150 ジゼラとアーリャ
アーリャの魔法を食い入るように見ていたフィオとシロは大喜びだ。
「ありゃせんせーすごい!」
「わふわふ!」
フィオは興奮気味にアーリャに抱きつく。
シロも尻尾を振って、アーリャの周りをぐるぐる回っていた。
イジェも尻尾を揺らしながらやってくる。
「フワァ。スゴカッタネ」
「そうだな」
「アメがフラナイトキ、マホウでフラセラレルネ」
「たしかにな、農業的にも助かりそうだな」
「必要なときはいつでも言って」
「アリガト! ソノトキはオネガイ!」
アーリャもイジェに頼られて嬉しそうだ。
アーリャを囲んで、みんなでワイワイしていると、ジゼラがゆっくり歩いて来る。
「もしかしてアリステラ?」
「…………」
ジゼラに尋ねられたアーリャは固まっている。
冒険者たちも、気になって、ジゼラとアーリャを交互に見ていた。
「アーリャの魔法を見たとき、何か知っているような不思議な感覚がしたんだけど……やっぱりアリステラじゃない?」
「どうして、わかったの?」
どうやらアーリャは本当にジゼラの知り合いだったらしい。
「フードが取れて顔が見えたから」
「最後に会ったのは七歳のとき」
「本当に大きくなったねぇ」
そういって、ジゼラはアーリャの頭をフードの上からワシワシ撫でた。
「でも、七歳のときに会っただけなのに、気づくわけがない」
「うーん、まあ顔だけなら気付かなかったかも」
「顔以外になにが……杖?」
「いや、魔力が似てたからね」
「七歳の時、ジゼラの前で魔法使ってない」
「魔法を使ってなくても、なんとなくわかるもんだよ。それにお父さんの魔法の流れが似てたし」
「……そっか」
父に似ていると言われたアーリャはどこか嬉しそうだ。
「本当に立派な魔導師になったねぇ」
「へへへ」
ジゼラに撫でられたアーリャは照れている。
それをみて、冒険者たちも和やかにほほ笑んでいた。
「ジゼラの知り合いだったのか」
「そういうことなら早く教えろよ」
冒険者たちがそう言いたくなる気持ちもわからなくもない。
だが、アーリャとしても、子供の頃に会っただけなのだ。
それにジゼラは有名人。若手冒険者にとっての憧れの人物だ。
アーリャが覚えているとしても、ジゼラは覚えていなくても何の不思議もない。
忘れられているかもと思ったら、アーリャとしても挨拶しにくい。
ジゼラとの出会いが、アーリャにとって大切な思い出だったのなら特にそうだろう。
「ジゼラがアーリャの魔法を見たとき、何か似た感覚を覚えた気がするって言っていたのは知り合いだったからか?」
「そうだね。というか、テオさんは何も違和感を覚えなかったの?」
「いや、俺は全く。というか違和感とは?」
何のことかよくわからない。
魔法の系統的な話だろうか。
「俺は魔導師ではないから――」
「いや、そうじゃなくて。テオさんも一緒に会ったでしょう?」
「…………七歳のアーリャと?」
「そう」
「いや、会ってないと思うが……」
「アリステラ、いや今はアーリャだね。アーリャもテオさんと会ったの覚えているでしょ?」
「うん」
アーリャはフードの下からこちらを窺うように見ながらうなずいた。
どうやら、俺とアーリャも会っていたらしい。
だが、俺には全く覚えがない。
「それはすまない。だがいつ頃の話だ?」
「十年前だよ」
「どこで?」
「魔王の城で」
「…………」
俺は十年前を一生懸命思い出す。
魔王の城で出会った子供。
「あっ」
「思い出した?」
「思い出した。あの時の子供か―、大きくなったな」
魔王の城で子供に出会うことなどほぼない。
だから、思い出せた。
魔王との戦いは、最終的にはジゼラ対魔王の一騎打ちで決着したのだ。
魔族は力比べをしたがっているだけだと気付いたからだ。
魔王が敗れた後、魔王配下が襲ってくることもなかった。
決着が付いたら、魔族たちはジゼラのことを恨むこともなく称えていた。
実に気持ちの良い連中だったと覚えている。
人族なら、王を一騎討で倒したところで、終われば集団で袋叩きにされて終わりだろう。
常識が全く違うのだ。
「アーリャと出会ったのは、勇者対魔王戦、お疲れさま会だったか」
「そんな会があったのか?」
冒険者の一人が尋ねてくる。
お疲れさま会の存在は、一般的にはあまり知られていないのだ。
隠しているわけではないし、聞かれたら俺も答えていたが、広まりはしなかった。
聞いた人が、話半分に聞いていて、信用していなかったからだ。
人族の常識では考えにくいからだろう。
「楽しかったねぇ」
「そうだな。魔王城の大広間にごちそうを並べて、酒が大量にふるまわれて……」
魔王との戦いが終わった後、一週間お祭り騒ぎが続いた。
大量のごちそうとお酒でもてなされたのだ。
勿論、俺たちはだまし討ちを警戒し酒は飲まなかったし、毒などにも警戒していた。
だが、ジゼラは全く警戒していなかった。
未成年という理由で酒は飲ませなかったが、警戒せずに出されたものを何でも食べていた。
だから、俺たちはずっと冷や汗をかいていたものだ。
そんな俺たちの警戒が馬鹿らしくなるほど、魔族たちは酒をどんどん飲んで、山程食べて、心底楽しそうにバカ騒ぎしていた。
ジゼラは、性格的に魔族に近いのかもしれない。
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