173 甜菜の採取地

 剣を渡すと、ジゼラは感触を確かめるように剣を軽く振る。


「テオさん。ありがとう! うん、すごくいいよ!」

「ならよかった」

「じゃあ、早速、試し切りに悪魔のところに行こっか」


 そういいながら、ジゼラは魔法の鞄から鞘を取り出すと、剣を鞘に収めた。

 やはり、鞘は捨てずに取っていたらしい。


「じゃあ、またあとで」


 ケリーたちが拠点に向かって歩き出すと、

「べええむ!」

 イジェに抱かれていた陸ザメが鳴いた。


 どうやら、陸ザメは仲間のことが心配らしい。

 甜菜畑も心配なのだろう。

 だから、絶対に、悪魔討伐に同行したいと主張している。

 陸ザメに、明日一緒に行こうと言っても納得するまい。

 それに、陸ザメがいたほうが、甜菜の採取地に迷わずにたどり着けるだろう。


「危険があるぞ?」

「べむ!」

「わかった」


 俺はイジェから陸ザメを受け取った。


「キをツケテ」

「べえむ!」

「ミンナがブジだとイイネ」

「べむ」


 ケリー、イジェ、フィオ、シロと子魔狼たちは拠点へと歩いて行く。

 それを見送り、俺は再びヒッポリアスの背に乗った。

 ピイと陸ザメも一緒である。


「じゃあ、ジゼラも――」

「がらあう」


 ジゼラをヒッポリアスの背に乗って貰おうとしたのだが、飛竜が鳴いた。

 どうやら、ジゼラを背中に乗せて飛びたいらしい。

 飛竜なりに、皆の役にに立とうとしてくれているのだろう。

 そんなこと気にしなくて良いのだが。


「え? 乗せてくれるの? じゃあお言葉に甘えようかな」

「がるう」 


 飛竜は嬉しそうだ。


「あの……テオさん、ジゼラ。私も行きたいです」

「……アーリャも行きたいのか」

「魔法で、あまり役に立ててないので……」


 飛竜と同じく、アーリャも皆の役に立ちたいのだろう。

 本当に気にしなくて良いのだが。


「じゃあ、行こっか。アーリャも飛竜の背に乗って」


 そういってジゼラがアーリャの手を取り、飛竜の背に乗せる。


「テオさん、いいでしょ?」


 ジゼラがにこりと笑う。

 アーリャが強いことは疑いようもない。

 協力が得られるなら、心強い。


「ああ、もちろんだ。頼りにしている」

「はい。頑張ります」

「飛竜。上空を飛んでヒッポリアスに付いてきてくれ」

「がらう」

「敵に警戒されないように、高度はある程度高めで」

「がるう」


 そして、ヒッポリアスは走り出す。

 ケリーたちが乗っていないので、先ほどよりずっと速い。

 飛竜は上空を飛んで付いてきた。


 しばらく走って、陸ザメに出会ったところに到着する。


「ここからどっちに行けばいい?」

「べぇむ」


 陸ザメの指示に従い、ゆっくりと歩いて行く。

 上空の飛竜もゆっくりと滞空しながら、付いてくる。


 俺が気配を消してもあまり意味は無い。

 ヒッポリアスは気配を消すのが苦手だからだ。

 高位竜種たるヒッポリアスの気配に比べたら、俺の存在感や気配など些細なものだ。


「べむぅ」

「あっちか」

「べむべむ」


 さらに、森の中をしばらく歩くと、突然開けた場所に出る。


「これが甜菜の畑?」

「べむべむう!」


 どうやら、そうらしい。

 大喜びで陸ザメはヒッポリアスの背から飛び降りた。

 そして、甜菜の葉っぱをを調べはじめる。

 俺も陸ザメを追って、ヒッポリアスの背から降りた。


『においする!』


 ヒッポリアスも甜菜の匂いだという。

 まるで大根畑だ。地面から緑色の葉っぱが生えている。

 生えている間隔は、とても広い。


「立派な畑だな」

「べむべぇむ!」


 陸ザメは自慢げだ。

 仲間と一緒に手入れした畑なのだという。


「べむぅ~」


 この辺りには、数カ所このような畑があり、時々休ませながら、甜菜を栽培しているという。

 畑の様子を見てみると、不耕起栽培、つまり耕すことなくそのまま植えているようだ。

 旧大陸でも、最近になって始った栽培法だ。

 メリットとデメリットがあるらしいが、俺は専門家ではないので詳しいことはわからない。

 とはいえ、旧大陸でも農業のプロがやることなのだし、きっとメリットも大きいのだろう。


「べむっ?」


 陸ザメは畑の手入れをしたいという。

 最近は悪魔の脅威のせいで畑に近づけなかった。

 だから、畑が荒れ気味で、陸ザメは気になって仕方ないのだ。


「まだ、ダメだよ。悪魔がいつ来るかわからないからね」


 様子を見るだけならともかく本格的に作業するとなると、まだ危ないだろう。

 陸ザメたちが甜菜畑を手入れしていると悪魔が襲ってくるとも言っていた。

 それも、とても気になる。慎重に行動した方がいいだろう。


「べむぅ……」

「悪魔がどちらから来たかわかる?」

「べむべむべええむ」


 どうやら、陸ザメにはわからないらしい。

 突然現われ、仲間を殺す恐ろしい奴なのだ。

 どこから来て、どこに帰っていったのかなど冷静に分析する余裕が無かったとしても仕方が無い。


「ヒッポリアス。怪しい雰囲気とかわかる?」


 元々、シロとヒッポリアスは不穏な気配を察知していた。

 だから、俺とピイが、一緒に偵察に出たのだ。

 ヒッポリアスならば、強大な悪魔の気配を察知できても不思議はない。


『…………きゅぅお~』


 ヒッポリアスは真剣な表情で、鼻をヒクヒクさせる。


「きゅぅお!」

 突然、ヒッポリアスの目が見開かれて、魔力の角がにょきっと生えた。

 それとほぼ同時に、茶色くて気持ちの悪い魔力の塊のような物が、遠くから俺たち目がけて飛んできた。

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