160 つかの間の休憩
水を飲んだ後、ケリーはふうっと息を吐き出す。
「ありがとう。やはり冷えた水はうまいな。水筒の水はどうしても生ぬるいからな」
「それなら良かった。イジェ! 喉渇いてないか? 水があるぞ」
俺は村の家の中に入っているイジェに大きな声で呼びかける。
「アリガトー。ソッチにイクネ」
イジェは一抱えの服を持って帰ってくる。
「テンピボシ、シタイ」
「天日干しか。空き家にしまわれていたんだもんな。少し待ってくれ」
俺は魔法の鞄から綺麗な布を取りだして、日の当たる地面に敷いた。
そして、イジェから服を受け取って、その布の上に並べた。
衣服に付いた虫や湿気などを取るためだ。
服を並べ終わっると、イジェにコップに入った水を渡す。
「アリガト。ワスレテタけど、ノド、カワイテタみたい」
「集中していると忘れるよな」
「テオさんもノンダホウがイイ」
「そうだな、俺も忘れずに頂くよ。ピイは?」
『いらない』
「そっか」
夏に水を飲み忘れるのは非常に危険なのだ。
それで倒れた冒険者は何人もいる。
故郷の農村でもたまにいた。
「せっかくだし、休憩しようか。ついでにおやつも食べておこう」
おやつと言っても焼いた肉とか、イジェが美味しく調理してくれた山菜などである。
今の俺たちに、おやつと食事に本質的な区別はないのだ。
俺はお皿を取り出して、皆におやつを配っていく。
みんなで日陰に集まって、冷たい水を飲みながら軽く食べ物を食べる。
「てんきいい!」
「そうだな。雲一つないな」
「あめよりいい!」
「そうだなぁ」
フィオは晴れの日が好きらしい。
魔狼との暮らしの中では、雨で身体を冷やせば死にかけなかった。
だから、雨より晴れの方が好きなのだろう。
「アメもフラナイト、ハタケがコマル」
「もし、畑が乾きすぎたら、言ってくれ。水を運ぶよ」
「アリガト」
魔法の鞄があれば、そう難しいことではない。
ピイの臣下であるスライムたちが浄化してくれた下水を撒ければ良いのだが、残念ながら距離がある。
不可能ではないが、資材がそれなりに必要になるだろう。
「イジェ。服はどうだった?」
「ムシにクワレテイルのもアッタ。デモ、ダイタイキレイ」
人が住まなくなった家は急速に朽ちるという。
中にある衣服も、傷むのが早いに違いない。
その割には綺麗に残っていたようだ。
イジェも嬉しそうに尻尾を揺らしている。
『ぴいが、むしたべる?』
「ん? ああ、そうか。ピイは虫退治が得意だもんな。お願いするよ」
「ぴぃ~」
ピイは俺の肩の上からぴょんと飛び降りる。
そして、天日干し中の衣服まで移動すると、全体を覆うように、べたーっと薄く拡がった。
ピイは服に付く虫だけでなく、見えないカビまで食べてくれているのだ。
湿っていたら水も吸収してくれるのである。
「衣服の手入れは、ピイに任せておけば安心だな」
『まかせて。ぴっぴい』
ピイは嬉しそうにプルプルしていた。
「テオサン。クツもイル?」
「靴か。あれば嬉しいかな。サイズが合わないとしんどいが……。調整だけならできなくもないし」
「ソッカー。ワカッタ」
「冬用の靴が特に欲しいかな、もちろん夏用の靴も欲しいんだが……」
「ワカッタ!」
冒険者たちの履いている靴は基本的に春夏用だ。
冬用の靴も持っている者もいるだろうが、余裕があるわけではない。
限られた荷物に、使うかどうかわからない冬用の靴を入れるかどうかは難しい判断になる。
「傷んでいる靴や服も持ってきてくれるとありがたい」
「ドウシテ?」
「製作スキルを使って修繕する方が、一から作るより楽だからね」
「ワカッタ!」
イジェは元気に返事をしてくれる。
無くなった家族の思い出でしんみりするかと思ったが、そんなことはなかった。
もしかしたら、敢えて元気に振る舞っているのかもしれない。
俺は水をゆっくり飲んでいるイジェの頭を撫でると、立ち上がってピイの所に行く、
「ピイ、どうだ?」
『おわった!』
「仕事が早いな。さすがはピイ」
「ぴっぴい」
ピイは嬉しそうに鳴くと、俺の肩に戻ってくる。
俺はピイのことを撫でると、イジェが運んでくれた服を手に取った。
よく乾いていた。
匂いも嗅いでみる。カビ臭さなど嫌な臭いは全くしなかった。
「うん。良い感じだ」
「ぴい」
「ドウ? ミンナ、キレルカナ?」
水を飲んで、おやつも食べ終わったイジェがやってくる。
「うん、これだけしっかりしていたら、大丈夫だよ」
「ヨカッタ」
俺は子供用の服を手に取る。
「フィオ、こっちに来て」
「なになに?」
やってきたフィオにその服を当ててみる。
「サイズは……問題なさそうだな」
少し大きめだ。
だが、冬に着るならば、厚着になるし、大きいほうがよい。
それに子供の身長はすぐに伸びる。
「ヨカッタ! ソレ、ムカシ、イジェがキテタフク」
「そっか。大事に着ていたんだな」
「ウン。フィオがキテクレタラウレシイ」
「やたー! ありがと!」
フィオは嬉しそうに尻尾を振り、イジェもとても嬉しそうに微笑んでいた。
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