175 悪魔戦その2

 俺はゆっくりとヒッポリアスに言う。


「敵は甜菜と周囲の大きな木の間を移動している」

「きゅお?」


 旧大陸では、人や動物、魔物に取憑くアンデッドがいた。

 いま、目の前に居る悪魔は、植物に取憑いている。

 しかも、一つの植物にとどまっていない。

 甜菜から甜菜に、そして、周囲の木々に魂が飛び移っているのだ。

 どういう仕組みかはわからない。

 そもそも、悪魔に魂と呼ばれる物があるのかもわからない。

 だが、攻撃しようという意思と攻撃する能力が、植物の間を移動し続けているのは間違いない。


「だから、俺の指示するところを攻撃して欲しい」

「きゅぅお」

「敵の弱点は雷だよ」

「きゅお!」


 ヒッポリアスと一緒に倒した悪魔は炎が弱点だった。

 悪魔によって弱点が違うらしい。


「防御しながら攻撃するのは大変だろうけど……」

『よゆう!』

「ジゼラに敵の位置と弱点属性を報せることさえできたらいい。威力は弱くて良いからね」

『わかった!』


 敵は常に移動している上、鑑定スキルをかけなければただの植物なのだ。

 そして、理屈がわからないが、移動途中にも攻撃を撃てるらしい。

 虚空から攻撃が飛んでくるようなものだ。

 ジゼラたちが気づかなくても当然である。


「甜菜に取憑いているときに攻撃したら、畑が荒れるよな」

「べぇむぅ」


 陸ザメは気にするなと言ってくれる。

 だが、できれば、被害は最小限に抑えたい。

 甜菜は、陸ザメにとって大切な物なのだ。


「いざとなれば、躊躇しないさ」

「べむ」


 そして、俺は再び鑑定スキルを広範囲の地面と木々、作物にかけていく。


「ぴっぴい」


 ピイがヒッポリアスの背から俺の頭に移動して、マッサージを開始してくれた。

 疲労を察知して、移動してくれたのだ。非常に助かる。

 鑑定スキルの際、最も負担がかかるのは脳だ。

 大量の情報を処理するため、脳がとても疲れるのだ。

 ピイのマッサージのおかげで、鑑定スキルがはかどるというものだ。


「いた」


 俺の広範囲の鑑定スキルは悪魔の位置を正確に割り出した。


「(ヒッポリアス。正面のあの木に雷を頼む)」


 言葉ではとても曖昧な指示になる。

 だが、テイムスキルを介することで、真意を伝えられるのだ。

 陸ザメの言葉にならない言葉を、俺が理解できるのと理屈は同じである。


『きゅお』


 ヒッポリアスは防御しつづけながら、角の先から雷撃を撃ち出す。

 光るの同時に、木に直撃した。

 悪魔には避ける暇など無かっただろう。


 ――GIAAA!


 悪魔の悲鳴が上がる。

 次の瞬間。


 ――ダァァァアアン


 上空から、悪魔の宿る木に雷が落ちた。

 上空にいたアーリャの雷魔法だ。

 その威力は凄まじく、木が縦に裂けて燃えだした。

 燃える木の煙が意思を持っているかのように動き、人の形を取っていく。

 悪魔も木に取憑き続けることができなくなったようだ。


 ――GUAAAA!


 悪魔が、何かを言っているのかわからない。

 怒りの籠もった目で俺たちを睨み付ける。

 悪魔の力が膨れ上がり、俺たちに特大の攻撃を繰り出そうとしているのが伝わってきた。


「気をつけろ」

「きゅお!」


 ――GAAA……


 悪魔がひときわ大きな咆哮を上げた瞬間。

 悪魔は縦に裂けた。


「まったくもう、うるさいなぁ」


 悪魔は裂けて倒れていく。

 その後ろにはジゼラがいた。

 気配も感じさせず、飛竜の背から飛び降りて悪魔を両断したらしい。

 ただ斬ったのではない。

 俺が先ほど修繕した剣が魔力を帯びている。

 恐らく勇者が纏う聖なる魔力だ。


「きゅお!?」

「べむう」


 ヒッポリアスも陸ザメもびっくりしている。

 ジゼラの凄さをよく知っている俺も驚かされた。


「……斬り終えるまで、気づかなかったよ」


 ジゼラが飛び降りたことにも、落下してきていることにも気づかなかった。


「えへへ。でしょー。コツがあるんだー」


 コツについて説明してもらっても、誰も理解できないに違いない。

 俺は陸ザメを抱いて、ヒッポリアスと一緒にジゼラの元へと歩いていく。

 甜菜を踏まないようにするのは忘れない。


「どうだ? ジゼラ」

「うん、死んでる。こいつは死んだら消えていくんだねえ」

「この世界の生物じゃ無いってことかもな」

「テオさん、隠れてない?」


 ジゼラは敵が他に隠れていないか警戒しているのだ。

 もちろん俺もしばらく鑑定スキルをかけ続けていた。

 その結果、周囲には今死んだ悪魔以外に敵はいないと思った。

 少なくとも、植物に憑依している敵はないはずだ。

 そして、植物に憑依するタイプ以外は、ジゼラがいれば気づくだろう。


「いないはずだが、一応もう一度調べる」

「お願い」


 俺は改めて地面を経由して、周囲に鑑定スキルをかけていく。


「ん。いないな。少なくとも半径百メトルの植物の中にはね」

「ありがとう。それにしても、よくわかったね」


 そこに飛竜が降りてくる。

 飛竜は甜菜を踏まないように、ちゃんと気をつけてくれている。

 飛竜の背から、アーリャも降りてきた。


「がぁるう!」

「飛竜ありがとう。おかげで厄介な敵を倒せたよ」

「がるる」


 俺は飛竜のことを撫でた。


「ヒッポリアスも、ありがとうな。ヒッポリアスがいなかったら死んでたかもしれない」

「きゅうおきゅうお」

「ピイもありがとう。鑑定スキルを広範囲にかけるのはとても疲れるからね」

「ぴぃぴい」

「ピイのおかげで、敵の位置を割り出せたよ」


 俺はヒッポリアスと、肩の上に乗るピイを撫でたのだった。

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