119 ジゼラのお話3

 それを聞いたケリーが首をかしげる。


「ジゼラ。そのボアボアっていうのが、キマイラなんだろう?」

「そうだよ」

「戦闘にならなかったのか?」

「ならなかったよ。ボアボアはとても大人しくて人なつこいんだ」

「ふうむ。こちらのキマイラは友好的なのか。スライムと同じか」


 旧大陸のスライムは非常に凶暴で好戦的で、従魔にするなど不可能だ。

 だが、ピイとその仲間たちは、とても可愛く、人なつこくて心優しく大人しい性格なのだ。

 大陸が違えば、同じ種族でも全く性質が違うこともありうるのは間違いない。


「それでボアボアたちもお腹が空いていそうだったから、一緒にお肉を食べたんだ」

「猪の肉をか」

「そうだよ。それがどうしたの? テオさん」

「いや、何でもない」


 その様子を見たら、十人が十人とも共食いだと思うだろう。


「まあいいけど。で、お腹が痛くて苦しんでるぼくをみて、ボアボアが巣に誘ってくれたんだよ」

「気の利くイノシ、いや魔獣だな」


 俺は猪といいかけて、やめた。

 ボアボアがキマイラか猪か、いまここで議論しても仕方ないからだ。


「その巣は、テオさんがきたあの洞穴だよ」

「雨風をしのげるから、良さそうだな」

「うん。そうなんだ」

「ちなみにそれは何日前だ?」

「三日かな?」

「三日もあの洞穴で苦しんでいたのか……大変だったな」

「大変だった」


 疑問点はまだある。


「で、どういう状況でボアボアが怪我したんだ?」


 魔熊モドキの亜種みたいな奴と戦って大けがをしたとジゼラは言っていた。

 そして、その敵はジゼラが倒したとも。


「飛竜とボアボアがご飯を運んでくれたんだけど」

「ふむ」

「昨夜、ボアボアが狩りに出た後、悲鳴が聞こえたんだ」

「ボアボアの?」

「そう。ボアボアの。大変なことが起こったと思ってぼくが走って向かうと、ボアボアが強い敵にやられて大けがしてたんだ」

「強い奴って言うのはどういう奴だった? 詳しく聞きたい」


 残された角を鑑定したことで、魔熊モドキの亜種だとはわかっている。


「あ、ちなみに、その強いやつの角がこれだ」


 そういって、俺はヴィクトルやケリーたちの前に魔熊モドキの亜種の角を置く。


「その角の空洞部分に毒が入っていたらしい。触るときは気をつけてくれ」

「わかりました」

「気をつけよう」

「うん。ジゼラ、続きを頼む」

「えーっと」


 思い出しながら、ジゼラは語っていく。

 身長三メトルほどの人型で、身体全体が濃い茶色い靄のようなものに覆われていたらしい。


 濃い茶色で覆われているというのは、俺とヒッポリアスたちが戦った魔熊モドキと同じだ。

 だが、俺たちが戦った奴の身長は三・五メトルぐらいあった。

 ジゼラが戦った奴の方が、背は低かったらしい。


 だからといって、弱いというわけではないだろう。

 角と毒を持っているのだ。戦うとなると厄介だ。


「全身が茶色いから、ぱっとみ熊っぽいんだよな」

「あんな熊は居ないよ。いや、あれは生き物じゃない」


 ジゼラは真面目な表情で言う。


「生きている状態で鑑定スキルが効いたから、生き物じゃないのは間違いない」

「うん。そだね」

「俺とヒッポリアスとフィオとシロで似たような奴と戦ったことがある」

「そいつは強かった?」

「強かった。外見だけでいうと、皮を剥がされた人に似ていた」

「たしかにそうかも。でも雰囲気は生物とは別ものだった。アンデッドとか魔神に近いかも」


 そういったあと、興味津々な様子でジゼラが言う。


「で、テオさんはどうやって倒したの?」


 俺は簡単にどうやって戦ったかを説明する。

 それは、ヒッポリアスがいかに活躍したか、フィオとシロがどれだけ勇敢だったかの説明になる


「ヒッポリアスは強いんだねえ。竜の中でも強い方だよ」

「きゅお」

「それにフィオも凄いね」

「えへへ」

「シロは……まだおねむかな」


 シロは子魔狼たちと一緒に気持ちよさそうに眠っている。

 シロはまだ子供、それに子魔狼は赤ちゃんだ。

 必要な睡眠時間は長いのだ。


「それにしてもシロ、クロ、ロロ、ルルは可愛いねぇ」

「ああ、ものすごく可愛い」

「かわいい!」


 フィオも自慢げだ。

 脱線した話を戻そうと、ヴィクトルが言う。


「あの、ジゼラさん、テオさんがヒッポリアスさんと力を合わせたというその化け物をどうやって倒したんですか?」

「普通に、剣で斬っただけだよ」


 勇者というのは本当に反則級に強い。

 それこそ存在がチートのようなものだ。


「ジゼラ。その剣はどうした?」

「うん。一刀両断したときに折れちゃった。剣と相打ちだね」

「それは、運が良かったな」


 最後の攻撃の前に折れていたら、ジゼラでも苦戦していただろう。


「でも、折れた刀身を魔法の鞄に入れてあるんだ。テオさん。後で直して」

「それは任せろ」


 壊れた武具防具の修復は俺が勇者パーティーにいたとき主要な仕事の一つだ。

 ジゼラは魔法の鞄をまさぐって、折れた剣を取りだした。


「うん。綺麗に折れている。すぐ直せるぞ」

「さすが、テオさん。出発する前に買った奴だけど気に入ってるんだ」


 そう言ってジゼラは微笑んだ。


「ところで、ジゼラ、聖剣は?」

「役職と一緒に国に返還したよ」

「それはそうなるでしょうね。聖剣は勇者にしか扱えませんが、所有者は国、いや王家ですから」

「大丈夫。ぼくは聖剣なくても強いからね!」


 ジゼラは元気に胸を張った。

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