159 イジェの村

 俺はボアボアとボエボエの親子を撫でまくる。

 ボアボアは、直前までのた打っていたのだろう。

 結構ドロドロだ。


 ボアボアたちを撫でていると、飛竜が鼻先を俺の背中にくっつける。


「ががあ」

「飛竜も気に入ってくれたか。良かったよ」


 飛竜も新居を気に入ったと言ってくれる。

 俺は飛竜の鼻の上、犬で言うところのマズルの部分を撫でた。


「がぁ」


 飛竜は気持ちよさそうに目をつぶっている。


「あ、そうだ。拠点の廊下が完成したから、今度見に来てよ」

「ががあ」

「ぶぶい!」


 飛竜もボアボアも、近いうちに見に来てくれそうだ。


 しばらく飛竜とボアボア、ボエボエと遊んでから、俺たちは出発することにした。


「気をつけてねー」

「があーお」「ぶぼぶぼ」「ぶーい」


 ジゼラと飛竜、ボアボアとボエボエに見送ってくれる。

 それから、イジェの村に向かってゆっくり歩いて行く。


 このパーティーの中で、俺が籠に入れて運んでいる子魔狼たちを除けば、一番体力が無いのはフィオだろう。

 フィオの次はイジェだろうか。

 だから、フィオとイジェに注意を払いながら歩いて行く。


「フィオもイジェも疲れたら、すぐにいいなさい」

「だいじょぶ!」

「ツカレテナイ」

「いつでも、ヒッポリアスが背中に乗せてくれるからな」

「きゅおきゅお!」


 どうやら、ヒッポリアスは背中に乗って貰うことが好きなようだ。

 目を輝かせて『のる? のる?』と聞いている。


「だいじょぶ!」

「……きゅお」


 フィオに大丈夫と言われて、ヒッポリアスは少ししょんぼりしていた。


「フィオもイジェも運動しないとだからな」

「きゅうお」

「どれ、私が乗ろうではないか」

「きゅお?」


 しょんぼりしたヒッポリアスをみて、ケリーがそんなことを言う。


「ヒッポリアス、しゃがんでくれないか?」

「きゅうお」


 素直にしゃがんだヒッポリアスの背にケリーがよじ登る。


「ヒッポリアス、ありがとう」

「きゅお!」


 ヒッポリアスは乗ってもらえて嬉しそうだ。


「うむ。馬よりも視界が高くていいな」

 そんなことを言いながら、ケリーはヒッポリアスの背中を撫でている。


 さらに歩いて、イジェの村が見えてくる。

 その頃には籠の中の子魔狼たちはみんな気持ちよさそうに眠っていた。

 俺が歩くことで籠が揺れて、ゆりかごのようになったのかもしれない。


「ツイタ!」

「手伝うことはあるか?」

「ウン。イジェがココまでモッテクルから、ハコブノをオネガイ」


 魔法の鞄に入れて運ぶだけでいいらしい。

 それ以外はイジェがやってくれるようだ。

 自分の村だからこそ、自分の手でやりたいのかもしれない。

 気持ちはわかるので、イジェが村を駆け回るのを、ゆっくり眺めてながら待つ。


「わふう」

 シロが甘えるように、鼻先で俺の手をツンツンしてくる。


「シロに頑張ってもらうのは、この後だからね」


 そういって、シロのことを撫でまくる。

 シロの毛並みは、とても美しい。手触りも良い。


「きゅうお」

「はっはっはっはっ」


 大きいヒッポリアスも、シロのことを舐める。

 シロは嬉しそうに尻尾を振って、はぁはぁと息をしていた。 


「そうだ。今のうちに水でも飲もうか」

「きゅお」「わふう」

「のどかわいた!」


 夏の昼間にそれなりの距離を歩いたのだ。

 喉が渇いて無くても、水はちゃんと飲むべきだ。

 俺は魔法の鞄から皿とコップを取りだして水を入れる。


「はい、フィオ」

「ありがと!」


 フィオはコップを受け取って、ごくごくと飲む。


「うまい!」

「よかったよ。ピイが浄化してくれた冷やした水だからね」

「ぴい」


 ピイは自慢げに、俺の肩の上でプルプルしていた。

 魔法の鞄に入れておけば、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいままだ。


「ヒッポリアスとシロも飲みなさい」

「きゅおきゅお!」「わふう」

「あ、私は降りた方が良いな」


 ケリーはヒッポリアスの背から降りてくる。

 そして、ケリーはヒッポリアスのお腹を優しく叩く。


「ありがとう。また乗せてくれ」

「きゅうお!」


 出会ったばかりの頃、ヒッポリアスはケリーのことを警戒した様子だった。

 今ではケリーとも随分と仲良くなった。


 ケリーが降りるとヒッポリアスは小さくなった。

 そうしてから、皿に入れた水をごくごく飲む。


 身体の大きなヒッポリアスが喉の渇きを癒やすためには大量の水が必要だ。

 だが、小さくなれば、少量の水で喉の渇きを癒やすことができる。


「ヒッポリアスは賢いな」

「きゅうおきゅうお」


 それから、俺はコップに入れた水をケリーにさしだす。


「ケリーも飲んでくれ」

「ありがとう。だが、私は水筒を持っているんだが……」

「魔法の鞄に入っている水の量の方が多いからな。水筒の水はいざというときのために取っておけば?」


 もし遭難したときのために、水筒の水は取っておくべきだ。

 遭難することなど、考えにくいが、魔法の鞄に入っている沢山の水から飲んだ方が良いだろう。

 それに俺にはピイもいる。

 ピイがいれば、汚れた水でも、一瞬できれいにしてくれるのだ。


「じゃあ。お言葉に甘えて、いただくよ」


 そういって、ケリーは俺の差し出したコップを受け取りゴクリと飲んだ。

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