126 火をおこそう

 俺はピイが綺麗にしてくれた猪の毛皮をたたんで、魔法の鞄の中に入れた。


「ピイ、本当に助かるよ」

「ぴい」


 そして俺は肉の解体に入る。


「飛竜。すまないが、もう少しそのまま吊して持っていてくれ」

「ががう!」

「飛竜は内臓は食べるよな?」

「がう」

「そうだよな。内臓も食べるよな」


 普通の野生肉食動物や野生の肉食魔獣は内臓を食べるのが普通だ。

 むしろ内臓から食べるまである。


「内臓と肉は焼いた方がいいか?」

「ががう!」


 飛竜はどっちも好きだという。


「ボアボアの子供は?」

「ぶぼ!」


 ボアボアの子供は勢いよく「内臓食べる!」という意味の意志が届く。

 とてもボアボア親子も猪の内臓は大好きらしい。


 人間にとっては、新大陸の猪の内臓は非常にまずい。

 だが、魔獣たちには大人気のようだ。


「ボアボアの子供は焼いたのと生とどっちが好きなんだ?」

「ぶぼ~?」

「わかんないか。……ボアボアはどうだ?」


 俺は洞穴の奥にいるボアボアに尋ねる。


「ぶぼぉ?」


 洞穴の奥から「どうしたの?」と言った意味の意志が返ってきた。


「肉と内臓は焼いて食べるのと生のままで食べるの、どっちが好きなんだ?」

「ぶぶぼぼお」

「そうか、焼いた方が好きなのか」


 どこで焼かれた肉を食べたのかは、少し気になる。

 山火事で焼け死んだ肉だろうか。それとも落雷だろうか。

 ボアボア自身が火の魔法を使えるのかもしれない。


 俺がそんなことを考えていると、

「ふうむ。ボアボアはどこで焼いた肉を食べたんだ?」

 ケリーも同じことを疑問に思ったらしい。


 そして、肉の解体が終わる。


「これでよしっと。飛竜ありがとう」

「がう?」

「ボアボア。洞穴の外に行って焼いてくるな」

「ぶぼぼあ」


 洞穴の奥からボアボアが出てくる。


「ボアボア、寝てなくて大丈夫なのか?」

「ぶぼお」


 大丈夫と力強く言っているが、少し心配だ。


「ケリー、少しボアボアのことを診てくれないか」

「ああ、わかった」

「俺は外で肉を焼いてくるよ」


 俺は肉を魔法の鞄に放り込んで、洞穴の外に向かう。

 ヒッポリアスとボアボアの子供、飛竜が付いてくる。

 ピイはケリーと一緒にボアボアの身体を調べているようだった。


「適当にかまどを作って……と」


 そこらにある岩を材料にして、かまどを作る。

 別に正確さは求められないので、さほど難しくない。


「猪は大きいから、かまども大きくしたほうがいいな」


 ボアボアや飛竜が食べる量を焼くのだ。

 小さなかまどでは、いつまでかかるかわからない。


「このぐらいか」


 猪の巨体を丸ごと乗せられるぐらいの大きさのかまどにした。

 そして、かまどの上には石を材料にした板を設置する。

 製作スキルをつかったので、一様で継ぎ目のない板を作れるのだ。


「燃料は……その辺りの木を使うか」

『たおす?』

「ありがとうヒッポリアス。お願いできるかな」

「きゅお!」


 ヒッポリアスは一瞬で巨大になって、いつものように木を一本倒してくれる。


「ぶいぶい!」

「がああお!」


 ボアボアの子供と飛竜は、大きくなった力強いヒッポリアスをみて驚いている。

 

 そんなボアボアの子供や飛竜に向けてどや顔しながら、ヒッポリアスは倒したばかりの木を運んでくる。


「きゅお!」

「ありがとう、ヒッポリアス。助かったよ」

「きゅうお」


 すぐにヒッポリアスは小さくなる。


「きゅお」「ぶぶい」

 そして、ボアボアの子供と遊び始めた。


 一方、俺はヒッポリアスが運んでくれた木を調べる。


「生木をそのまま燃料にするわけには行かないからな……」


 俺は製作スキルを発動させる。

 木の水分を使って、水をつくりだすことで乾燥させるのだ。

 海水から真水を作ったり、金属の鉱脈からインゴットをつくるのと同じ要領である。

 まとめた枝から、水を作り出して皿に入れる。


「飲んでもいいぞ」

「ぶ~い」


 ボアボアの子供は、水が出現したことに驚愕しているようだ。


「製作スキルを使ったんだ。とはいえ、木に水が多少残っていても問題ないから――」


 それに素材として使うわけでもないので、ゆがみがあったり、割れても何の問題もない。

 だから簡単だ、というようなことをボアボアの子供に説明する。


「ぶごぶご」


 俺が説明している間に、ボアボアの子供は美味しそうに水を飲んでいた。


「ぶい!」

「美味しかったのなら良かったよ」

「ぶ~い」

「わかった。ボアボアにもだな」


 ボアボアの子供はボアボアにも、この美味しい水を飲ませて欲しいという。

 俺は火を起こす前にボアボアの前に水を持っていく。


 ヒッポリアスが倒してくれたのは大きな木だった。

 だから、中に含まれる水分もかなり多量だ。

 俺は大きなたらいに水を入れてボアボアの前に置く。


「ボアボア。喉が乾いていたら飲んでくれ」

「ぶぼぼ」

「気にするな。ご飯はすぐ出来るから、もう少し待っていてくれ」


 俺はヒッポリアスが倒してくれた木を使って、薪を作る。

 これも製作スキルを使う。

 別に精密でなくてもいいし、多少不揃いでも問題ない。

 だから非常に楽である。


 だから、あっというまに燃料の準備は完了したのだった。

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