137 子供たちの朝

 ボアボアの家が完成した次の日の朝。


「きゃふきゃふ」「……」「わふ!」

「きゅお! きゅお!」

「ぶぶい!」


 ワイワイ騒ぐヒッポリアスと子魔狼たち、そして猪型キマイラであるボアボアの子供の声で俺は目をさました。

 ヒッポリアスたちはコロコロ転がるようにじゃれ合っている。

 子供が遊んでいる姿はかわいらしくて、心が和む。


 そんな子供たちに混じって、

「おりゃりゃりゃ!」

 勇者ジゼラが床をゴロゴロ転がっていた。


 それを獣耳と尻尾を持つ少女フィオと子魔狼たちの兄であるシロが、保護者のように優しく見守っている。

 ジゼラは、俺の昔の仲間、旧大陸で魔王を倒した勇者だ。

 つまり、立派な大人なのだ。

 むしろフィオとシロを見守るべき立場なのだが、ジゼラだから仕方ない。


「おはよう」

「きゅお」


 ヒッポリアスが元気に挨拶してくれる。

 新大陸への航海の途中で従魔になってくれたヒッポリアスはとても強い竜なのだ。

 元々の姿はとても大きいが、最近、小型化する技術を身につけた。

 小型化できるようになってから、子魔狼たちと兄弟姉妹のように遊ぶことが多くなった。


『あそぼあそぼ』「ぁぅ」『だっこ』


 クロ、ロロ、ルルの三頭の子魔狼たちも駆け寄ってきてくれる。

 子魔狼たちも俺の従魔なので、念話を使って会話することができるのだ。


 ルルが抱っこして欲しいと言うので、抱き上げた。

 ついでにクロとロロも抱き上げた。


 子魔狼たちの中で、唯一の男の子クロはやんちゃで甘えん坊な性格だ。

 いつも『あそぼ』と素直に言ってくる。


 ロロは、子魔狼の中で一番大人しい。

 ロロも、クロたちと同様に念話で言葉を話せるのだが、鳴くことが多い。

 念話でも『ぁぅ』と鳴くぐらいだ。


 ルルは子魔狼の中で一番面倒見がいい。

 クロとロロのことをいつも気にかけている。

 ご飯などもクロとロロに先に食べさせようとするし、分けてあげようとすらするのだ。


「ぶい」


 ボアボアの子供は横になっていた俺の足の上に、自分の前足を乗せている。

 ボアボアの子供は、猪の子供であるうり坊そっくりだが、強力な魔物であるキマイラなのだ。


「おはよ!」「わう」


 フィオとシロは俺に挨拶しながら、子魔狼たちを抱き上げる。

 フィオがクロとロロを抱きかかえ、シロがルルを口で咥えた。

 子魔狼たちが、俺の朝の準備を邪魔しないようにと気を遣ってくれたのだろう。


「ぴい」

「ピイもおはよう」


 俺の従魔でスライムの王でもあるピイは寝ている俺の頭の上に乗っている。

 ピイは俺の頭の上とか肩の上が大好きらしい。


「おはよ! テオ」

「ジゼラもおはよう。で、朝からどうした」

「目が覚めちゃって。ボエボエを連れて遊びに来たんだ!」

「ボエボエ?」

「この子」


 そういってジゼラは俺の太ももに前足を乗せているボアボアの子供を抱き上げた。


「ぶいぶい!」


 ジゼラに抱っこしてもらって、ボアボアの子供は嬉しそうに鳴いている。


「もしかして、ボアボアの子供に名前をつけたのか」

「テオが付けるわけにはいかないでしょ?」

「それはそうだが……」


 テイムスキル持ちの俺が魔物に名前を付ければ、眷属、つまり従魔となってしまう。

 安易に名前を付けるわけにはいかないのだ。


「でも、仲間になるなら名前がないと不便だからね。テイムスキル持ちじゃない僕が名前を付けたんだ」

「それでいいのか?」

「ぶぶぶい!」


 ボアボアの子供、いや、ボエボエは凄く嬉しそうだ。


「そうか。改めてよろしくな。ボエボエ」

「ぼーぅぉえ!」


 ボエボエも元気に鳴いている。


「ぼえぼえ、かわいー」

「ぶぅい」


 フィオもボエボエが可愛いらしい。

 フィオは両手に子魔狼を抱えたまま、ジゼラに抱えられたボエボエのお腹の匂いをクンクンと嗅いでいた。


「ジゼラ、昨日はよく眠れたか?」

「眠れたよ! ボアボアもボエボエもふかふかだからね!」

「そうか。それはいいな」


 昨夜、ジゼラは完成したばかりのボアボアの家に泊まったのだ。

 ジゼラの部屋は、冒険者用の宿舎の中にちゃんとある。

 元々、俺が使う予定だった部屋をジゼラが使うことになったのだ。

 だが、ボアボアの家で、ボアボアとボエボエと飛竜と一緒に寝る方が寂しくないと思ったのだろう。


 ちなみに飛竜は、俺とジゼラたちの魔王討伐の旅で仲良くなった偉い竜だ。

 飛竜は、地元の竜のリーダー、王なのだ。

 竜の王が人間の従魔になるのはいかがなものかという根強い地元竜民の意見があり、飛竜は俺の眷属にはなっていない。


「あれ? イジェは?」


 イジェは新大陸で出会った人間の少女だ。

 獣耳と獣の尻尾を持ち、二足歩行の犬のような姿だが、人間なのだ。

 非常に器用で、農業の知識に明るく、料理がとてもうまい。


「いじぇ! ごはん!」


 少し片言でフィオが教えてくれる。

 魔狼たちに育てられたフィオはまだ人の言葉が流暢ではないのだ。


「僕も手伝いに行こうと思ったけど、子供たちを見ていて欲しいってさ」

「そっか。子守も大切な仕事だからな」


 イジェはジゼラをご飯を作る際の戦力として、みなさなかったのかもしれない。

 イジェの気持ちはとても良くわかる。

 ジゼラは戦闘力は世界でもトップクラスだが、細かな作業はあまり得意ではない。

 それでいて、子守のような仕事はとても得意なのだ。


「さて、目が覚めたし、俺もイジェを手伝いに行くか……」


 俺は顔を洗うために洗面台へと向かう。

 つい先日洗面台を作ったのだ。

 やはり、部屋の中で顔を洗えると、非常に便利である。

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