142 子魔狼たちのおやつ

 フィオとシロが走り去った後、俺はお肉を食べる子魔狼たちの背中を撫でる。


「にゃむにゃむ」「ぴぃん」「はむ」

「ゆっくり食べるんだよ」


 子魔狼たちはそれぞれ食べる速さが違う。

 一番速いのは、いつも大人しいロロだ。

 次に、男の子のクロ。

 そして一番遅いのは、ルルである。


「ゎぅぁぅ」

 食べ終わったロロが、俺の足をまとわりつく。


「もっと食べたいのか?」

『たべる』


 次に食べ終わったクロがお皿の前でお座りしてそんなことを言う。

 皿にお肉を入れてもらえるのを待っているらしい。


「うーん。そうだなぁ」


 あまり食べすぎたら、お昼ご飯を食べられなくなる気がする。

 少し考えると、一番食べるのが遅いルルが鼻で自分の皿をクロに寄せた。

『あげる』

「わう?」


 ルルはお腹が空いているクロが可愛そうになったのだろう。

 それで、自分の分のお肉をあげようとしているのだ。


「わかったよ。ルルの分はルルが食べなさい。クロ。少しまってな。今あげるからね」

「わぅわぅ!」


 まあ、おやつといっても、主食のお肉である。

 食べ過ぎてもいいのかもしれない。

 それに、クロにあげないと、ルルがこれからもクロたちに分けようとするかもしれない。

 そうなったら、ルルの成長にもあまり良くない。


 俺はクロのお皿に肉を追加する。


「わむわむ」

「ロロとルルは、お替わりしなくていいのか?」

「ぁぅぁぅ」「あむあむ」


 クロがお替わりをもらったのをみて、ルルは安心して自分の分を食べていく。

 そしてロロは鳴きながら俺の足にしがみついて登ろうとしている。

 ロロは、クロやルルほど、人の言葉を使わない。

 だが、俺にはロロが抱っこして欲しいのだとわかる。

 だから、ロロを抱き上げた。


「ロロはもうおやつはいいのか?」

「ぁぅぁぅ」

 抱き上げると、ロロは俺の顔をベロベロ舐めてくる。


 俺がロロと戯れていると、クロとルルも食べ終わった。

 そして、クロとルルも「あそぼあそぼ」「だっこ」と要求してくる。


「はいはい。抱っこっだな」


 俺はクロとルルも抱き上げる。

 子魔狼とはいえ、三頭を同時に抱っこするのは少し大変だ。


「でもまあ、いいか。休憩だな」


 今はいつも子魔狼の面倒を見てくれているフィオとシロがいない。

 フィオとシロが戻ってくるまで、俺は作業に戻ることはできないのだ。


 だから休憩がてら、子魔狼たちを抱っこして撫でまくる。

 子魔狼たちも甘噛みをしたり、舐めたり、俺の頭から肩の上に移動したピイのことを舐めたりしていた。


「てお! きいてきた!」

「がうがう」


 そこにフィオがシロに乗ったまま戻ってくる。


「よく、見つけられたな」

「におい!」「がぁう」


 シロは嗅覚が鋭い。

 その鋭い嗅覚で、気候学者の匂いを追ったのだろう。


「そっか、フィオもシロもすごいなぁ」

「へへへ」


 フィオは照れながら、俺が抱っこするクロとロロを抱っこする。

 シロはルルを口で咥える。


「ありがとう。助かるよ」

「へへへ」「わふふ」


 俺が頭を撫でると、フィオとシロは照れる。


「それで、先生はなんて言ってた?」

「ふらない!」「わふう」

「そっかー。今日も天気がいいもんな」

「うん!」「わふ!」


 きっと気候学者はもっと詳しいことがわかっているのだろう。

 風の様子や一日の温度の変化。雲の様子や地形など、色々調べているに違いない。

 だが、フィオとシロにそれを説明しても混乱するだけだ。

 だから「雨はふらない」とだけ教えたのだろう。


「雨が降らないなら、まあ仕方ないな。テストは必須ではないし」


 もし失敗していたら、製作スキルを駆使して、作り直せばいいだけだ。

 とても面倒ではあるが、やり直せないわけではない。


 俺は水はけのテストをせずに壁と屋根の製作に入ろうと考えた。

 だが、嬉しそうにフィオとシロが言う。


「あめふらせる!」「わふう」

「え? どうやって?」

「ありゃがふらせる!」「わふわふ」


 そういって、近くの建物をフィオは指さした。

 その建物が作る日陰の中に、一人の冒険者が立っている。


「アーリャが雨を降らせてくれるのか?」


 その冒険者はアーリャと呼ばれている優秀な魔導師だ。

 調査団に参加してくれた者の中で、ただ一人の魔族でもある。


「必要なら降らせる」


 アーリャがぼそっと答えてくれた。

 アーリャはとても無口で大人しい。

 俺もアーリャの声を聞いたのは、数回しかないかもしれない。


 大人しいが、目立たないわけではない。

 自分の身長ぐらいある大きな杖を持っているのに加えて、いつもフードをかぶり長袖のローブを着ているのだ。

 夏なのにもかかわらずだ。

 いつもみんなから「暑くないのか?」と心配されているが、アーリャにはこの衣装にこだわりがあるらしい。


「降らせてくれるなら助かるが……降らすことなんて本当にできるのか?」

「できる。中庭だけでいいんでしょ?」

「そうだが……。よくわかったな」


 アーリャはもしかしたら、とても頭がいいのかもしれない。

 そんな気がした。

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