130 朝風呂

 みんなでひなたぼっこをしながら、一時間ぐらいのんびり過ごした。

 うとうとしていたら、ヒッポリアスが俺のひざの上にのってくる。


「きゅおきゅお!」

「どうした?」

『おんせんある』

「あの野生の温泉か。だが、少し遠いぞ」


 野生の温泉とは、魔熊モドキに連れられたクロたち子魔狼に出会ったところだ。


『ちかくにあるよ?』

「そうなのか?」

『まえ、あそんでたときにみつけた』


 ヒッポリアスはよく単独行動している。

 その際に走りまくっているので、俺たちよりこの辺りには詳しいのだ。


「ボアボア。近くに温泉があるらしいが、行くか?」

「ぶぶい!」


 ボアボアは温泉が好きらしい。

 すごく行きたいという感情が伝わってくる。


「じゃあ、行くか」

「野生の温泉か。悪くない」

「があぅ」「ぶおぶい」


 ケリーも飛竜も、ボアボアの子供も乗り気である。


「ケリーは……」

「なんだ?」

「いや、何でもない。気にするな」


 ケリーと混浴というのはどうかと思ったのだ。

 だが、考えてみれば、適当に余った木材でしきりでも作ればいいだけだ。

 大した手間ではない。


 俺たちはヒッポリアスを先頭にして、温泉に向かって歩いて行く。

 五分ぐらい歩くと、温泉が本当にあった。


 クロたちと出会ったところよりは小さい。

 だが、ボアボアや飛竜が入っても余裕があるぐらいには広かった。


「このあたりって温泉が豊富だな」

「火山の活動が活発なのかも知れないね」


 温泉に手を入れて、温度を確かめていたケリーがそんなことを言う。


「それは怖いな」

「噴火の予測は、地質学者でも難しいらしいからな」

「それはそうだろうな」

「噴火が明日か数年先か数十年先か数百年先かわからない。そんなものらしい」

「まあ、気にしてもしょうが無いか」

「そうだね」


 そんなことを話していると、ボアボア親子と飛竜、ヒッポリアスがお湯の中に入っていく。

 手前は浅いが、奥に行くにつれてどんどん深くなるらしい。

 子供を連れてきたら溺れそうで怖い構造だ。


 だが、身体の大きい飛竜とボアボアがいるので今は安心だ。

 ヒッポリアスも今は小さいが、一瞬で大きくなれる。


 ボアボアたちが風呂に入りに行くのを見たケリーが、

「よぉし、私も――」

 服を脱ごうとする。


「ケリーは、少し待て」

「ん? どうした?」

「いま、仕切りを作るから、服はまだ脱ぐな」

「ふむ。冒険者なら男女混浴も普通だろう?」

「本当にケリーは冒険者向きの性格をしているな」

「そうか?」


 別に褒めていないのだが、ケリーは少し照れていた。


 俺は製作スキルを使って、仕切りを作っていく。

 俺の背丈ぐらいまであって、向こうが見えなければそれでいい。


 温泉を八対二の割合で仕切っていく。

 広さに差があるのは、ボアボアと飛竜が入るスペ-スのためだ。


 脱衣している様子が見えないように、温泉の外まで仕切りを延長しておく。


「これでよしと、ケリーはそっちに入ってくれ」

「ボアボアたちと入れないのは残念だが仕方ない。それと仕切りありがとう」

「どういたしまして」


 ケリーが仕切りの向こうに向かったので、俺も服を脱ぐ。

 俺は頭の上にピイを乗せたまま、お湯の中に入った。


「うん。いい湯だな」


 拠点のお風呂もいいが、露天風呂もいい。


「なんというか、明るいうちに入るお風呂は特別感じがするよな」

「そうだな。とてもいい湯だ」


 ケリーも仕切りの向こうでお湯を堪能しているようだ。

 ピイも俺の頭から降りてお湯の中に入った。

 いつもの風呂のときと同じように、ピイは俺のすぐ近くをふよふよと漂っている。


「……ぶいぃぃ」


 ボアボアがお湯の中で伸びをしている。


「ボアボア。どうだ?」

「ぶい」


 どうやら気持ちがいいらしい。

 飛竜も大人しくお湯につかっている。

 そしてヒッポリアスとボアボアの子供は俺の近くを泳いでいた。


「温泉の効果で、怪我もきっと早く治るぞ」

「ぶぅい」


 気持ちがよさそうなボアボアを見ていると、こちらも気持ちよくなってくる。


「……温泉の効果は諸説がある。が、まあ暖めるのは悪くないんじゃないかぁ」


 ケリーの気の抜けた声が仕切りの向こうから聞こえてくる。

 ケリー自身気持ちよくなっているのだろう。

 そうなるのは俺もよくわかる。

 俺自身も、気持ちが良くて、気が抜けてしまっているからだ。


「……ぶぅぃ」

「ボアボアの子供も気持ちがいいのか」

「…………ぶぃ~」


 俺の近くを泳ぐボアボアの子供の方にピイが移動する。

 恐らくボアボアの子供から流れ出た汚れをピイが浄化してくれているのだろう。

 野生なのだから、汚れているのは当たり前である。

 猪ではないとはいえ、ボアボアたちは、泥の上でぬた打つのが好きなのだ。


「拠点のお風呂に入るなら、念入りに洗ってからだが、ここも野生の温泉だからな」

「ぶぅい」


 野生の温泉に野生の魔獣が入るのだから、そのまま入るのが自然というものだ。


 そんなことを考えていると、

「あ~。テオさん、帰ってこないと思ったら、楽しそうなことしてる!」

 後からジゼラの声がした。

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