129 朝ご飯

 俺は猪の内臓をひたすら焼いて、ボアボア親子、飛竜、そしてヒッポリアスに食べさせていく。

 その間、ピイは皆の身体を順番に移動して、ダニとノミを退治してくれていた。


「ピイ、本当に肉を食べなくていいのか?」

『いい。ちたべたし』


 血抜きしたときにピイは猪の血を全部食べて、いや飲んでいた。


「遠慮しないで肉も食べていいんだぞ?」

『ちのほうがうまい』

「そうか」


 やはりスライムの味覚は、魔獣の中でも独特らしい。


 猪一頭分の肉と、三頭分の内臓を食べて、やっとボアボアたちは満腹になったようだ。


「ぶーい」

「……ぶ……ぃ」


 ボアボアがお礼を言うと、ボアボアの子供も半分眠りながらお礼を言った。

 子供だから必要な睡眠時間が長いのだろう。

 それに、親が怪我していて、不安で深く寝付けなかったのかも知れない。


「がぁう」

「いや、こちらこそありがとうだよ。飛竜が猪を狩ってきてくれて、とても助かった」

「ががあう」


 飛竜もお腹いっぱい食べて満足したようで良かった。

 俺は満腹になってまったりしているボアボアの隣に行った。


「ボアボア、怪我の具合はどうだ?」

「ぶぃ」


 ボアボアの体調はいいらしい。

 肉を沢山食べていたので、本当に調子はいいのだろう。


「そうか。だが、念のために食後の薬を飲んでおきなさい」

「……ぶぃ」


 俺は解毒ポーションを手早く作って皿に入れる。


「ぶぃ!」


 それをボアボアは一息で飲んだ。

 とてもまずいので、一気に飲んだ方がいいのだろう。


「傷もほとんど塞がっているか。やはり体力があるようだな」

「ぶぉ」


 そもそも、体力がなかったら、俺がたどり着く前に死んでいただろう。

 そのぐらいボアボアの負った傷は深手だった。


「一応、傷薬ポーションも塗っておこう」

「ぶい」

「気にするな」


 丁寧にお礼をいうボアボアを撫でると、俺は手早く傷薬ポーションを作ってボアボアに塗った。

 それからボアボアの横に座る。

 午前中の光が暖かくて、気持ちがよかった。


 ボアボアたちも飛竜もヒッポリアスもピイも、ひなたぼっこしている。

 ボアボアの巣は日の入らない暗い洞穴だったが、日光が嫌いというわけではないようだ。


「テオさん、これを見てくれ」

「ん?」


 ゆったりと横たわるボアボアの身体を調べまくっていたケリーが何かを見つけたらしい。

 俺はケリーに近づいた。


「どうした?」

「私はボアボアがぬたうった痕跡を見て、キマイラだと判断したんだが」

「そうだな」

「やはり、その見立ては正しかったようだ」


 そういって、ケリーは胸を張る。


「なにか、キマイラの証拠となるものを見つけたのか?」

「ああ、ここを見てほしい。ボアボアがキマイラの証拠だ」


 ケリーはボアボアの耳辺りの毛をかき分けている。


「ぶぅぃ」


 ケリーの手が気持ちよいのか、ボアボアは目をつぶってうっとりしていた。

 相変わらず、ケリーは魔物の扱いが上手い。


 それはそれとして、ケリーが何をもってキマイラだと主張しているのか、俺にはさっぱりわからなかった。


「……ケリー、どれのことだ?」

「この耳だ」

「ふむ?」

「キマイラという魔獣は、複数の魔物の特徴を備えているんだ」

「それは俺も知っているが……」


 旧大陸のキマイラは、ライオンの頭にヤギの胴体、毒蛇の尻尾を持つと言われている。

 もしかしたら、それら特徴の一部がボアボアにもあるのだろうか。


「この耳がライオンの耳とか?」

「違うぞ。全然形が違うだろう?」

「……ライオンの耳には詳しくなくてな」

「そうか、そうだよな。ライオンの耳をじっくり見る機会などそうはないよな。すまない」

「いや、謝らなくてもいいが、大きい猫みたいなものか?」

「猫とライオンは似ているが、耳は違うな。ライオンの耳の方がまるくなっているんだ」

「へー」「きゅお~」


 俺が感心していると、いつの間にかやってきたヒッポリアスも感心していた。


「ライオンの耳は、まあどうでもいいとして、ボアボアの耳を見てくれ、これはヤギの耳なんだ」

「ふむ?」


 ボアボアの耳は、確かに猪の耳より大きいというか長い感じがする。

 それに猪の耳は尖った三角だが、ボアボアの先が丸い。


「ボアボアの体毛を、テオさんはヤギの毛に近いと鑑定していたね」

「そうだな」

「ボアボアは耳と体毛がヤギ。頭と胴体はシシのキマイラだな」

「獅子?」

「いや、シシ。イノシシのシシだ」

「…………へぇ。それって新種の猪とかじゃないのか?」

「キマイラの定義が、複数の魔物の特徴を備えた複合体だからな。新種のキマイラに分類すべきだろう」

「そんなものか」

「ああ、そういうものなんだ」


 魔獣学者のケリーがそういうのなら、そうなのだろう。

 それに、ジゼラの勇者の勘もボアボアをキマイラだと見抜いていた。

 二人の専門家がそう言うのだから、恐らくそれが正しいのだ。

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