128 猪肉ステーキを食べよう

 しばらくして、中心は生だが、表面はしっかり焼けた状態になる。


「うん、いい感じだな」

「テオさん、言わなくてもわかると思うが……」

「わかってる。これは飛竜とボアボア親子、それにヒッポリアスの分だよ」

「ぶい?」


 ボアボアが「お前たち食べなくていいのか」と心配してくれる。


「ああ、レアの方が味は美味いんだが、人の胃だと寄生虫が怖いからな」

「ぶぼぼ」

「飛竜の胃液に耐えられる寄生虫はまずいないからな。ボアボアもきっとそうだろう。ケリーはどう思う?」

「まあ、詳しくは調べていないが、ボアボアたちは普段から生で食べているんだ。問題ないだろうさ」


 ボアボアたちは、外見こそ猪に似てはいるが、高位の魔獣であるキマイラだ。

 胃も強いはずだ。


「ぶっぶい」


 ボアボアも余裕だと言っている。いつも生で食べているらしい。


「そういえば、ボアボアはどうして焼いた方が美味いって知っているんだ?」

「ぶいぶぼぼ」

「なるほど。火炎魔法で倒した時に知ったと……」


 肉は火をいれると、変性して美味くなるのだ。


「ぶぼぼ」


 ボアボアは、火炎魔法で肉を焼くのは非常に疲れると言っていた。

 だからこそ、ごちそうなのだという。


「それじゃあ、沢山食べてくれ。……皿が必要だな」

「ぶぼ」


 ボアボアは、気にするな地面に置いてくれと言っているが、そういうわけにもいくまい。


 俺は素早くそこらの石を使って、大きい皿を二枚とそれより小さな皿を一枚作る。

 飛竜とボアボア、そしてボアボアの子供の皿だ。


「形はそんなに良くないが、許してくれ」

「がお」「ぶぼ」「ぶぶい」


 三者とも皿を気に入ってくれたようだ。


「じゃあ、肉を分けるぞ。また次をすぐに焼くからな」


 俺は怪我人のボアボアの皿に大きめの焼いた肉を置く。

 そして肉を取ってきてくれた飛竜の皿とボアボアの子供の皿にも焼いた肉を置いた。

 塩は振ってあるが、こしょうはまだだ。


「飛竜、こしょうを振るぞ」

「がお!」


 俺がこしょうをふると、飛竜は美味しそうに食べ始めた。


「ぶい」

「こしょうを試してみたいんだな」

「ぶいぶい」

「いいぞ」


 ボアボアもこしょうにチャレンジしたいらしい。

 俺は焼いている途中の肉を切り取って塩こしょうを振って、ボアボアの皿に乗せる。


「これが、こしょうをふった肉だ。口に合うか確かめてくれ」

「ぶぃ…………ぶぶい!」

「口に合ったのか?」

「ぶっぶーい!」


 どうやら、ボアボアはこしょうをかけた肉をとても気に入ったらしい。


 俺は怪我人、いや怪我キマイラのボアボアに優先的に肉を取り分けていく。

 そうしながら、自分たちの食べる肉は端の方でじっくり焼いていった。


 キマイラであるボアボア親子や飛竜とは違って、人間の俺たちには生の猪肉は危険だからだ。



「ケリー。そろそろこの辺りは食べて大丈夫だと思うぞ」

「ありがとう。いただこう」


 しっかりと焼かなくてもいいので回転が速いとはいえ、ボアボアたちは身体が大きく食べる量が多い。

 ボアボアたちの肉を焼いている間にちょこちょこ食べているだけで、あっというまに俺たちはお腹いっぱいになった。


「ボアボアたちはまだ食べるだろう?」

「……ぶぶお」


 ボアボアは俺たちより沢山食べていることを申し訳なく思っているようだ。


「遠慮するな。といっても俺が狩ってきた猪ではないんだが……」

「がおがう!」


 飛竜もお腹いっぱい食べろと言っている。

 足りなければ、すぐに取ってくるから安心しろということらしい。


「ぶーい」

「じゃあ、猪の内臓を食べるか?」

「ぶぶい!」「ぶっぶい」


 やはりボアボア親子は猪の内臓が好きらしい。


「きゅお!」

「そういえば、ヒッポリアスも好きだったな」

『ひっぽりあすのぶん、ある?』

「ヒッポリアスの分も焼くから安心しなさい」

「きゅぅ」


 ボアボア親子とヒッポリアスは内臓を食べたくて目を輝かせている。

 飛竜は何も言わないが、内臓が好きらしい。こちらをチラチラと見ていた。


「もちろん、飛竜の分もやこう」

「がお!」


 俺は飛竜の狩ってきた猪の内臓を焼いていく。


「猪の内臓は、人間は食べないから、みんなで食べていいぞ」

「ぶい?」

「遠慮しているわけじゃないぞ」


 旧大陸の猪は内臓も食べられるのだが、新大陸の猪の内臓はものすごくまずいのだ。

 もしかしたら、食べている物が違うからなのかも知れない。


「ヒッポリアス」

「きゅお?」

「前に狩ってきてくれた猪の内臓が、魔法の鞄の中にまだあるんだが……」


 人間の口に合わないので、猪の内臓は余り気味なのだ。

 ヒッポリアスや魔狼たちは美味しく食べられるので、鞄の中に入れて保存してあった。


『ぼあぼあにたべさせて! たりないなら、あとでとってくる!』

「ありがとう」


 ヒッポリアスは怪我をしたボアボアのことを気遣っている。

 幼いのに、ヒッポリアスはとても心優しい竜なのだ。

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