【2024年1月14日6巻発売！】変な竜と元勇者パーティー雑用係、新大陸でのんびりスローライフ

165 甜菜の匂いを覚えよう

「フィオ。これがイジェたちが作った砂糖だよ」

「ちゃいろい！」

「砂糖はそういう色なんだよ」

「そかー」

　ケリーがスプーンで掬って、フィオに砂糖を渡す。

　それをフィオが口に入れる。

「うまい！　すごい！　うまい！」

　フィオは感動している様子だ。

　魔狼に育てられたフィオは砂糖を食べるのが初めてなのだ。

　果物を食べることで、糖分を摂取したことはあっただろう。

　だが、純粋な砂糖は、そういうものとは違う甘さだ。

『くろも！　くろも！』「ぁぅぁぅ」『たべる』

　子魔狼たちも早く食べさせろと騒いでいる。

「少し待ってるんだよ」

　俺は砂糖を三つの小皿に少しずついれる。

　それを、子魔狼たちの前に置く。

「きゃふきゃふ！」

　子魔狼たちは一瞬で舐め終わる。

「美味しかった？」

『もっともっと！』「ぁぅ」『うまい』

「そうか。美味しかったか。よかったなぁ」

『もっと！』

「だーめ。食べ過ぎは良くないからね」

　騒ぐクロをなだめておく。

　やはり、魔狼も甘い物が好きらしい。

　俺は肩の上にのるピイにも尋ねる。

「ピイも一口どうだ？」

『たべる』

　ピイも砂糖に興味があるらしい。

　俺はスプーンで掬った砂糖を、肩の上のピイに差し出す。

　それをピイはたべた。

「ぴっぴい」

「どうだ？」

『うまい。でも、にくのがうまい』

「そっか」

『ぴい。にくよりておどーるのがうまい』

「……そっか」

　ピイは砂糖も嫌いではないらしい。

　だが、肉類の方がより好きなようだ。

「スライムはそうなんだね。参考になるよ」

　ケリーがメモを取っていた。

「シロ、ヒッポリアス。甜菜の匂いは覚えた？」

「わふ！」

「おお、すごい、頼りにしているよ」

　俺はシロの頭を撫でる。

　どうやら、シロには自信があるらしい。

『ひっぽりあすも、おぼえた！』

　ヒッポリアスも、自信満々に尻尾を揺らしている。

「そうか、ヒッポリアスは偉いなぁ」

　ヒッポリアスのことも撫でた。

　そこにイジェが戻ってくる。

「サトウ、ゼンブ、トッテコレタ！　ツイデにセウユとミィスオも！」

「おお、それはすごい。みんな喜ぶな」

　セウユとミィスオはイジェたち一族に伝わる調味料だ。

　大豆を原料にした独特のそれでいてうまい調味料なのだ。

「アリガト」

　そういって、イジェは魔法の鞄を返してくれた。

「うん。拠点に帰ったら、食料保管用魔法の鞄に、全部移し替えておくな」

「オネガイ。タスカル」

　食堂兼台所には、ヴィクトルの持ってきた魔法の鞄が食料保管用として設置されているのだ。

「イジェ。他に回収しておきたいものはあるか？」

「ウーン。テンサイをイレテイタツボもカイシュウシタイかも」

「ああ、そうだな。確かに回収しておきたいな」

　大きな壺なので、甜菜を水に浸けるのに便利だ。

　製法もあとでじっくり鑑定したい。

　俺が大きな甜菜を入れる壺を魔法の鞄に入れようとすると、フィオが俺の袖を掴んだ。

「てんさい、はいてたつぼ？」

「そうだよ」

「ふぃおもにおいかぐ」

　そういうと、フィオはぴょんと跳んで壺の入り口に飛びついた。

　フィオの身体能力は、高いようだ。

　そして上半身を中に突っ込む。落ちそうでこわい。

「落ちるなよ」

「だいじょぶ！」

　念のために、俺はフィオの足を掴んでおく。

「フィオ。そんな難しい体勢を取らなくてもいい。壺を横にするから」

「むむ？」

　フィオは壺から上半身を出すと、ぴょんと飛び降りる。

「少し待ってな」

　俺はそうっと、壺を横に倒した。

　かなり重い。ケリーとイジェの二人がかりでも安全に倒すのは難しかろう。

「これで、危なくないよ。思う存分匂いを嗅いでくれ」

「ありがと！」

　フィオは四つん這いになって、壺の中に顔を突っ込む。

「一応、清潔な壺だから、中に入ったりはダメだよ」

「わかた！」

　地面に四つん這いで這っているフィオの手の平やひざはそれなりに汚れているのだ。

　その状態で壺の中に入ったら、汚れてしまうだろう。

「まあ、改めて使うときはピイに頼んで洗浄してもらおうと思うけど」

『まかせて。ぴっぴぃ！』

「ピイ、エライ！」

　イジェに褒められたことが嬉しいのか、ピイがプルプルする。

　ピイは本当に大活躍だ。

　特に新大陸での俺たちの暮らしにおける衛生面での活躍はめざましいものがある。

「そうだ。ヒッポリアスとシロも念のためにもう一度嗅いでおくか？」

『かぐ！』

「わふ」

「中に入ったら駄目だからね」

「きゅおきゅお！」

「わぅ」

　わかっているよと言いながら、ヒッポリアスとシロは壺に顔を突っ込む。

　フィオ、ヒッポリアス、シロが仲良く並んで、お尻をこちらに向けている。

『くろも！』「ゎぅ」『だめ』

　クロは壺の中に入りたくなったらしい。

　短い手足で、一生懸命、歩いていこうとする。

　そんなクロをロロとルルが甘噛みしたりして止めていた。

「クロ。だーめ」

「きゅーん」

　別に叱ったわけでは無いのだが、クロは甘えてお腹を見せる。

　そんなクロのお腹を優しく撫でた。

「ロロとルルも、クロを止めてくれてありがとうな」

「ぁぅ」『なでて』

「どれどれ」

　俺はロロとルルもいっぱい撫でた。