131 ジゼラたちと朝ぶろ
俺はお湯につかったまま、後ろを振り返る。
すると、そこにはジゼラがいた。
それだけでなく、ジゼラの後ろにはフィオとシロ、子魔狼たちもいた。
「お腹は大丈夫なのか?」
ジゼラは
体力のあるヴィクトルでさえ、回復まで数日かかった。
「一晩寝たから大丈夫だよ!」
「……そうか、すごいな」
相変わらず体質が、我ら一般人とは異なるようだ。
「がうがう!」
お湯につかっていた飛竜が嬉しそうにジゼラに駆け寄る。
そんな飛竜をジゼラが撫でまくる。
「おー、飛竜も元気だね。ボアボアのこと、ありがとうね」
「がーがう」
飛竜もとても嬉しそうだ。
「ひりゅ!」
フィオは初めて見る飛竜にも怯えていない。
飛竜をジゼラと一緒に撫でている。
「飛竜、ボアボアとボアボアの子供。いいかい?」
「があ」「ぶい」「ぶぶい」
ジゼラとフィオに撫でられながら飛竜は俺の方を見る。
そして、ボアボアとボアボアの子供はこっちにやって来た。
「この子はフィオだ。そしてフィオの従魔のシロと、俺の従魔のクロ、ロロ、ルルだ」
俺はお湯の中につかりながら、飛竜と初めて出会ったフィオたちのことを紹介する。
「がぁぁう」
「わふ」
飛竜とボアボア親子はシロたちの匂いを嗅ぐ。
「わふ」
シロは飛竜相手に少し怯え気味だが、弟妹の手前、気丈に振舞っている。
「きゅーん」「くーん」「わふ」
だが、子魔狼たちは、まったく怯える様子もなく、飛竜やボアボア親子に甘えていた。
近寄って来たボアボアのことをジゼラは撫でる。
「うん。怪我も治っているし、元気みたいだね」
「ぶお」
「よかったよかった」
そういいながら、ジゼラは服を脱ごうとする。
一緒にフィオまで服を脱ぎかける。
「ジゼラ。女湯は仕切りの向こうだ」
「ん? ぼくは気にしないけどね」
冒険者にはそういう感覚を持つ者が多い。
冒険の途中で、身体を洗うことが求められることがある。
嗅覚の鋭い魔物退治などの場合だ。
そのような時、男女で別れて体を洗っている余裕などないことが多い。
冒険中においては、身体を洗うと言う行為は危険なのだ。
防具を外し、武器を手放すからだ。
男女ではなく、戦力バランスを考えて、順番に身体を洗うことになる。
異性の前で裸をさらすことが恥ずかしいという感情も、命の危険の前では重要ではない。
「冒険者だから、ジゼラが気にしないと言うのはわかるが、フィオの教育に悪い」
魔狼に育てられたフィオは、人族の常識がない。
その状態で、俺と一緒にジゼラが混浴するのをみると、混浴が人間社会の一般常識だと誤解してしまう。
「よくわかんかないけど、テオさんがいうならそうなのかもね」
「ジゼラとフィオは仕切りの向こうに入りなさい。ケリーもそっちに入っている」
「わかった! でもボアボアと一緒に入りたかったけどなぁ」
「我慢しなさい。触れ合うなら風呂上がりにするといい」
「は~い」「ぶ~い」
ジゼラとボアボアが同時に返事をする。
そして、ジゼラとフィオ、シロと子魔狼たちはケリーの方へと向かった。
「おお、ジゼラも来たのか」
「うん、来たよー」
「相変わらず、毒に強いなぁ」
「そうなんだー」
しばらくしたら、バシャンという音が聞こえてくる。
ジゼラが飛び込んだらしい。
「わふぅ!」
フィオもジゼラの真似をして飛び込んだようだ。
その後、子魔狼たちの「きゃふきゃふ」というはしゃぐ鳴き声が聞こえて来た。
まったりとした、こちらと違い、ケリー達の方は凄く楽しそうにしている。
だが、しばらくしたら、比較的静かになった。
ジゼラやフィオたちも温泉につかって気持ちよくなっているのだろう。
俺は仕切りの向こうに声をかける。
「……ジゼラ、シロの散歩か?」
「そうだよ。シロは魔狼のなかでも凄い魔狼だからね」
「体力がある分、必要な運動量が多いってことか?」
「そうそう。沢山散歩しないと、運動不足になるかもだからね」
「それはそうだ、ありがとうな」
病み上がりのジゼラがシロ散歩をするのはどうかとも思わなくもない。
だが、ジゼラだから大丈夫とヴィクトルが判断したのだろう。
「気にしなくていいよ! ぼくもボアボアたちを見たかったからね」
「ぶぼぼ」
ボアボアが嬉しそうに、仕切りの向こうに返事をしていた。
「ところでイジェはどうしてる?」
「イジェはヴィクトルたちと一緒に豆を植えてるよ」
「そうか」
畑でぬた打ったのがボアボアだとわかった以上、大丈夫だと判断したのだろう。
「そうだ、ボアボア」
「ぶーい?」
ジゼラに呼びかけられて、まったりお湯につかっていたボアボアが気の抜けた返事をする。
「なんか畑でぬた打ちするのをやめて欲しいんだって」
「ぶぼー?」
ボアボアは「畑? ってなんだろう」と思っているようだ。
野生のキマイラであるボアボアは、畑というものを知らないのだ。
「あ、畑って言うのは人間が植物を育てているところだ」
「ぶぼー」
俺が説明すると、すぐに理解してくれた。
ボアボアはとても賢いキマイラのようだ。
「ボアボアが怪我する前に、ぬた打ちまくった場所が、その畑なんだよ」
「ぶぼ」
「畑でぬた打たれると、作物がダメになっちゃうからな」
ボアボアは「なんかごめんね」と謝っている。
「知らなかったんだから、いいよ。以後気を付けてくれたらうれしいけど」
「ぶぼい」
「理解してくれて、ありがとう」
元々、ヒッポリアスとシロたちの匂いがしている拠点付近にはほとんどの魔物と動物は近づかない。
ボアボアが近づいて来たのは、とても強いから匂いを恐れなかったからだ。
ボアボアクラスの魔物は、そういない。
これからは畑に近づく魔物や動物はほとんどいないに違いない。
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