115 ジゼラの治療

「ジゼラ、恐らくその赤苺に見えたものが毒だな」

「え? 美味しかったよ?」

「美味しい毒もあるんだ」

「そうなんだ。……赤苺にしか見えなかったのに」

「赤苺じゃなく、毒赤苺と俺たちは呼んでいる」


 俺はヴィクトルたちに飲ませた毒赤苺用の解毒薬を鞄から取り出す。


「ジゼラ。とりあえずこれを飲め」

「わかった。おいしい?」

「まずい。だが飲め」

「…………わかった」


 ジゼラはちょびちょびと解毒薬を飲む。

 ジゼラの頭の上に乗ったピイがムニムニと動いていた。


「うぇー」

「一気に飲んだ方がいいぞ」

「……わかった」


 そう言いながらも、ジゼラは時間をかけて薬を飲み干した。


「しばらくしたら治るとは思うが……」

「ありがと。元気になったかも」

「そんなわけあるか。安静にしなさい」


 とはいえ、ジゼラをここに放置するのはまずい。

 日の当たらない洞窟の中に放置したら、治る物も治るまい。


「ジゼラは、俺たちの拠点に来るか?」

「でも、ボアボアが……」


 傷はふさいだとはいえ、怪我をしているボアボアを残していきたくないのだろう。

 その気持ちはわかる。


「とはいえ、ボアボアを連れて行くのは大変だぞ」


 ボアボアの身体はとても大きい。

 体長十メトルちかいのだ。

 ヒッポリアスに力を借りても移動させるのは大変だ。

 それに無理矢理移動させれば、そのこと自体が体力を消耗させてしまうだろう。


「ブボボボボ」


 ボアボアはジゼラを連れて行けと言っている。


「だが、怪我しているのに放置するわけにも」

「がああ!」


 飛竜が自分が見ているから大丈夫という。


「うーん。飛竜は俺たちの拠点の位置がわかるのか?」

「……があ」

「そうか、わからないか」


 わかるのなら万一のことがあったとき、連絡して貰おうと思ったのだ。

 だが、よく考えたらわかるなら、ジゼラが倒れた時点で助けを呼びに来ているはずだ。


「そうだな。大体ここから……」


 俺は飛竜に拠点のある方角を教える。


「そちらの方角に来れば、建物が固まっているからわかると思う」

「がああ」


 任せろと飛竜は力強く言ってくれた。


「飛竜頼んだ。また、すぐに見に来るよ」

「ブボボボ」

「ぶぼ」


 ボアボアと子猪にお礼を言われる。


「さて、ジゼラはとりあえず俺たちの拠点で療養だ」

「ありがと、苦労をかけるよ」

「気にするな。安静にな」

「ブボボ」

「食料はあるか?」

「がう」


 飛竜は食料に余裕があると言う。

 最初飛竜を見たとき、口に大きな猪を咥えていた。

 恐らくあれが餌なのだ。


「それにしても……」


 どうみても猪のボアボアたちが、猪を食べるのかというのが意外だった。


「ブボ?」

「いや、なんでもない」


 もしかしたら、ボアボアたちは猪ではないのかも知れない。

 いや、猪でも、俺たちが食べていて、飛竜が咥えていた猪とは別物なのかも知れない。


「魚は魚を食べるのが自然だからな」

「ブ?」

「気にするな」


 ジゼラと猪親子に食べさせるための食料を、飛竜が採ってきていたらしい。

 その飛竜が採ってきた猪は洞穴の奥に置かれている。


「そうか。ボアボアたちは肉が基本なんだな」

「ブボ」

「草も食べるのか。ヒッポリアスと同じ、肉食寄りの雑食かな」

「がう」

「その肉の処理とかはしなくて大丈夫か?」

「がう」

「ブボボ」

「そうか、そのまま食べるのか」


 野生だと普通はそうだ。


「手伝って欲しいことはないか? 何でも言ってくれ」

「ブボゥ」「があう」

「そうか、遠慮しなくていいんだぞ」

「ブボボ」


 遠慮していないらしい。

 ボアボアたちからは感謝の気持ちが伝わってくる。

 礼儀正しい動物たちだ。


 そして俺はジゼラを背負うと、そのまま洞穴の外へと向かう。

 ジゼラの頭に乗っていたピイは俺の頭に移動した。


「ピイ、どうして、ジゼラの頭に?」

『あたまがこってた』

「そうか」


 マッサージしていたらしい。


「ジゼラ、ピイに頭を揉まれてどうだった?」

「楽になった気がする。薬が効いたおかげかも知れないけど」

「恐らく両方だな」

「ピイ、テオさんも、ありがとうねぇ」

「ぴぃ」

「気にするな。だが、なぜここに居るのかなどは後でゆっくり聞かせて貰うからな」

「……わかった」


 洞穴の外に出ると、ヒッポリアスが警戒して周囲を窺っていた。

 緊張した様子で尻尾を立てている。


 俺が出てきたことに気付くと、大喜びで駆け寄ってきて頭をこすりつけてきた。

 その頭を俺は撫でまくる。


「ヒッポリアス、何もなかったか?」

『なかった! そのひとは?』

「ああ、この人はジゼラ・ルルツ。俺の古い仲間だ」

『そっかー』


 俺はジゼラにもヒッポリアスのことを紹介する。


「よろしくね、ヒッポリアス」

「きゅお」


 ジゼラは、俺に背負われながらヒッポリアスの頭を撫でる。

 そして俺の頭の上に乗っているピイも撫でる。


「テオさんは、相変わらず、すごい子たちを従魔にするねぇ」

「そうだろうそうだろう。拠点にはかわいい子魔狼の従魔もいるぞ」

「うわぁ、みたいみたい」


 ジゼラの声は弾んでいる。

 食中毒で苦しんでいる者の声とは思えないほどだ。


「さて、ヒッポリアス。拠点に帰るのだが、少し急ぎたい」

『わかった! のって』

「ありがとう」


 俺たちが乗るとヒッポリアスは凄い速さで走り始めた。

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