176 悪魔戦その後

 真剣な表情のアーリャが言う。


「テオさん」

「ああ、アーリャ。ありがとう。雷魔法は見事だった」

「いえ……」


 お礼を言われると思わなかったのか、アーリャは少し照れていた。


「アーリャの魔法はすごいねぇ。なんと言っても発動が速いよね」

「ああ、弱点属性と敵の位置を報せるためにヒッポリアスに雷で攻撃するよう頼んだんだが、間髪入れずにアーリャが雷を打ってくれたからな」

「うんうん。敵に逃げる隙も、身構える暇も与えなかったね。さすがアーリャ」

「……い、いえ」


 俺とジゼラが褒めると、フードから出ていたアーリャの耳が赤くなっていく。


「テオさんがヒッポリアスを通じて伝えたかったことを正確に理解しただけでもすごいのに、速かったねぇ」

「ああ、見事だ」

「きゅおきゅお!」


 ヒッポリアスも褒めている。


「アーリャの魔法がなかったら、僕の剣でも一撃では殺せなかっただろうし、逃げられた可能性もあったね」


 アーリャが木から追い出したから、一撃で殺せたのだ。

 もし、アーリャの魔法が遅ければ、ヒッポリアスに指示して追加で雷を放つことになっただろう。

 恐らく、俺とヒッポリアス、ジゼラがいれば、逃がさずに仕留めることもできたとは思う。

 だが、悪魔を仕留めるまでに、かなり長い時間がかかったに違いない。


「アーリャ、本当にありがとう」


 俺たちがお礼を言うと、しばらくアーリャは照れていた。

 しばらく照れていたアーリャは、突然声を上げた。


「あの!」

「ど、どうした?」

「聞きたいことがある」

「なんでも聞いてくれ」

「どうやって、鑑定スキルで敵の位置を割り出したの?」

「あー、それか。最初は地中にいると思ったんだ。そうでもなければ上空のジゼラが気づかないってのは考えにくいからね」

「それで、地面に鑑定スキルを?」

「そう。すると、おかしな甜菜があることに気づいた。そしておかしな甜菜が次々と変わっていった」

「どういうこと?」


 ジゼラも気になったようだ。


「悪魔が憑依先の甜菜を変え続けていただけなんだが」

「へー」

「甜菜を攻撃したら畑が荒れるからな。木に憑依するのを待って、ヒッポリアスに攻撃してもらったんだよ」

「そうだったんだねー」


 ジゼラは納得したようだ。

 だが、アーリャはまだ納得できていないようだ。


「あの、鑑定スキルって魔物には通じないはずじゃ……」

「ああ、そうか。悪魔には鑑定スキルが通じるんだよ。神は悪魔を生物だと認めていないんだろうな」

「……そうだったんだ」


 やっと、アーリャの疑問も解消したようだ。


「べむべむう!」


 陸ザメは一生懸命俺たちにお礼を言っていた。

 それを俺が皆に通訳して、伝える。


「良い子だね!」

「気にしなくていい」


 ジゼラとアーリャは陸ザメのことを撫でていた。


「無事悪魔を倒せてよかったよ。他に悪魔は見かけた?」

「べむうべむ!」


 どうやら他に悪魔は見かけていないらしい。


「それなら安心だね!」


 ジゼラは楽観的に言うが、俺はそこまで楽観的にはなれなかった。


「シロの群れやイジェの村を襲った奴に、ボアボアに怪我させた奴、そして今回の奴。多いな」

「そうだねー。イジェたちの話しだと、この辺には悪魔は別に多くなかったらしいし、何か理由があるのかなー?」


 出現が増えているのは気になるが理由はわからない。

 出現する度に倒すしか無いだろう。


 そんなことを話していると陸ザメは早速畑のチェックをし始める。


「畑は大丈夫?」

「べむう!」


 しばらく手入れ出来ていなかったが、問題なく収穫できそうだという。


「べむべむ!」

「ん? くれるのか? それはありがたいが……」


 元々甜菜を手に入れるためにこちらにやってきたのだ。


「べぇむ!」

 陸ザメは、お礼だから好きなだけ持って行けと言う。


「じゃあ、せっかくだから……一つ」

「べむべえむう」

「いやいや、一つで充分だよ、とりあえずは。甜菜は大きいからね」


 陸ザメは遠慮せずに沢山持って行けと言ってくれた。

 だが、鑑定スキルを地中にかけたので、俺はわかっている。

 地表に見えている葉っぱから想像できないほど、甜菜はでかいのだ。


「べむ!」

「これがおすすめなの?」

「べぇむ!」

「ありがとう。どうやって収穫するんだ? 葉っぱを引っ張ってもとてもじゃないが引っこ抜けないよな」

「べむう」


 陸ザメは甜菜の周囲を手で掘っていく。


「手で掘るのか?」

「……べむう」

「道具は悪魔にやられたのか。じゃあ、少し待っていてくれ」

「べむ?」


 俺は魔法の鞄に入れておいた金属インゴットをつかって、スコップを作った。

 小さな陸ザメでも使いやすい大きさにしておいた。


「これでどうかな?」


 スコップを作り終わって、顔を上げると、

「でっかいねぇ!」

「すごい」

「きゅきゅお!」「があるぅ」

 ジゼラたちによって、既に甜菜は掘り起こされていた。

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