124 朝ご飯の準備

 目を覚ましたとき、洞穴の外が明るくなっているのが見えた。

 俺は飛竜の大きな体によりかかり眠っていた。

 飛竜の体は温かく、そしてほどよく堅くてもたれ心地が良いのだ。


「ぶぃぶおぉ」


 そして、ボアボアの子供が俺のお腹あたりに鼻先を押しつけて匂いを嗅いでいた。


「どうした、ボアボアの子供。お腹でも空いたのか?」

「がお」


 飛竜がご飯を取ってきてくれるという。


「いいのか?」

「がおがお」

「ありがとう」


 飛竜はゆっくりと起き上がると、洞穴の外へと向かう。

 そして、空へと飛び上がった。


「相変わらず、速いなぁ」


 この速さで、ジゼラを乗せて旧大陸から渡ってきたのだ。


「飛竜に乗れば、上空から、新大陸の様子を探れるかもな」


 地質学者も気候学者も大喜びしそうだ。

 だが、大陸を一回りするとなると、数日ではすまないだろう。

 数週間、いや数ヶ月はみた方がいい。

 新大陸が小さかったら、あっというまだろうが、それはなさそうだ。


「飛竜は帰らないとだからな」


 近いうちに卵が産まれるのだから、数ヶ月も拘束できない。

 俺がお願いしたら、飛竜は優しくて義理堅いから、協力してくれるかもしれない。

 だからこそ、俺からは協力を頼めない。

 飛竜には飛竜の都合があるのだから。


 俺たちはゆっくりと、着実に調査を進めるべきだろう。

 そのうち、こちら側で高速で空を飛べる魔獣と協力関係になれることもあるかもしれない。


「ぶぃぶぃ」

「ボアボアの子は元気だな」

「きゅおきゅお」


 ヒッポリアスもボアボアの子供と一緒に俺のお腹に鼻をくっつけている。

 そんなヒッポリアスとボアボアを撫でていると、ピイが俺の頭を揉んでくれていた。


「ありがとう。ピイ」

「ぴぴい」


 頭の凝りがとれて、目がすっきりする。

 それから、ボアボアの子供のうえにピイは移動する。


「ぴい」

「ぶぃ?」

「ピイはノミを取ってあげたいようだ。構わないか?」

「ぶぶい」


 ボアボアの子供がいいよというので、ピイはノミを取り始める。

 ノミを取ると言うよりも捕食していると言ったほうがいいのかもしれない。

 端から見ていると、マッサージしているようにしか見えない。

 ボアボアの子供も「ぶぅ~ぃ」とか、気持ちよさそうな気の抜けた声で鳴いていた。


「ピイ。ボアボアにもノミはいたのか?」

『いた』

「そうか。野生だとどうしてもいるよな」

『うん』


 昨日、ボアボアにマッサージした際にもノミを取ったりしてあげていたのだろう。

 しばらく、ピイのノミ取りを見守っていると、

「がぁう!」

 飛竜が帰ってくる。


「ブギィ!」


 飛竜が口に咥えているのは猪だ。

 正直、ボアボアやボアボアの子供に似ている。


 猪の鳴き声を聞いたケリーが奥から出てくる。

 

「お、飛竜。猪を捕ってきてくれたのかい?」

「がう」

「本当に飛竜はいい子だな」


 そんなことを言いながらケリーは飛竜を撫でている。


「飛竜、今のうちに猪を絞めよう。いいか?」

「がう」


 飛竜が任せるというので、俺は短剣で猪にとどめを刺した。


「があう」


 飛竜は猪の後ろ足を掴んで逆さにつるす。

 血抜きをするためだ。

 あふれ出す血は、ピイが素早く受け止めてくれるので汚れない。


 血はきちんと処理しないと、肉食の獣を呼び寄せることになる。

 飛竜もボアボアも強いので、その心配は少ないかもしれない。

 だが、きちんと処理するのが冒険者を長い間やっていた俺の習慣なのだ。

 きちんと処理しないと、モヤモヤしてしまう。


「テオさん、ちょっといいかな?」

「どうした?」

「飛竜に血を抜いた方が美味いのか聞いてくれ」

「どうなんだ? 飛竜?」

「があう」

「血抜きした方が美味いらしいぞ」

「ほほう」


 嬉しそうにケリーはメモを取り始める。


『ひっぽりあすも! ちぬきしたほうがうまい!』

「ヒッポリアスも血を抜いた方が好みらしいぞ。ボアボアの子供はどうだ?」

「っぼ?」

「ボアボアの子供は血抜きを知らないらしい」

「なるほど、そうなのか。まあ身体の構造を考えても難しそうだものな」


 ケリーはうんうんと頷いている。

 ボアボアは猪ではないが、見た目も、身体の構造もほぼ猪である。

 手を使えないと血抜きするのは難しいだろう。


「血抜きした肉を後で食べてもらうから、そのときにどっちが美味いか教えてくれ」

「ぶぼぼ」


 ボアボアの子供も楽しみなようだ。

 よだれが垂れているほどだ。


「ちなみにピイは?」

『どっちもすき』

「そうか」

『にくもうまい。ちもうまい』

「ピイは何でも好きだな」

『うん! ちぬき、ぴいがてつだう?』

「ん? 頼めるか?」

「ぴい!」


 ピイはぴょんと猪の傷口に飛びついた。

 そして、血を吸っているようだった。


「こうしていると、やはりスライムって感じがするね」


 ケイがうんうんと頷いている。


「そうだな。旧大陸のスライムは血を吸いながら肉を溶かすけどな」


 旧大陸でのスライムは、非常に恐ろしい魔物なのだ。

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