158 イジェの村にむけて出発しよう

 お昼ご飯を食べ終わった後、後片付けをしようとしたら、冒険者達にとめられた。


「俺たちは、お昼から休むし、後片付けぐらいやっておくよ」

「ああ、テオさんたちは出発の準備をしておいてくれ」

「わるいな。ありがとう」


 ありがたく、お言葉に甘えて準備をする。

 だが、準備と言っても、さほど時間はかからない。

 子魔狼たちを抱っこするための抱っこひもをつけるぐらいだ。

 魔法の鞄は常時持っているので、心配ない。


「きゅっきゅお」

 準備をしていると、小さい姿のヒッポリアスが足元に身体をすり寄せてくる。


「どうした?」

『だっこ』

「ほいほい」


 俺はヒッポリアスを抱っこする。


「きゅお~」


 ヒッポリアスは俺の顔をベロベロなめる。

 甘えたいのだろう。

 午前中、ヒッポリアスは俺から離れてイジェの畑仕事を手伝っていた。

 だから、寂しかったのかもしれない。


「よーしよしよし」

「きゅおきゅお」


 俺はヒッポリアスのことを撫でまくった。

 ヒッポリアスが満足するまで撫でた後、まだ、ヒッポリアス用の廊下の扉をチェックをしていないことを思い出した。

「そうだ、ヒッポリアス、一度おおきくなってもらえるか?」

「きゅお?」

「ヒッポリアスが、大きいまま家に入れるように大きな扉をつけたんだ」

『そっかー』

「一度ためしてみてくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスは大きくなって中庭に移動する。


「ヒッポリアスこの扉なんだが……。ヒッポリアスでも開けやすいようにしたつもりだ」

「きゅうお!」


 ヒッポリアス用の廊下の扉は、ヒッポリアスの家の扉と同じ用に作ってある。

 ヒッポリアスが口で開けやすい構造になっているのだ。


「小さくなれば簡単に入れるんだが、大きいままでも入れると便利だろう?」

『ありがと!』


 ヒッポリアスは尻尾を振りながら、扉の取っ手を口に咥えて引っ張て開ける。


『あいた!』

「ヒッポリアスは器用だなぁ」

「きゅおきゅお!」


 廊下の扉を開けると、廊下を横切って、ヒッポリアスの家の扉も開ける。

 そして、中に入っていった。


『はいれた!』

「使いにくいところはないか?」

『ない!』

「それなら良かったよ」

「きゅうお~」


 ヒッポリアス用の扉が無事機能することを確認した後、イジェの村に向けて出発する。


「クロ、ロロ、ルルは、前に作った籠に入っておくれ」

『はいる!』「ぁぅ」『わかった』


 籠は以前、山菜採りに向かう際に、子魔狼たちを運ぶために作ったものだ。

 その籠を身体の前で吊り下げて、中に子魔狼たちを入れていく。

 それなりに重い。

 だが、いい運動になるので、丁度良い。


 そして、大きい姿のヒッポリアスと、イジェとフィオとシロと一緒に歩き出す。

 もちろんピイは俺の肩の上に乗っている。


「イジェの村か。行ってみたいね」

「ああ、そうだな。私もイジェの村には行ったことが無いんだ」


 そんなことを言いながらジゼラとケリーが付いてくる。

 ジゼラはボエボエを抱っこしていた。


「え? ジゼラとケリーも行くのか?」

「問題があるのか?」


 ケリーが首をかしげながら聞いてくる。


「いや、問題は無いが……どうしてまた?」

「甜菜を探すのだろう? 新大陸の甜菜の植生が知りたいからな」


 そう言われたら確かに、それはケリーの仕事だ。

 ケリーの本職は魔獣学者だが、植物を含めた生物全般に造詣ぞうけいが深いのだ。

 野生の甜菜があるときけば、どのような環境でどのように生えているのか知りたいだろう。


「で、ジゼラは?」

「僕は行かないよ? ボエボエをボアボアの家に送り届ける役目があるからね」


 どうやら、たまたま途中まで一緒になっただけらしい。

 てっきり、ジゼラも付いてくると言うとばかり、思っていた。


「ボアボアとボエボエと遊びたいからねー」


 ジゼラは拠点に引っ越してきたばかりのボアボア親子が寂しくないように気を使っているのだろう。

 ボアボアとボエボエに名前をつけた責任も感じているのかもしれない。


「そうか。ボアボアたちのことは頼む」

「うん。任せて。テオさんも、何か僕の手が必要なら言ってね」

「ああ、そのときは遠慮無く頼むよ」

「うん」


 ジゼラはご機嫌に付いてくる。


 拠点から少し歩くと、ボアボアの家が見えてきた。


「があがあ!」


 俺が近づいてきたことに気づいた飛竜が羽をバタバタさせながら走ってくる。

 飛竜とは先ほど出会ったばかりだ。


「飛竜、お昼ご飯は食べたか?」

「があう」

「ふむ。朝ご飯を食べたからお昼はいらないのか」

「がう」


 身体の大きな飛竜だが、食事量は少ないのだ。

 俺と飛竜の声を聞いて。ボアボアも駆けてくる。


「ぶぶい、ぶぼあ」

「ボアボアも元気そうだな」

「ぶぶぼあ」

「家の使い心地はどうだ?」


 ボアボアの家は昨日作ったばかり。

 ボアボアたちは、昨夜は初めて新居で過ごしたのだ。


「ぶいぶぶいぶい」

「ぶ~お」


 ボアボアと、ジゼラに抱っこされたボエボエが、よく眠れたと言ってくれる。

 特にボアボアはこんなにゆっくり眠れたのは初めてかもしれないとまで言ってくれた。

 野生生活だと、安心して眠れることは中々少ないのだろう。


 新居を気に入ってもらえたようでとても嬉しい。

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