127 猪肉ステーキを焼こう

 かまどは大きい。

 とはいえ、一回では木を使い切れない。

 そのぐらいヒッポリアスの倒してくれた木は大きいのだ。


「余った分は、拠点で使う燃料にしよう」


 炊事で毎日使う。冬になれば暖房でも使うようになるだろう。

 俺は今使う分以外の薪を魔法の鞄に入れておいた。


 それから、薪をさらに細かく割り、かまどの中に組んでいく。

 空気がよく通るようにしなければならない。


 組み終わったところで、

「があぅ」

 飛竜が火起こしの手伝いを申し出てくれた。


「ん? それはありがたいが、飛竜の吐いた火は威力が高すぎるからな」


 薪など一瞬で燃え尽きてしまうだろう。


「がう!」

「そうか。ならば頼む」


 飛竜が手加減出来ると自信満々に言うので任せることにする。


「がぁぅ……っぼ」


 飛竜はほんの小さな炎を吐いた。

 それは親指の先ほどの小さなだが、かなり熱そうな青い炎だ。

 小さな青い炎がかまどに入ると、赤色に変わる。


「おお、一瞬では消えないのか」

「があう!」


 飛竜はどや顔で尻尾を揺らしている。

 飛竜の吐いた炎は、俺の組んだ薪の下方に着弾すると、消えずにそのまま燃え続ける。

 そして薪はゆっくりと燃えていった。


「飛竜。ちょうどいい炎だよ。飛竜は火を起こすのが得意なんだな」

「がうがあう!」


 どうやら、地元でも、肉を焼くためにたまにやっているらしい。


「飛竜は炎のブレスで肉を直接焼くものだと思っていたよ」

「がーぁう。がうがうがーう」


 ブレスで直に焼くことも出来る。だが、火加減が難しい。

 一定の弱い火力で、長い時間かけて焼かなければならないのだ。


 なにしろ竜たちの食べる肉の塊だ。どうしても巨大になる。

 じんわり焼くためには、時間がかかってしまう。


 長時間ブレスを維持するのは疲れるし大変だ。

 そのうえ、少し失敗するだけで、丸焦げになってしまう。

 だから、飛竜は木や炭に火を移し、岩を熱してその上で肉を焼くのだという。


「がうがーう」

「なるほど。肉を薄く切るのも大事なのか」


 薄くと言っても、飛竜基準での「薄い」だ。

 〇・一メトルぐらいの分厚いステーキにしているらしい。


「グルメなんだな」

「がう」

「なるほど? 冷めた溶岩の板の上で焼くと美味いのか」

「がうがうがーう」


 それは知らなかった。

 というか石を板にするのと何が違うのか、よくわからない。

 だが、いろんな石を試した飛竜が美味いというのだから、美味いのだろう。


「ががうがうがう」

「飛竜の宝なのか。なるほどなぁ」


 冒険者たちが信じているように、竜は宝をため込める。

 それは間違いない。

 だが、竜の基準での宝と人間の基準での宝は違う。

 もし飛竜の巣に忍び込んだ泥棒が居たら、石の板をみてがっかりするに違いない。


「ときに飛竜、それは飛竜の一族の皆が溶岩の板の上で肉を焼くのか?」


 ケリーの知らない飛竜の生態だったらしい。

 ノートを片手に、目を輝かせて近づいてきた。


 そんなケリーと飛竜の通訳をしていると

『ひっぽりあすもたべたい』

 ヒッポリアスが俺の足に頭をこすりつけにきた。


「溶岩の板で焼いた肉をか。地質学者の調査待ちだな」 

「きゅお」


 ケリーと飛竜の通訳をしている間に、石の板が充分熱くなる。


「さて、肉を焼くか」


 飛竜は〇・一メトルぐらいの分厚いステーキを食べているらしい。

 だが、さすがにそれは焼くのに時間がかかるので、その半分にする。

 それでも、人的には非常に分厚い。


「焦げすぎないように火力は弱めにしてと……」


 かまどの空気の通り道を狭くして、火を弱める。

 そうしてから、肉を板の上に乗せた。

 ジューっという、美味しそうな音が鳴る。


「……きゅお。ごきゅ」


 ヒッポリアスが目を輝かせてつばを飲み込んでいる。


「イジェがいたらもっと上手に焼いてくれるんだがな」

「がお?」

「ああ、イジェっていうのは、俺たちの仲間だ。料理がうまい」

「ががお」「ぶぅぶい」


 料理がうまいと聞いて、飛竜とボアボアの子供は興味を持ったようだ。


「飛竜は塩こしょうはどうする?」

「がうががう」

「飛竜は塩とこしょうありの方が好きなんだな。わかったよ」

「がーがう!」

「なるほど、味付けは濃い方が好きなんだな」


 飛竜は塩もこしょうもたっぷりかけて欲しいと言っている。


「それでボアボアは塩とこしょうどうする?」

「ぶっぶい」

「塩だけのほうがいいか。そもそもこしょうが何か知っているのか?」

「ぶーぶい」

「知らないのか。じゃあ、とりあえず塩だけふっておくよ」

「ぶぶい」


 後でこしょうをかけたやつも食べてもらって、どっちが好みか聞けばいいだろう。

 俺は魔法の鞄から塩を取りだして、肉に振りかけた。

 塩とこしょうは、現代の冒険者の必須装備なのだ。


「ヒッポリアスは俺と同じでいいんだな」

「きゅおお」


 そんなことを話しながら、肉を焼いていく。

 途中で裏返して、じっくりと焼いていった。

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