく見守っていると、「べむ?」「べむべむ」「べえぇむ」周囲から陸ザメの声が聞こえてきた。

 親子の再会の声を聞いた仲間たちが集まってきたらしい。

 寄ってきてはいるものの、身体の大きな飛竜とヒッポリアスが怖いらしく、近づけない様子だ。


「ごめん、飛竜。悪いけど、少し空を飛んでいてくれないか?」

「がある!」


 飛竜は賢いので俺のお願いの意味を理解してくれる。

 ゆっくりと上空に飛び上がった。


「ヒッポリアスも」

『わかった! きゅお』

 ヒッポリアスは小さくなった。


「きゅうお」

「わかってるよ」


 小さくなったヒッポリアスが抱っこを要求するので抱き上げる。


「べむ?」「べむべむ!」「べーむ?」


 飛竜が上空に行き、ヒッポリアスが小さくなったので安心したのだろう。

 陸ザメたちが、ベムベムのもとに集まってくる。

 隠れてはいたが、畑が大切だから遠くに離れることができなかったのだ。


「おお、どんどん集まってくるな」

「みんな、悪魔が怖くて隠れてたんだね。よかったよかった」

「よかった」


 ジゼラとアーリャはまた泣きそうになっている。

 怯えて暮らす陸ザメたちに感情移入したのだろう。

 ジゼラとアーリャは、どうやら感受性が豊かなようだ。


 しばらくベムベムたち陸ザメたちは再会を喜んで「べむべむ」鳴いていた。

 その間にも、陸ザメどんどん集まってきて、その数二十を超えた。


「二十人、いや二十頭でいいのか? どう思う?」

「頭かな? 人族ではないし……」

「私も、頭だと思う」


 再会をひとしきり喜んだあと、陸ザメたちは、こちらにやってくる。


「べえむべむべむ」「べむ!」「べえむべむべむ」


 みんな口々にお礼を言ってくれる。

 悪魔を倒したことと、畑を取り戻してくれたこと、そしてベムベムを助けてくれたこと。

 陸ザメたちが心から感謝していることが伝わってきた。

 そのお礼の言葉を、俺は通訳してジゼラたちに伝えた。


「気にしないで。甜菜もらったし!」

「うん」


 ジゼラとアーリャは照れていた。



 その後、是非にといわれたので、陸ザメの住処へと向かう。

 住処にも定期的に悪魔が現われたので、戻れなかったらしい。


 少し歩くと、ベムベムが住処に到着したと教えてくれた。

「べむ!」

「ベムベムたちは、ここに住んでいたんだね」


 そこは、甜菜畑から本当に近い。

 俺たちの拠点と畑の半分ぐらいの距離しかない。


「これだけ近いと、悪魔が畑にいれば、住処の方も見張れるな」

「べむう」


 陸ザメたちが畑だけで無く、住処にも近寄れなかったのは当然だ。


「個室?」

「べむ!」


 ベムベムたちの住処は崖に適当に掘られた、ただの横穴だった。

 その横穴の数は三十ぐらいある。どうやら一頭に一つ穴を掘って暮らしていたらしい。

 陸ザメたちの数より、巣穴が多いのは、悪魔に殺されたせいだろう。

 それを考えると、心苦しくなる。


「べむう」

「なるほど。毎年住処を変えていたのか」

「べむ」

「甜菜を栽培する畑の位置に合わせて、引っ越すから住処は適当に選ぶのか。ふむふむ」

「べむべむぅ」

「適当な洞穴が見つからなかったら掘るのか。ふーむ」


 確かに今目の前にある住処は適当に掘られたようにみえる。

 こういう生態はケリーが聞いたら喜びそうだ。


「農具とかはどうしていたんだ?」

「べえむう」

「そうか、イジェの一族から貰っていたのか」


 甜菜と農具を物々交換していたのだろう。

 イジェの一族の農具製作の能力は非常に高いことは俺もよく知っている。


 住処に戻れた陸ザメたちは自分の農具を手にして喜んでいた。

 みんなの宝物なのだろう。


 すると、ベムベムが一つの横穴のところに案内してくれた。

「べむべむっ」

「ここがベムベムの家なのか」

「べむう」


 中には藁が引いてあった。それが寝床なのだろう。

 適当に掘られた横穴で、一応入り口から徐々に高くなるように傾斜が付いている。

 水が中に入り込まないようにと言う工夫だろう。


「傾斜も緩やかだし、激しい雨がふったら、中まで濡れちゃわないか?」

「……べむうべむべむべむ」


 そういう日は中が濡れて気持ちよくないらしい。

 それに、冬も寒いという。

 だから、冬になると、皆で力を合わせて一つの穴を掘り、そこで身を寄せ合って暮らすという。

 だが、大きい穴を掘るのは大変だから、普段は個穴で過ごしているらしい。


「べむう」

「そうか。穴が崩れることもあるものな」


 ベムベムの巣穴事情を聞いていると、

「ばぇむばむ」

 ベムベムの父が皿に入れた白い物を持ってきてくれた。

 それは甜菜を小さなサイコロ状に切ったものだ。

 どうやら、俺とべムベムが話している間に、近くの甜菜を採取して切って持ってきてくれたらしい。

 それをどうぞといって、差し出してくれた。

 陸ザメのおもてなしなのだろう。


「ありがとう。いただきます」

「べむ?」

「うん。甘くておいしい」

「べえむう!」


 美味しいと俺が言うと、ベムベムたちもホットした様子で嬉しそうに尻尾を振る。


 普通、甜菜はそのまま生で食べるものではない。

 旧大陸の甜菜は少なくともそうだった。

 だが、陸ザメの栽培している甜菜は生で食べても美味しいらしい。


「美味しい! 柔らかい梨みたいな感じ!」

「うん、美味しい」

「きゅおきゅうお」


 ジゼラ、アーリャ、ヒッポリアスも美味しいと言っている。

 砂糖づくりだけでなく、そのまま食用にもできるとは非常に有用な作物だ。


「ぴい」


 俺が食べている甜菜を肩に乗るピイにあげたら、ピイも喜んでいた。

 スライムたちも甘い物が好きなのかもしれない。


 その後、陸ザメたちに断ってから、飛竜を呼ぶ。

 飛竜も仲間だと説明したので、飛竜が降りてきても陸ザメたちは余り怖がらなかった。


「があるう」

 飛竜も陸ザメから甜菜をもらって、美味しいと鳴いていた。

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