154 ヒッポリアスの通り道

 フィオが廊下をかけながら、楽しそうに声を上げる。


「わふぅ!」


 窓ガラスや屋根など、まだ仕上げは残っている。

 だが、大体の廊下の形ができあがった。

 俺は中庭の中心まで歩いて、改めて廊下をぐるりと見回した。


 拠点の丘の上にある建物は全部で十棟。

 十棟すべてが、拠点の中心、つまり中庭に入り口を向けて建っている。

 各建物を出ると廊下に繋がっている構造だ。

 そして、各建物の間には扉を設置してある。


「わふ?」


 フィオはその扉を一つずつ順番に開けて顔を見せてくれる。


「扉に変なところはないか?」

「ない!」


 フィオは扉を開けて、顔を見せてから、扉を閉めて、次に行く。

 扉の不具合を調べてくれているらしい。とても助かる。


 俺は中庭側から、廊下をぐるりと見回した。

 拠点の北側には「食堂兼キッチン」がある。

 食堂から南西側に廊下を進むと「冒険者の宿舎」が二棟が順番に並んでいる。

 その隣に大きな「ヒッポリアスの家」が建っている。

 ヒッポリアスの家を通り過ぎたところで、食堂から南西側の廊下は行き止まりだ。


 食堂から南東側に廊下を進むと「冒険者の宿舎」が三棟並んでいる。

 その隣にあるのはみんな大好きな「お風呂」だ。

 お風呂の隣は、ヴィクトルたちが倒れたときに担ぎ込んだ「病舎」がある。

 病舎の隣、食堂から真逆の位置、拠点の南にあるのが「トイレ」だ。 

 食堂から南東から南に延びる廊下はトイレで行き止まりである。


 廊下の切れ目は、「ヒッポリアスの家」と「トイレ」の間だ。

 つまり、拠点の南南西である。


「トイレに一番遠いのはヒッポリアスの家だが……、各戸にも一つずつトイレは設置済みだしな」


 各宿舎の共用部に張り出す形で、トイレは追加設置済みだ。

 ぐるりと遠回りをするか、屋外に一度出ないとトイレできないと言うわけではない。

 ヒッポリアスの家のトイレで用を足せばいいだけだ。


「うん。問題なさそうだな」


 構造的にも致命的な失敗はないと思う。


「わふ?」


 フィオがトイレ側の廊下の突き当りの扉を開けて顔を出す。

 ヒッポリアスの家側の廊下の突き当りから、ぐるりと回ってくれたのだ。


「どうかな? フィオ。何か気付いたことはないか?」

「うーん」


 フィオは真面目な顔で考えながら、歩いて俺の方にやってくる。


「ひぽ! はいれる?」

「ん? 入れるが……ああ、大きい姿のままでってことか?」

「そ!」

「それは……入れないな」


 最近、ヒッポリアスは小さな姿で過ごしていることが多い。

 だから、大きな状態のままヒッポリアスが「ヒッポリアスの家」に入ることを想定していなかった。


「夏はともかく冬は大変かもしれないな」

「ねー」


 ケリーが言うには大きい身体の方が寒さに強いと言う。

 小さい状態のヒッポリアス用の防寒具を作る予定ではある。

 だが、冬のヒッポリアスも大きい状態で作業するときもあるだろう。

 その時、雪の中小さくなって、中に入るのでは寒いに違いない。

 暖かい中に入ってから小さくなったほうが良い。


「人間も中に入ってから外套を脱ぐものだしな」

「わふ?」


 魔狼たちに育てられたフィオは外套を着たこともない。

 そして、冬に上着を脱いだこともないのだろう。


「いやなに、気づかせてくれてありがとうな」

「わふぅ」

「ヒッポリアスの家の入口を廊下の反対側にも作っておこう」

「ろかのいりぐち、でかくする?」

「そっちの方がいいかな……」

「わふう?」


 フィオとしては、慣れ親しんだヒッポリアスの家を改造することに抵抗があるのかもしれない。


「そうだなぁ」


 ヒッポリアスの家の扉は、元々、ヒッポリアスが大きいまま入れるぐらいには大きいのだ。


「ヒッポリアスの家の扉、その正面の廊下に同じ大きさの扉を取り付けるかな」


 今、廊下への出入り口は、廊下の突き当りと各建物の間に設置してある。

 各建物の間の出入り口は、中庭側と外側、どちらからでも入れるようになっている。


「ヒッポリアスの家の正面、中庭側に、ヒッポリアスの家と同じ大きさの扉を取り付けておくか」

「わふ!」


 夏の間は使わないとしても、冬になったら使うかもしれない。

 だから、一応用意しておくことにした。


「製作スキルでなければ、壁ごと取り換えないといけないから大変だったな」


 俺は中庭を歩いて、ヒッポリアスの家の前のまで移動する。

 そして、ヒッポリアスの家の扉、その正面の廊下の壁に、鑑定スキルをかけていく。

 鑑定スキルで素材を把握した後、製作スキルで、壁を扉へと変化させる。

 開閉させるための蝶番は、金属を用意して製作した。


「ふう。これでよしっと。フィオ、どうかな?」

「わふ!」


 できたばかりの扉をフィオが開閉する。


「ヒッポリアスの家の扉と同じにしたつもりだけど……違和感とかあるか?」


 ヒッポリアスの家の扉はヒッポリアスでも開閉できるように作られているのだ。


「ない!」

「そっか。それならよかったよ」


 これで、廊下は大まかに完成と考えていいだろう。

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