134 ボアボアの住処の好み

 ボアボアの怪我はほとんど大丈夫だが、怪我だけでなく毒も食らっていた。

 しばらくは怪我と毒の経過をみたい。

 だから、ボアボアが近くに来てくれると俺としても安心である。


 俺は飛竜にも声をかける。


「飛竜もしばらく拠点に逗留してくれ」

「がお」


 飛竜も拠点に来てくれるらしい。


「飛竜も疲れただろうし、しばらくゆっくりして、疲れをとってくれ」

「ががお」


 飛竜はジゼラを乗せて新大陸に飛んできたのだ。

 当然、かなり疲れているはずである。

 それに、新大陸に到着して早々にジゼラが食中毒で倒れた。

 その介護を一生懸命やっていたのだ。

 疲れていないわけがない。


「飛竜もずっと住めたらいいのにねー」


 ジゼラがそんなことを言う。


「飛竜は忙しいんだ。無茶をいったらだめだ」


 ここにいる時点で、かなり無理してくれているのだ。


「それはわかってるけど」

「ががう」


 飛竜は楽しいから大丈夫だよと優しく言ってくれていた。


「そうだな。飛竜も入れるボアボアの家を作ろう」

「そうなると、ヒッポリアスの家より大きくならないか?」


 ケリーが少し心配そうに尋ねてくる。


「大きくなるな。だが大丈夫だろう」


 頭の中には簡単な設計図は既に出来ている。

 建築資材も開墾作業で伐採した木材が余っているのだ。


 俺が考えていると、ジゼラがボアボアに尋ねていた。


「ボアボアはどんな家に住みたい?」

「ぶーいぶい」

「冬暖かくて、夏が涼しい家かー。ヒッポリアスの家みたいなかんじでいいかも」


 ジゼラは昨日泊まったヒッポリアスの家を気に入ってくれたらしい。


「ボアボア。何か要望があれば、今のうちに言ってくれ」

「ぶぶい」

「ほほう?」

「ぶーい」


 ボアボアは出来ればぬた打つ場所が家の近くに欲しいという。

 ボアボアがぬた打つことは、シロの散歩のようなものなのかもしれない。


「そうだな。そうなると、他の建物からは少し距離があったほうがいいかもな」

「ぶぶい」

「畑の近く、つまり森の近くはどうだ?」

「ぶい!」

「もちろん、畑の上でぬた打たれたら困るんだが」

「ぶぶい」


 ボアボアは、それはわかっていると言ってくれている。


「それじゃあ、ボアボアの家は畑の近くの森を切り開いて作るか。ヒッポリアス、手伝ってくれ」

『わかった!』

「イジェにも畑の拡張方向も聞きたいしな」


 イジェはこれから畑を増やしていくつもりに違いない。

 ボアボアの家は、畑にする予定がない場所に建てた方がいいだろう


 そんなことを話しながら、ゆっくり俺たちは帰って行く。

 散歩が大好きなシロは周囲を全力で走ってから戻ってきて、俺に飛びついてまた走って行ったりする。

 元気に楽しくはしゃいでいるみたいで、何よりだ。


 小さなヒッポリアスとボアボアの子供も楽しくはしゃいで走り回っている。


「クロ、ロロ、ルルは走らなくていいのか?」

『だっこ!』「わふ」『いい』


 子魔狼たちは俺に抱っこされていたいらしい。

 三頭同時に抱っこするのは難しいが、かわいいので仕方がない。



 俺たちはゆっくりと拠点へと歩いて行った。

 そして昼前になって、畑が見えてくる。


「ア、テオサン! ミンナも!」


 イジェが、俺たち気付いて走ってくる。

 その後ろからはヴィクトルが付いてきていた。


「ア、ダイシシだ!」

「だいしし?」

「オオキナ、イノシシのコト」


 ボアボアのことをイジェはダイシシと呼んでいたらしい。

 語源は大イノシシだろうか。


「イイこダネ」

「ぶ~い」


 ボアボアはひさしぶりと言いながら、鼻先をイジェに付けている。


「イジェ、知り合いか?」

「ウン! ムラではダイシシにイロイロとテツダッテモラッテタ!」

「そうだったのか」


 ボアボアは、テイムスキルを持っていないケリーの言葉を理解していた。

 だから、以前から、人と交流があったのではないかとは予想してはいたのだ。

 だが、イジェの村と交流があったとは思わなかった。


「そういえば、イジェは大きな特別な猪がいると言ってたな」

「ソウ、ソレがダイシシ」


 そういいながら、イジェはボアボアとボアボアの子供を優しく撫でていた。


「テオさん、お帰りなさい」

 ヴィクトルは笑顔だ。


「ただいま。この子がボアボアで、この小さいのがボアボアの子供で、このでかいのが飛竜だ」

「ぶいぶい」「ぶぶい」「がーお」

「ヴィクトルです。よろしくお願いします。もう怪我は大丈夫なんですか?」

「ぶぶい」

「ボアボアはもう大丈夫だと言ってるぞ」

「それは、何よりです」


 ヴィクトルはボアボアたちにも丁寧だ。

 さすがは育ちがいいだけのことはある。


「で、ヴィクトル。少しお願いがあるのだが……」

「ボアボアさんたちも拠点で一緒に暮らしたいと言うことですね?」

「飛竜は、しばらく経ったら帰らないといけないんだがな」

「そうですか。それは残念です」

「がぅ」

「それで、ヴィクトル……」

「もちろん私は賛成ですよ。これからお昼ご飯ですし皆にも聞いてみましょう」

「ああ、頼む」


 畑で作業してた冒険者たちもやってくる。


「おお、これが噂のボアボアと飛竜と、ボアボアの子供か」

「よろしくだ」

「ぶいぶい~」


 畑で作業をしていた冒険者たちと一緒に俺たちは、拠点へと歩いて行く。

 拠点でお昼ご飯を食べるためだ。

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