157 防寒具について

 冒険者たちは、各自それなりの準備はしてこちらに来た。。

 新大陸が寒い可能性があることは、指摘されてはいたのだ。

 だから、一応荷物の中に防寒具の類は混ぜて持ってきてある。


「どうやら、想定以上に冬は寒いようだし、持ってきた防寒具では足りない可能性があるからな」

「確かに。全員が十分な防寒具を用意できているわけでもないですし……」

「それにフィオは防寒具を持っていないからな。ケリー。流石にフィオ用の防寒具はないだろう?」


 俺は近くにいたケリーに尋ねる。

 いま、フィオが着ている服はケリーが旧大陸から持って来てくれたものだ。


「そうだね。防寒具は荷物になるからね。持ってきてないんだ。すまない」

「いや、当然だと思うぞ」


 夏服より冬服の方が布が厚くなる。

 どうしても、防寒具は荷物になるのだ。


「フィオのための防寒具は最優先だな」

「わふう? けがわあるよ?」


 これまでフィオは毛皮を巻いて凌いできたのだ。

 魔狼たちが獲ってきた鞣しもしていない魔猪の毛皮を巻いていたのだ。

 腐るたびに交換していたらしい。


「毛皮は暖かいもんな。でも腐るたびに交換するのはもったいないし」

「わふ?」


 貴重な毛皮を使い捨てにするのはもったいない。

 きちんと皮をなめして、長く使えるようにした方がよいのだ。


「毛皮を腐らないようにして加工すると、便利なんだよ」

「わふう! すごい!」


 興奮気味のフィオが尻尾を勢いよく振る。


 そのときフィオの隣に座ってご飯を食べていたイジェが言う。


「アノ」

「イジェ、どうした? あ、イジェは防寒具もっているか?」


 イジェは、元々この地域で暮らしていた人間だ。

 村を滅ぼした魔熊モドキに荒らされていなければ、防寒具はあるだろう。


「ムラにモドレバ、フィオのブンもアル」

「おお? そうなのか?」

「ウン。ミンナのフク、キルヒト、もうイナイ」


 滅んでしまったイジェの村の跡地から使えるものを持って来てはいる。

 だが、その時持ち出したのは種や農業道具や調味料、イジェの服が中心だった。


「フィオ、イジェよりチイサイ。デモ、キレルとオモウ」

「もし使わせてもらえるなら、助かるよ」


 俺の製作スキルでも衣服や靴は作れる。

 だが、衣服や靴に余り詳しくないのだ。

 冒険中に破損したものを直したことはなんどもあるとはいえ、専門家ではない。

 見た目など関係なく使えれば良いという直し方だ。

 それに、衣服や靴は身体のサイズをきっちり測っても、うまく作れないのだ。


 動きやすくするには、どこのサイズを大きめにすれば良い等のコツが、いまいちわかってない。

 調べておけば良かったのだが、冒険中に衣服や靴を一から作る機会はほぼ無かったのだ。

 イジェの村の防寒具を使わせてもらえるなら、とても助かる。

 

「わふう! いじぇありがと!」

「ウン、トウチャンのフクもイクツカアル」


 村から使えるものを持ち出したとき、イジェは俺たちの防寒具が不足しているとは思わなかったのだろう。

 あのとき、フィオはケリーから貰った綺麗な服を着ていた。

 まさか、フィオが服に困っているとは思わなかったに違いない。


「もし、イジェさんの防寒具を使わせてたいただけるなら、とても助かります」


 ヴィクトルに言われて、イジェも笑顔で返す。


「ウン! トウチャンタチも、フクもキテモラエタホウがウレシイとオモウ」

「そうか。イジェ。農作業が暇なときにでも一緒に行こう」

「コレカライク?」

「農作業は良いのか?」

「ウン。タネもマイタシ。アタラシクカイコンシタトコロはボアボアがノタウッテクレテイルトコロダカラ」


 そういえば、ボアボアがのた打つといい畑になるといっていた。

 理由はわからないが、そういうものらしい。

 旧大陸のキマイラの毛皮にそういう効果があるのかもしれない。

 もしくは魔力が特殊なのかもしれない。


「ダカラ、シゴトはナイ!」

「そうだな。午後からは俺たちもテオさんのことを手伝うつもりだったからな」

「テオさんが仕事を終えてて、びっくりしたよ」

「俺は子魔狼たちと遊ぶつもりだった」


 どうやら、本当に今日の分の畑仕事は終わっていたようだ。


「そっか。でも、午前中働いていたんだし、イジェはゆっくりしてもいいんだよ?」


 防寒具は、冬が始るまでに取ってくれば良いのだ。


「テンサイもミツケタイシ。アマイのタベタイ」

「甜菜か。それは大事だな。じゃあ行こうか。シロもお願いできるか?」

「わふう!」


 シロは張り切っているようだ。


「ふぃおもいく」

『いく!』「ぁぅぁぅ」『いっしょ』


 フィオや子魔狼たちも一緒に来てくれるらしい。


『おおきくなる?』

 ヒッポリアスは付いてきてくれるのが当たり前といった感じだ。


「そうだな。じゃあ、ヒッポリアスには大きくなって貰おうかかな」

「きゅお!」


 小さいヒッポリアスと子魔狼たちを抱っこするのは、少し大変なのだ。

 俺とイジェとヒッポリアス、ピイ、子魔狼たちと、フィオとシロで出かけることになりそうだ。

 ヒッポリアスの背中に乗せてもらえれば、道中も凄く楽だろう。


「あ、そうだ。イジェ。綿のようなものはあるかな?」


 イジェの村の服だけでは足りない気がする。

 だから、いざとなれば、綿花から綿を作って、服を作りたい。


「メン? アルよ」

「そこは遠いかな?」

「スコシトオイ」

「少し遠いのか。なら時間があればいこうか」

「ウン。デモ……。シュウカクのジキはアキ」

「秋か。そうなると、行っても無駄かー」

「ウン」


 そして、昼ご飯を食べた後、イジェの村に向けて出発することになったのだった。

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