174 悪魔戦

 ヒッポリアスの角から、魔力の塊が撃ち出される。

 それが、俺たち目がけて飛んできた魔力のような塊を撃ち落とした。


「きゅうぉおお」


 ヒッポリアスは気合いの入った様子で身構えている。

 そこに追加で嫌な気配の魔力のような塊が飛んできた。

 その全てをヒッポリアスが迎撃してくれる。


「べ、べべべむむぅ」


 陸ザメはプルプル震えている。

 悪魔の気配に怯えているのだろう。

 俺は陸ザメを抱きかかえた。


 そうしてから、ヒッポリアスの影に隠れる。


「なんだあれは」


 嫌な気配のする魔力の塊のような物。

 つまり魔力では無いのだ。


「魔熊モドキってやつだよな」


 魔熊モドキ、つまり悪魔は生物ではない。

 動物でも魔物でも無ければ、人でも無いのだ。


 俺は周囲の気配を探ってみるが、どこに悪魔がいるのかわからない。

 謎の魔力のような塊は、四方八方から飛んでくるのだ。

 出所を推測することも難しい。


「ヒッポリアス。敵がどこにいるかわかるか?」

『わかんない!』

「わかった。ならば防御に専念してくれ」

『わかった!』


 俺にもヒッポリアスにもわからない。

 だが、上空を旋回している飛竜とジゼラ、アーリャならわかるかもしれない。

 防御に専念していれば、ジゼラたちがなんとかしてくれるだろう。

 俺の中で、ジゼラの信頼度は特に高い。

 こんな状況でも、不安はない。

 冷静に事態を考える余裕すらある。


「悪魔は、この子が来ないか見張っていたのかな」

「べべべむむむむ」


 陸ザメはぷるぷる震えている。

 陸ザメが畑に近づいたことを察知するのがはやすぎる。

 まるで、ずっと見張っていたかのようだ。


 陸ザメも、手入れしようと畑に近づくと、襲われると言ってた。

 まさか、四六時中畑を見張っていたのだろうか。


 悪魔が陸ザメに執着する理由はあるのか。

 いたぶるのが面白いといった単純な理由なのだろうか。

 それとも、陸ザメに何か特別な意味があるのだろうか。

 俺には理解できない。


「うーむ」


 そんなことを考えている間にも、悪魔の攻撃は激しくなっていく。


「ちょっと激しすぎないか?」

『よゆう!』


 大量に襲いかかってくる魔力のような塊をヒッポリアスは、一つ一つ全て撃ち落としていく。

 ヒッポリアスの魔力量、そして魔力操作の上手さは卓越している。

 これほどの能力を持つ者など、十年前にも見なかったかもしれない。


「ぴい!」


 ピイが一声鳴くと、俺の肩からヒッポリアスの背中に飛び移る。

 そして背中全体に薄く拡がった。

 ピイがヒッポリアスへのマッサージを開始したのだ。


「きゅうお!」

 ヒッポリアスの魔法の切れが、一層良くなったようにみえる。


「べべむぅべぇむぅぅべぅべべぇむむぅぅ」 

「怯えなくていい。ヒッポリアスは強い」


 歯の根が合わなくなるほど震えている陸ザメを、俺は優しく抱きしめて撫でた。


「それにしても、攻撃が収まる気配が無いな」

『よゆう!』

「すごいぞ、ヒッポリアス!」


 敵の攻撃が凄まじい。

 それを完全に防ぎ続けているヒッポリアスはもっと凄まじい。


「姿を隠し魔法で攻撃。知能派の悪魔ってことか?」


 悪魔にも色々なタイプがいるのかもしれない。


「さて、それはともかくどうするか」


 上空にいるジゼラたちが何もしないということは、まだ敵を見つけることが出来ていないのかもしれない。

 そこまで、隠れるのがうまいということだろうか。


「ジゼラが見つけられない奴を、俺を見つけるのは難しいよな」


 俺はあくまでも非戦闘員なのだ。

 そして、ジゼラは神に愛されし勇者。勘は尋常でないほど鋭く、気配を察知する能力も尋常ではない。


「そもそも、なぜジゼラは見つけられないんだ?」


 上空をみると、飛竜はゆっくりと旋回していた。

 つまり、飛竜たちが激しい攻撃を受けているわけでもない。

 そして、俺たちは攻撃を受けている。

 攻撃を受けていると言うことは、攻撃の起点があるのだ。

 起点があるなら、上からジゼラが見ればわかるはずだ。


「うーん、つまり……上から見てもわからない隠れ方をしているってことだな」


 俺はヒッポリアスにそっと触れる。


「少し集中する。あとは頼む」

『わかった! きゅお』


 俺は地面に手を触れる。

 そして、甜菜の畑を中心に地面を対象にした鑑定スキルを発動する。


 上から見てわからないなら、疑うべきは地中だ。

 モグラの魔獣でも無い限り、地中に隠れたりはしない。

 だが、新大陸の、それも人とも魔獣でも動物でもない悪魔だ。

 呼吸する必要がないかもしれないし、地中に隠れていてもおかしくない。


 鑑定スキルが発動し、その効果が一気に拡がっていく。

 甜菜畑からその周囲へとどんどん範囲を広げていき……。

 ついにそれをみつけた。


「ヒッポリアス。敵を見つけた。攻撃、頼めるか?」

『わかった!』


 力強くヒッポリアスは返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る