152 作業再開

 ヴィクトルには孫もいる。

 そして、子供もみんな立派に育ち、ヴィクトルが死んでも家族が路頭に迷うことはない。

 だからこそ、新大陸の調査団のような危険な任務に参加できているのだ。


「学者先生たちも、ご家族はいますよ」

「ああ、そうだったな」


 ケリーと気候学者には両親がいる。

 そして、地質学者には子供もいるが、成人済みだ。


「まだ若いのに、親が許してくれるのは珍しいなぁ」


 冒険者の一人がつぶやくように言った。

 基本的に親のいる者は本人が大人だし、子供がいる者は子供が成人済みなのだ。


 冒険者自体危険な仕事だ。

 だから、あまり親のいる子供は冒険者になることが少ない。

 冒険者の業務の中でも、さらに未知の要素が多く危険な調査団任務に就くとなれば反対する親が多いだろう。


 それをわかっているのか、ジゼラが言う。

「よく許可してくれたね」

「自分の力試しをしたいと言ったら、許可してくれました」

「さすがは魔王のおっちゃんだね」


 ジゼラはそう言うと、アーリャの頭を優しく撫でる。

 魔族は力比べが好きなものが多いのだ。

 それでも、魔族の大多数は強敵がいるかどうかもわからない新大陸に行こうとは思わないだろう。

 アーリャが魔族の中でも変わり者なのは間違いない。


 そんなことを話しながら、盛り上がっていたら、

「がぁ?」

 ボアボアの家の方にいたはずの飛竜が飛んできた。


 大きな飛竜は拠点の外に着陸して、こちらを見て首をかしげている。

 ジゼラやイジェ、ヒッポリアス、ヴィクトルたち冒険者が休憩から戻ってこないので心配したらしい。 


「おお、飛竜、おはよう」

「がぁがあ」


 俺は飛竜のところに移動した。

 すると、飛竜は頭を低くして、俺に寄せてくれる。

 そんな飛竜の首筋を、俺は撫でた。


「があ」


 飛竜は気持ちよさそうだ。

 俺の顔をぺろりと舐めてくれた。


「飛竜、お腹空いてないか?」

「があ」


 どうやら、ご飯は自分で獲っているから大丈夫なようだ。


「そっか。ボアボアの家の泊まり心地はどうだ?」

「があがぁ」

「そっかそっか。気に入ってくれたならよかったよ」

「がぁ?」


 飛竜は心配しているようだ。

 すぐに戻ると言っていたみんなが戻ってこないし、なにやら強力な魔法の気配もする。

 心配するのは当然と言えるだろう。


「ああ、ちょっと。アーリャが魔法で色々やってくれてたんだよ。敵に襲われたとかじゃないよ」

「遅くなってごめんね! アーリャの魔法が凄くてみんなで見学してたんだ」

「があがあ」


 ジゼラもそう言って、飛竜の頭を撫でる。

 テイムスキルを持っていないはずなのにジゼラは、魔物たちが言っていることがなんとなくわかるらしい。

 勇者というのは、本当に規格外な存在だ。


「おやつも食べたし、すぐに戻るからね」

「があ」


 そんなジゼラの会話を聞いていた冒険者たちもおやつの後始末をしはじめる。

 お昼ご飯まではまだ時間がある。

 一仕事するために戻ることにしたのだろう。

 ボアボアの家の近くにある畑では、ボアボアとケリーが待っているのだ。


 みんなは後始末を終えて、畑に向かって移動を始める。


「きゅお!」

「いってらっしゃい」

「きゅおきゅお!」


 ヒッポリアスは大きくなると、畑で仕事をするために歩いていった。


「またあとで!」

「ガンバロー」

「ぶいぶい!」


 ジゼラ、イジェ、ボエボエも畑に向かって歩いていく。


「があがあ?」


 飛竜は折角だから何か手伝うことがあるかと聞いてくれる。


「ありがとう。大丈夫だよ」

「があ?」

「ああ、そうだな。今は拠点の建物同士をつなぐ廊下を作っているんだ」

「が?」

「そうそう。この敷いてある石が床だよ。あとは壁と屋根を作れば大体完成かな」

「がぁ」

「お昼までに全て完成させるのは難しかもしれないが、今日中には完成させる予定だからよかったら見に来てくれ」

「ががあ!」


 飛竜は俺のことをもう一度舐めると、飛んで戻っていった。


「さて、俺も作業に戻るとするか」


 アーリャのおかげで、水はけのテストは充分できた。

 後は壁と屋根を作れば完成である。

 材料は充分にあり、構造も単純。

 さほど難しいところはない。


 廊下の上物のイメージを固めるために、石の床の上に座る。


『あそぼあそぼ』「ぁぅ」『だっこ』

「だめ、こっち」「わふ」

「あとで遊ぼうな」


 俺と遊ぼうと寄って来た子魔狼たちはフィオが抱っこしてシロが口に咥えて、離してくれた。


 上物のイメージができたので、立ち上がる。

 そして、魔法の鞄から木材を出して、石の廊下の上に間隔をあけて積み上げていった。


「まずは鑑定から……」


 俺は積み上げた木材の山の一つに鑑定スキルを発動させる。

 一気に大量の情報が流れ込んでくるが、それを処理して材料の性質を把握した。

 そうしてから、一気に製作スキルを発動させた。

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