118 ジゼラのお話2
それまでボアボアが猪だと、なんとも言えない表情で聞いていたケリーが、
「む? キマイラだと? ジゼラはどうしてキマイラだと思った? そしてなぜテオは猪だと思ったんだ?」
前のめりになった。
「ぱっと見でキマイラだった」
「…………いや? どう見ても猪にしか見えなかったが?」
俺がそう言うと、ジゼラは楽しそうに笑う。
「またまた、テオさんは冗談が好きだね」
「いや、冗談ではないが」
「もう、ほんとにー。ボアボアは確かに見た目は猪に多少似ているとは思うけど」
「多少ってレベルではなく、猪以外の何者にも見えなかったが……」
「でも、オーラが違ったでしょ?」
「…………オーラ?」
昔からジゼラはよくわからないことを言う奴ではあった。
「オーラでわかりにくいのなら雰囲気でもいいけども……」
「……雰囲気」
雰囲気もまさに猪だった。
だが、そう言ったら、冗談を言っていると思われるかも知れない。
そう思われることは構わないのだが、このままでは話が進まない。
「まあ、洞穴の中は暗かったからな。よく見えなかったんだ」
「あー、そっかぁ。ならボアボアを猪と見間違えてもしかたないのかも」
ジゼラはやっと納得したようだった。
「まあここで話し合っていても仕方あるまい。後で私が直接見に行こう」
「そうだな、ケリーが直接見るのがいいだろうな」
そうでなければ、ボアボアがキマイラか猪か、それとも別の何かかは判断できないだろう。
「で、ジゼラ、どうしてボアボアと知り合ったのか教えてくれ」
俺が尋ねると、ジゼラは話し始める。
「あれはそう。飛竜に乗ってこっちにやってきたときのことだった」
普通の飛竜では中々新大陸まで飛ぶのは難しいかも知れない。
だが、あの飛竜は歳を経た強力な飛竜。
とても速い上に連続飛行出来る時間も長い。
だから、充分たどり着けるだけの力はあるのだ。
「新大陸にたどり着けたのはいいんだけど、テオさんたちがどこに居るかわからなくて……」
「まあ、わかりにくいよな」
俺たちは船でやってきて、拠点をつくるのに最適な場所を探してしばらく海岸線にそって移動した。
ジゼラと飛竜は空を飛んでやってきたのだ。
全く別のところに上陸したとしてもおかしくはない。
「見つからなかったけど、いつまでも飛んでいるわけにはいかないでしょ?」
「そうだな。あの飛竜はとても強いが、旧大陸から飛んできたんだ。疲れるだろう」
「そうそう。最後の方はご飯も食べられてなかったし」
「ご飯はどうしてたんだ?」
「えっとね――」
どうやら、一応ジゼラは魔法の鞄に水と食料をいれていたらしい。
自分の分と飛竜の分だ。
空を飛びながら、自分も食べつつ、飛竜にも食べさせていたようだ。
だが、思ったより飛竜が食料と水を消費したらしい。
飛んで移動することでエネルギーを使ったのだから当然だ。
「だから最後の一日半ぐらいは……ご飯も水もなくなって」
「それはきついな」
「うん。飛竜にもかわいそうなことをした」
ジゼラは反省しているようだった。
「それで、森の中に降りて、食料を探したんだ」
「このあたりは結構食料は豊富だろう?」
「うん。でも、美味しそうな赤苺があったからパクパク食べたら、お腹が痛くなって」
「…………引っかかるのが早いな」
新大陸に上陸してすぐに、赤苺に引っかかるとはかわいそうな奴である。
そんなジゼラにケリーが尋ねる。
「ジゼラ。ちなみにだが、……何個ぐらい食べたんだ?」
「個数なんて覚えてないよ。でも、このぐらい?」
そういって、ジゼラは手で〇・三メトルぐらいの円を空中に描く。
「…………そんなに食べたのか」
「とてもお腹が空いているときに、沢山の赤苺を見つけたから。それに、一つ食べたらすごく美味しかったから」
「そんなに美味いのか?」
「うん。いままで食べた赤苺よりずっと美味しかった」
「ヴィクトル。そうなのか?」
「確かに非常に美味しい赤苺でしたよ」
毒なのに美味いとは、この上なくたちが悪い。
「沢山食べてたら、飛竜が猪を咥えて戻ってきて、飛竜にも赤苺を上げようとしたら……」
「めちゃくちゃお腹が痛くなったと」
「そうなんだ。すぐに熱も出てくるし。吐き気もあるしお腹も痛いし――」
ジゼラは地面にうずくまって苦しんだという。
そんなジゼラを見て、飛竜はオロオロとするばかりだった。
だが、栄養のあるものを食べれば元気になるのでは? と思った飛竜は猪をブレスで焼いて急いで調理してくれたのだという。
血抜きもしていないし、内臓の処理もしていない。
「……それでも、飛竜がせっかく作ってくれたからね。飛竜と一緒に肉を食べたんだ」
「お腹が痛いのに、肉を食べたのか」
「……うん。美味しかった」
「それならいいが……」
「で、それはいいんだけど、肉を食べてたら、その焼いた肉の匂いに引きつけられたのか。ボアボアが来たんだ」
そして、ジゼラはボアボア親子に出会ったのだった。
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