167 甜菜の採取地を見つけよう

 俺はイジェに尋ねる。


「採取地に行くために川を渡るから危険だとかかな? イジェ。川には近づくなとか言われてた?」

「ヒトリではゼッタイチカヅクナって」


 それは旧大陸でも常識だ。

 子供だけで、それも子供一人で川遊びなど、危険極まりない。


「大人と一緒なら川にも?」

「ウン。センタクのテツダイとかでヨクシテタ。カワをワタッタコトもナンドもアル」


 そうなると、川ではなさそうだ。

 甜菜取りはイジェ一人で行くわけでは無いのだ。


 そんなことを話し合っていると、

「うーん。あち!」

 フィオがびしっと一方を指さした


「フィオ。あっちに甜菜があるの?」

「たぶん! においがする」

「あっちから匂いが流れてきているの?」

「そ!」


 フィオは確信しているようだ。


「きゅぅお?」

「わぁふ?」


 だが、ヒッポリアスとシロは相変わらず「ほんとかなぁ?」と半信半疑の様子だ。


「そっか。じゃあ、あっちから探しに行こうか」

「うん!」


 まだ、どちらにあるのかわからないのだ。

 フィオに自信があるなら、とりあえず行ってみてから考えればいいだろう。


 フィオが先頭に立ち、その後ろをシロとヒッポリアスがついて行く。

 さらにその後ろをイジェとケリーが付いてくる。


「イジェ。こっちから帰ってきたことは?」

「ウーン、アッタヨウな、ナカッタヨウな」


 イジェの記憶も曖昧らしい。


「甜菜についてなにか聞いていることはある?」

「ウーン、テンサイはトテモオオキイ」

「ふむふむ」


 イジェの隣を歩いていたケリーも尋ねる。


「ところで、甜菜は根菜なのか?」

「イジェはソウキイテル。カワにツチもツイテタシ。タブンソウ」


 イジェは実際に生えているところは見ていないのだ。


「やはり土の中で育ったと考えるべき?」

「その場合、畑で育成したほうがいいんじゃないのか?」

「そうだね。テオさんの言うとおりだ。農業が得意なイジェたちが甜菜は栽培しなかった理由がわからないね」

「イジェ。その点についてはなにか聞いている?」

「ハタケではソダテラレナイって、リユウはキイテナイ」

「そっか」


 旧大陸の甜菜とは違って、新大陸の甜菜は栽培するのが難しいらしい。


「野生の甜菜……、だけどこの辺りって森ばかりだよな」

「ウン。モリバカリ」

「森の中で育つ根菜。どんな感じで生えているのか興味あるな」


 そんなことを話していると、俺が乗っていたヒッポリアスが一声鳴いた。


「きゅお!」

「ん? どうした?」

『ちかい! においした!』

「わふ!」


 シロもヒッポリアスと同意見らしい。

 どうやら、フィオの判断は正しかったようだ。


「フィオはすごいな」

「わふぅ!」

「嗅覚はシロの方が鋭いのに、よくわかったね」

「わふふ」


 俺がフィオを褒めると、少し真面目な顔をしたケリーがフィオの頭を撫でる。

 そうしながら、ケリーはぽつりと言った。


「子供は味覚が鋭いという」

「そうなのか? というか何の話だ?」


 何の話しかわからないが、ケリーは真面目な顔をしているので、続きを待つ。


「身体が小さいから、毒物に多い苦みや、腐敗した物に多い酸味を特に強烈に感じるんだ」

「ふむ? それで?」

「大人は味覚が子供に比べて鈍い。だが、苦みを含めた味を楽しめるようになる」

「……まあ酒とかお茶とか苦かったり酸っぱかったりするしな」


 苦みのある美味しい野菜もある。


「鈍いからこそ、その奥にある淡い味がわかったりするものなんだよ」

「へー。そうなのか」

「そか!」


 フィオもふんふんと真面目な顔で聞いていた。


「ヒッポリアスもシロも嗅覚が鋭いからこそ、どこから匂いが来ているのかわからなかったのだろうね」

「ふむ?」

「甜菜の採取地は複数あるのだろう?」

「アル」

「複数の採取地からそれぞれ匂いが風に乗って混ざり合って漂ってきていたんだ」

「なるほど。ヒッポリアスやシロには全方向から匂いが漂ってきていると思ったと」

「そういうことだ。だが、フィオはシロたちほど鋭くないから、最も近い、もしくは最も強い匂いを放つ採取地の場所がわかったんじゃないかな?」


 もっと言えば、フィオは最も強い匂いしか嗅ぎ取れなかったと言うことなのかもしれない。


「そかー」


 フィオは感心している。


「ヒッポリアス、シロ、ケリーの意見をどう思う?」

『そうかも!』

「ががう!」

「ケリー。そうかもしれないらしいぞ」

「そうか、それならよかった。とはいえ、未だ仮説に過ぎないけどね」


 ケリーは嬉しそうに、フィオ、シロ、ヒッポリアスを撫でていく。


 それから、ヒッポリアスとシロを先頭に歩いて行く。

 ヒッポリアスもシロも、そしてフィオも、どちらに甜菜があるのか確信しているようだ。

 足取りがしっかりしている。


 しばらく歩いて、シロが急に足を止めた。

 そんなシロを見て、ヒッポリアスも足を止めた。


「どうした?」

「きゅお?」


 ヒッポリアスも、俺と一緒に、シロに尋ねている。


「ゎぅ」


 シロが警戒した様子で小声で鳴いた。

 同時に、シロが念話でフィオに教えたのだろう。

 フィオも、警戒して身構えた。

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