166 甜菜を探しに行こう

 フィオとヒッポリアス、シロは、壺の中の匂いをしばらく嗅いだあと、顔を壺の中からだした。


「匂いは覚えられた?」

「うん!」

「きゅうお」「わふ」


 ヒッポリアスとシロに尋ねたのだが、フィオも元気に返事をする。

 どうやら、フィオも甜菜の匂い探索に参加する気らしい。

 フィオの嗅覚の鋭さは、シロやヒッポリアスほどではない。

 だが、フィオたちは皆自信がありそうだ。


「ふぃお。てんさいみつける!」

「そっか。あまり無理しないようにね」

「わかた!」


 そして、俺は魔法の鞄に、甜菜を入れていた壺を収納することにした。


「フィオ、ヒッポリアス、シロ。匂い忘れたらいつでも言ってくれ」

「わかた! でもふぃおさすれない!」

『ひっぽりあすもわすれない!』

「わぁう」

「そっか、でも遠慮はしなくていいからね」


 壺を収納し終えると俺はイジェに尋ねた。


「イジェ。他に持っていきたい物はない?」

「ウーン。ナイカモ」

「魔法の鞄にはまだ余裕はあるから遠慮しなくていいんだよ」

「ヨユウがアルノ?」


 イジェは驚いたようだ。

 村に残された衣服と靴。複数の砂糖壺。

 それに加えて大きな甜菜を入れる壺まで魔法の鞄に入っているのだ。


「高級品だからね」

「ソッカー。スゴイね」

「本当に、必要な物はない?」

「ウーン……。イマはトクにナイカモ」

「そっか」

「ウン」

「あとで思いついたら、また来れば良いからね。遠慮せずにいってくれ」

「ワカッタ!」


 イジェの村でやるべきことは、ひとまず完了した。

 いよいよ次は甜菜探しである。


 俺は遊び始めた子魔狼たちを籠に入れる。

 そして、フィオとヒッポリアス、シロに声を掛ける。


「フィオ、ヒッポリアス、シロ。頼んだ。いよいよ甜菜探しだよ」

「わかた」

「きゅお!」

「わふう!」


 ヒッポリアスは、イジェの家を出るとすぐに大きくなった。


『のる?』


 ヒッポリアスは期待の籠もった目で、こちらをチラチラ見ている。

 尻尾も期待を反映して元気に揺れていた。


「いや、俺も運動不足になりがちだから――」

「……きゅお」

 乗らずに歩こうと思ったのだが、ヒッポリアスがしょんぼりとする。

 尻尾がしなしなと力なく垂れ下がる。


「と、思ったけど、少し疲れたし、乗せてもらおうかな」

「きゅおきゅお!」


 ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を振った。

 早速、俺はヒッポリアスの背に乗る。

 籠の中に入った子魔狼と、俺の肩に乗ったピイも一緒だ。


「イジェはどうする?」

「イジェはアルクよ。テンサイをミツケヤスイシ」

「そっか、フィオは匂いを嗅ぐから乗らないよな」

「うん! ふぃおはあるく!」

「でも、疲れたら言うんだよ」

「わかた!」


 フィオは張り切っているようだ。


「ケリーも乗るか?」

「今は大丈夫だよ。帰りに乗せてもらうかも」

『つかれたらいって!』


 ヒッポリアスはふんふんと鼻息を荒くしている。


「疲れたら言うようにだって」

「そうか、ヒッポリアスは優しいね」


 ケリーはヒッポリアスを優しく撫でた。


 それから俺たちはイジェの村を出て、甜菜を求めて歩いて行く。


 少し歩いたところで、ヒッポリアスとシロが足を止める。


「きゅうおー」

「がうがう」


 ヒッポリアスとシロが相談しているようだ。

 甜菜がどの方向にあるのか、わからないらしい。


「ヒッポリアス、シロ、甜菜の匂いはしているの?」

『すこししてる』

「がう」

『でも、どっちからにおいするのかわかんない!』

「そっか。風も吹いているし、弱い匂いだと判断しにくいよな」

『そう!』

「ががあう」


 新大陸の甜菜の匂いはそれなりに強いのだろう。

 シロたちより嗅覚が鋭くない、イジェの一族でも鼻で見つけられるぐらいなのだ。


「イジェ、甜菜の採取地がどちらの方角かわかる?」

「ウーン。イジェはトリにイッタコトナイけど……、タシカ」


 イジェは思い出そうとしているようだ。

 行ったことが無いとは言え、話を聞いたことはあるのかもしれない。


「キョネンは、アッチとアッチからモッテキテタ」

「年によって違うのか?」

「ネンとイウより、ソノトキにヨッテチガウ」

「ほほう。興味深い」


 ケリーが関心を持っている。


「つまり、甜菜の採取地は複数あるんだね」

「タブン、ソウ」

「そして、イジェは連れて行ってもらえなかったと」

「ウン。オトナにナッタラ、ツレテイッテクレルってイッテタ」

「宗教的な理由?」

「チガウよ。コドモはアブナイからダメって」

「ほほう?」


 ケリーは俺を見る。


「テオさん、どう思う?」

「子供は危ないってことは、採取地は危ないところなんだよな」

「道中が危ないのかも知れないよ?」

「その可能性もあるね。崖の途中にあるとか?」

「旧大陸の甜菜は崖には普通ならないが、新大陸だから、断言はできないよね」


 ケリーは真剣な表情で考えている。


「だけど、甜菜は地中にできる作物だから、岩の崖とかだとイメージできない」


 甜菜は大根などと同じ根菜なのだ。

 野生の甜菜でも、土の中になっている可能性が高い。

 崖の途中が採取地である可能性は、あまり考えないで良いかもしれない。

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