141 石の床を敷き詰めよう

 一定の間隔で排水溝を作ることも忘れてはいけない。

 排水溝は石を四角い筒にして、上に床となる石でふたをして完成だ。


「ふう、とりあえずこれで、よしと……」


 集中して製作スキルを使っていたので、子魔狼たちが何をしているのか気になって様子を見た。


『あそぼ!』「ゎぅ」『だっこ』

「ほれほれほれー」

 すると、なぜかジゼラが子魔狼たちと一緒にじゃれ合っていた。


「ジゼラ。畑仕事をしに行ったはずでは?」

「みんなの飲む水と、畑にまく水を取りに来ただけだよ!」


 今日も熱い。外で作業していたら喉が渇くのは当然だ。

 食堂には水道はあるが、ボアボアの家には水道はない。

 だから、ジゼラが水をとりに来たのだろう。

 そして、通りがかりに子魔狼たちをみて、遊んでくれたらしい。


「そうだったのか。子魔狼と遊んでくれて助かるが、戻らなくていいのか?」

「うん、すぐに畑に戻るよ! クロ、ロロ、ルル、またあとでね」


 そういって、ジゼラは近くに置いてあった自分より大きな大きな樽を担ぐ。


「……相変わらず凄い力だな」

「僕は力持ちだからね」

「すごいすごい!」

「がう!」

 フィオとシロは尊敬のまなざしで、ジゼラを見つめている。


「じゃあね! またあとでー」

 そして、樽を担いだまま、ジゼラは軽やかに走っていった。


「わうわう!」「ぁぅ」「きゅーん」

 子魔狼たちは寂しそうにジゼラを見送った。


 俺がフィオとシロ、子魔狼たちのところに歩いていくと、

「おわた?」

「終わったのは床だけよ。これから壁と屋根を作るんだ」

「そかー」


 そして、子魔狼たちが、じゃれついて来るので全員の頭を撫でてやる。


「完成までもう少しかかるから、遊んでいてな」

『おやつ』「ぁぅ」『わかった』


 ロロとルルは聞き分けが良いが、クロがおやつを要求してくる。


「おやつかー。ちょっとまってな」


 要求通りにおやつを上げるのは教育に良くないのかもしれない。

 だが、子魔狼たちは魔熊モドキに捕まっていたので、痩せているのだ。

 だいぶ太ってきたとはいえ、もっと太ったほうが健康的だろう。


 俺は魔法の鞄から魔猪の焼いたお肉を出して、皿に乗せて子魔狼たちに食べさせる。


『うまいうまい』「ぁぅぁぅ」『うまい』


 子魔狼たちはおいしそうにお肉を食べる。

 俺が鞄に入れているお肉は味付けはしていないものがほとんどだ。

 ヒッポリアス、シロ、子魔狼たちにあげるためのお肉だからである。


「シロも食べなさい」

「がう!」

「ふぃおも!」

「そうだね。フィオも食べような」


 俺はお皿を取り出して、シロとフィオの分もお肉を入れて与える。


「わむわむ」

 シロも美味しそうに食べている。


 フィオは俺の敷いた石の上に腰かけると、太ももの上に皿を乗せる。


「ふぃお。おはしつかう!」

 フィオはポケットから細い木の棒二本取り出すと、まとめてぎゅっと握る。

 それで肉をぶすっと刺してバクバク食べはじめた。


「おお、それはなんだ?」

「じぜらにもらた! おはし!」

 どうやら、ジゼラがフィオに「おはし」という名の二本の木の棒をあげたらしい。


「へー、それはフォークとかのかわりなのか」

「そ! ふぉくのかわり」

「なるほどなぁ。確かに効率はいいのかもな」


 二本の木の棒を突き刺せば、フォークがわりとしてつかえる。

 だが、フォークの方がいいのではないかとも思う。


「とおくで、じぜらがみつけたどうぐ!」

「へー」


 ジゼラが旅先で見つけた道具なのだろう。

 木のフォークより作るのは簡単そうだ。

 一つ折れても、枝で代用することもできる。

 旅の途中で使ったりするには便利かもしれない。


「ピイも何か食べるか?」


 俺は頭の上に乗っているピイに尋ねる。


『たべてるからだいじょうぶ』

「そっか」


 俺の老廃物を食べているらしい。

 ピイを乗せていると、いつの間にか綺麗になってしまうのだ。

 悪いことは何もないのだが、少し複雑な気持ちになる。


「いっぱい食べるんだよ」

「ぁぅぁぅ!」


 俺はおやつを食べる子魔狼たちを撫でながら、ヒッポリアスに思いをはせる。

 ヒッポリアスはおやつを食べているだろうか。

 ちゃんと、働いたり休憩したり、遊んだりしているだろうか。

 お昼に会うのが楽しみだ。


 そんなことを考えていると、子魔狼たちより早くお肉を食べ終わったフィオが言う。

「てお。あとはかべ?」

「そうだよ。それに天井もね」

「そかー」

「雨が降ったら、設計通りちゃんと水が流れるか試してみたい気持ちもあるが……」


 俺は空を見上げる。

 雲一つない快晴の青空が広がっていた。

 フィオとシロも一緒に空を見上げている。

 シロも子魔狼たちより早くお肉を食べ終わったのだ。


「はれ!」

「そうだなぁ」

「次の雨はいつ頃だろうな」

「きてくる!」


 そういってフィオはシロに乗って走り出した。


「聞いて来るって……。先生にかな」


 天気予想ができるとすれば、気候学者だろう。

 気候学者がどこにいるのか、フィオは知っているのだろうか。


「まあ、会えなかったら、戻ってくるだろ」


 シロも一緒なのである程度は安心である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る