133 ピイの力

 ケリーも俺の髪の毛の輝きが増している可能性があると思ったようだ。


「ふむ。テオ、少し触らせてくれないか?」

「いいぞ。好きに触ってくれ」


 ケリーは歩いてきて、座っている俺の髪の毛をいじり始めた。

 ケリーが俺を撫で、俺がひざの上のヒッポリアスと子魔狼を撫でる。

 そんな形になった。


「どれどれー」


 ジゼラまでやってきて、俺の髪の毛をいじり始める。


「なんか、あれだな」

「あれ? とはなんだ?」

「のみ取りする猿みたいだな」

「……確かに」


 ケリーは納得したようで、うんうんと頷いている。

 ボアボアを撫でていたフィオもやってきて、俺の髪の毛をいじる。


「つやつや!」


 三人に髪をいじられるとくすぐったい。


「ピイの能力かもな」

「ピイ、今度私にも頼むよ」

『わかった!』

「ぼくにも!」

『わかった!』


 ケイとジゼラの頼みをピイは快く引き受けていた。


「ピイはわかったと言っているよ」

「ピイはいい子だなぁ」


 しばらく、ジゼラはピイのことをムニムニとしながら可愛がっていた。


 その間、ボアボア親子と飛竜、ヒッポリアスとシロたちは、俺達の近くでまったりしていた。

 身体が温まって、風が気持ちがいいのだろう。 


 だが、もう少し時間が経てば真昼になる。

 そうなれば、暑くなるだろう。


「まだ暑さがましなうちに移動するか」

「ぶぼ!」「がう」


 俺たちはボアボアの巣に向かって歩き始める。

 俺はクロ、ロロ、ルルの三頭を抱っこする。

 子魔狼とはいえ、三頭を抱っこするのは大変だ。


 シロとヒッポリアスは俺の後ろをじゃれあいながら付いてくる。

 そして、ピイはいつものように俺の頭の上だ。


「ボアボア、お腹の調子はどうかな?」


 ジゼラは歩きながら、ボアボアのお腹に触れた。

 怪我をした辺りを優しく撫でている。


「ぶぃ」

「ボアボアは調子いいと言っているぞ」

「そっかー。痛みもないの? 吐き気は? 気持ち悪かったりしない?」

「ぶい」

「大丈夫。だってさ」

「それはよかった。心配してたんだ~」

「ぶぶい」

「ぼくも大丈夫だよ! テオさんの薬を飲んだからね」


 そういって、ジゼラは歩きながらボアボアを撫でまくる。


「ジゼラ、ボアボアの話していることがわかるのか?」

「なんとなく?」

「そうか。通訳しなくても、よかったな」


 勇者というのは本当に規格外な存在である。

 まるで物語の主人公みたいだ。


「でも、はっきりとわかるわけじゃないから。助かるよ」


 そういいながら、ジゼラはボアボアの子供を抱きあげる。

 ボアボアの子供も「ぶいぶい」言いながらジゼラに甘えていた。


 少し歩いて、ボアボアの巣の前まで来る。


「さて、俺たちはそろそろ拠点に戻るか」

 俺がそういうと、ケリーもうなずく。


「そうだね。拠点ですべきこともあるし」

「ボアボア、それにボアボアの子供。俺たちは拠点に戻ろうと思う」

「ぶい」「ぶぅい」


 ボアボアはお礼を言ってくる。

 そしてボアボアの子は、寂しいのか俺の服の裾を加えて甘えるように鳴いた。


「ボアボアもボアボアの子供も、いつでも拠点に遊びに来なさい」

「ぶぅい」

「引っ越したければ、いつでもすぐに家を建てるからな」

「ぶぶい」


 ボアボアの身体は大きいが、特に問題はない。

 ヒッポリアスの家と同じぐらい大きいボアボアの家を建てればいいだけだ。


「そうだよー。ボアボアも引っ越そうよ? 洞穴は暗くて涼しいかもだけど、ジメジメしているし」

「……ぶぅ~い」

 ボアボアは考えているようだ。


「ぶぶいぶいぶい」


 ボアボアの子供は、俺達の拠点に引っ越そうよと言っている。

 仲良くなった俺とジゼラ、それにヒッポリアスと一緒に居たいらしい。


「ね、そうしよそうしよ?」

「まあまて、ジゼラ。俺はボアボアたちが引っ越してきてくれたら嬉しいが、ボアボアたちは洞穴を気に入っているかもだろう?」


 ボアボアたちにとって、日光が入らないジメジメ具合がたまらないと感じている可能性もある。


「えー、そうなの? 洞穴がすごく気に入っているの?」

「ぶぃ~」

「テオ、ボアボアはなんて言っているんだ?」


 目を輝かせたケリーが、メモを片手に尋ねてくる。

 新大陸の新種キマイラの好む住環境に興味があるのだろう。


「別に洞穴が好きというわけではないらしい」

「ほほう?」

「ぶぶい」

「だが、身体の大きなボアボアが中には入れて雨風しのげる場所は他にないと」

「それなら、拠点に引っ越そうよ! 住処ならテオさんが作るよ!」

「ああ、ジゼラの言うとおり作れる。だが、ボアボアはどういう環境が好きなんだ?」

「ぶ~い~」


 ボアボアは真剣に考え込んでいる。

 もしかしたら、今まで考えたこともなかったのかも知れない。

 野生ならば、最優先されるべきは快適さより安全性だ。

 そして、周囲に敵がいなくなるぐらい身体が大きくなれば、今度は入れる場所が限られる。


「ボアボア。ジメジメしているのとカラッとしているの、暑いのと寒いの、暗いのと明るいの、どういうのが好き?」

「……ぶぅい」


 ケリーがこちらをじっと見て、通訳しろと無言で圧をかけてくる。


「ボアボアは本当に考えたことがないと言っているよ。だからわからないって」

「そういうものなのか。ボアボアにとって、あの洞穴はどうなんだ? もう少し涼しい方がいいなとか思ったことはないか?」

「ぶぅい」

「ジメジメしているのが嫌だとは思っていたそうだ。それに夏はやはり暑いと」

「……そうか。日は差さないが、風通しがあまりよくないものな」


 ボアボアの巣は蒸し暑かった。


「じゃあ、とりあえず、拠点においでよ!」

「……ぶ~い」

「もちろんいいよ! ね、テオさん」

「一応ヴィクトルたちにお伺いを立てないといけないが、大丈夫だろう」

「だって、よかったね、ボアボア」

「ぶぶい」「ぶっぶい!」


 そうして、ボアボア親子は拠点の方に引っ越すことになったのだった。

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