136 ボアボアの家の完成

 ボアボアはなにやら作業をしているようだ。

 イジェやヴィクトルとケリー、それにヒッポリアスと一緒である。


 俺はイジェに近寄って尋ねる。


「ボアボアは何をしているんだ?」

「ア、テオサン! ボアボアとヒッポリアスにカイコンをテツダッテモラッテタ」

「ほほう? 開墾を」


 ヒッポリアスはいつものように木を倒して、土地を切り開いている。

 そして、ボアボアは切り開かれた土地にぬた打ちまくっていた。


「泥じゃない場所に、ぬた打って気持ちいいのかな」

「ぬた打つというと、泥のイメージが強いがそれは猪だろう? そもそも、ボアボアは猪じゃないが」


 そう言ったのはケリーだ。

 ケリーはメモを片手に、ぬた打つボアボアの様子を観察してる。


「キマイラは泥ではない土の上でもぬた打つのか」

「キマイラに限らない。鹿や猪がぬた打つ場所だって、なにも泥だと限らない。草や土の上でもぬた打つものだ」

「そうなのか」

「そもそも、畑でぬた打っていたし」

「それもそうだな」


 ボアボアが畑でぬた打ったおかげで、俺たちは出会えたのだ。


「ここをぬた打ち場にするのか?」

「ソウ。デモ、アトでハタケにスル」

「畑に?」

「ウン。オオシシがヌタウツと、ツチがヨクナル」

「へー。……猪もそうなのか?」


 俺はケリーに尋ねる。


「猪のぬた打ちにはそんな効果はないな」

「キマイラの特殊能力か」

「うむ。かもしれないな」


 畑の近くに、ボアボアのぬた打ち場を作って、存分にぬた打ってもらった後に畑にする予定のようだ。


「きゅお」

「アリガトウ。もうダイジョウブ」

「きゅっきゅ」


 畑予定地に木を切り倒した、いや根元から掘り起こしていたヒッポリアスが戻ってくる。


「ヒッポリアス、ありがとうな。いつも助かっているよ」

「きゅお~」


 俺はヒッポリアスを撫でる。

 それからヒッポリアスが掘り起こしてくれた木々を魔法の鞄に収納していく。

 拠点に運んで、燃料や資材にするためだ。



 木を全て収納し終えたころ、

「ぶぶい」

 ボアボアが、ぬた打ちに満足したようだ。


「ボアボア、お疲れさま」

「アリガト」

「ぶいぶい!」


 遊んでいただけなのに感謝されて、お得だとボアボアが言う。


「家を作ったから見てくれないか?」

「ぶい!」


 そして、皆でボアボアの新居へと向かう。

 中に入るとボアボアの子供やシロや子魔狼たち、それにフィオがはしゃいで遊んでいた。


「どうだ? ボアボア。使いにくそうな場所とかないか?」

「ぶぶい!」


 とても快適そうだと言ってくれている。


「それならいいんだが、もし不満点があったら、いつでも遠慮せずに言ってくれ」

「ぶい!」


 その日の夜は、拠点の全員がボアボアの家の隣に集まった。

 そして、酒を持って来て、ボアボアの家の隣にかまどを作り、肉を焼いて皆で食べる。

 ボアボア親子と飛竜、そしてジゼラの歓迎会のためだ。


「ニクがヤケタよ」


 イジェが、テキパキと手際よく猪肉を焼いてくれる。

 猪肉にはイジェが、上手に味をつけてくれていた。


「うまい! イジェは肉を焼くのがうまいね」

「ぶぶい」「がぁお」


 ジゼラ、ボアボアに飛竜も、イジェの焼いた肉を気に入ったようだった。


 そして冒険者たちは、ボアボアの子供を可愛がっている。

「ボアボアの子供は可愛いな。これも食べなさい」

「ぶい!」

 冒険者たちに撫でられまくって、ご飯を与えれてボアボアの子供もご満悦だ。




 ボアボアとジゼラが仲間になったことで、拠点の戦力は充実した。

 ボアボアは開墾作業に活躍してくれるだろう。 

 そして、ジゼラは敵が来たときに、活躍してくれるはずだ。


 そんなことを考えていると、ヒッポリアスがこちらを見上げていた。

「きゅお?」

「そうだ。ヒッポリアス。魔力を分けてあげよう」

「きゅうお!」


 俺はヒッポリアスに魔力を分ける。


『うまい!』

「ピイや子魔狼たちにも分けてあげよう」

「ぴっぴい」

『やった』「……わふ」『ごはん』


 ピイや子魔狼たちも喜んでくれた。





 俺は畑を見て、それからボアボアの家を見る。

 そして、丘の上の拠点を見上げた。


「拠点の機能もだいぶ充実してきたな」

「テオさんのおかげです」


 皿に肉を乗せたヴィクトルが笑顔でそう言ってくれる。


「まあ、みんなの力だ」

「テオさん、これからの計画などはあるのですか?」

「まずは冬への備えかな」

「大事ですね」

「冬までに建物同士をつなげたいんだが……」

「そうなれば、快適かもしれませんね」

「ボアボア向けに温泉も掘りたい気もある」

「温泉ですか?」

「家を建てるときに、調べた限り、近くに温泉の水脈があるようだからな」

「それはいいですね」

「だが、冬まではまだ時間の余裕がある。しばらくはのんびりできるかもしれない」

「のんびりするのもいいでしょうね」


 まだまだ、やることは沢山ある。

 だが、だいぶ快適に過ごせる環境が整いつつあるのは間違いない。


 かまどの周囲では、イジェを中心にジゼラやボアボア、飛竜、それに冒険者たちが楽しそうに話していた。

 ケリーや他の学者たちも酒を呑んで、談笑している。


 その楽しそうな様子を見ながら、俺はヒッポリアスとピイ、子魔狼を撫でまくったのだった。

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