114 勇者ジゼラ・ルルツ
俺は勇者の様子を窺う。
勇者の顔色はとても悪かった。
「ジゼラ、大丈夫か?」
勇者はその名をジゼラ・ルルツという。
「ぼくは全然大丈夫だよ」
ジゼラはそう言って微笑むが、あまり信用できない。
昔、大丈夫と言っていたのに骨折していたことがあった。
「本当のことをいいなさい」
「本当に、ちょっとお腹が痛いだけだよ」
俺はジゼラの額に手をおいた。
「ひどい熱じゃないか」
「こんなの寝てれば治るよ。それよりボアボアの方が……」
「ボアボア?」
「そこにいる子だよ」
「ふむ」
俺はボアボアと呼ばれる大きな猪の様子を見る。
そしてテイムスキルを使って語りかけた。
「痛いことはしないから、調べさせてくれ」
「ブボボボ」
「いい子だな」
ボアボアはあっさり俺が身体に触れることを認めてくれた。
信頼しているジゼラが、俺のことを信頼していそうだからだろう。
「ぶぼ!」
子猪が、警戒して俺の前に立ち塞がる。
「ボボボボボ」
「ぶぼぉ」
だが、ボアボアにたしなめられて、子猪も大人しくなった。
「ありがとう。今は痛いことはしないからな」
俺はボアボアの怪我を調べる。
「ふむ。体力があるな、ボアボア」
かなりの重傷だ。お腹に何かが刺さったようだ。
刺さった物自体は抜いてあるようだが、傷口が塞がっていない。
「これは、何が刺さっていたんだ?」
「角だよ」
ジゼラが教えてくれる。
「角? 何の角だ?」
「なんか、すっごい敵がいて、それの角を食らったの」
「そのすっごい敵とやらは?」
「倒した」
「ジゼラが?」
「そう」
流石は勇者。相変わらず強いらしい。
「それは凄い。詳しい経緯はあとで聞かせてくれ」
「わかった。ボアボアの怪我治りそう?」
「……見た限り、毒も食らっているな。血が止まっていないのはそのせいもあると思う」
血液凝固を阻害する毒もある。
魔獣や蛇の毒だけでなく、普通の食用魚でもそういう毒を持つものがいる。
比較的よくある毒である。
「うん。でもテオならなんとか出来るでしょ?」
「俺は治癒術師ではないんだ。あまり過度な期待はするな。その角は?」
俺が尋ねるとジゼラは部屋の片隅を指さした。
「たしか引っこ抜いて、あの辺りに置いたと思う」
ジゼラの指さした方向にはいろいろな物が散乱していた。
完全にゴミ捨て場になっていた。
その中から、角を探す。
「これか?」
それは〇・五メトルはある大きな角だった。
「それそれ」
「これか」
角はドリルのようにねじれていた。
そして、中が空洞になっている。
「この空洞に毒が入っていたのか?」
「多分?」
俺はその角に鑑定スキルをかける。
「これの持ち主は……魔熊モドキの亜種みたいな奴だな」
「魔熊モドキ?」
「俺たちが勝手にそう言っているだけだがな」
魔熊モドキには角は生えていなかったが、角の生えている奴もいるらしい。
「テオ、なんとかなりそう?」
「うん。多分大丈夫だ」
「さすがだね」
角に鑑定スキルをかけたときに空洞に残った毒も調べている。
「成分的には、特に珍しいというわけではない。一般的な魔物毒に近い。だが、冒険者ギルドで売ってる解毒ポーションだと効かないかもな。どちらかというと、魚の毒に似ているし……」
一般の食中毒向けの解毒薬と、冒険者の使う魔物用解毒薬の中間ぐらいだろうか。
中間だからといって、混ぜればいいというわけではないので、絶妙な調整が必要だ。
「一度似たものを作ったことがある。だから安心しろ」
「うん。テオさんがそういうなら安心だよ」
俺は魔法の鞄から採集した薬草を取りだしていく。
そして、作成スキルで解毒薬を作り出す。
飲み薬と塗り薬の二種類だ。
ついでに以前作った傷薬ポーションも取り出しておく。
「ボアボア。治療する。痛いぞ。覚悟してくれ」
「ボオオオ」
ボアボアは覚悟完了していると力強く返事をした。
「よい返事だ。まずは解毒ポーションからだ、ん? どうしたピイ」
『きれいにする?』
「ああ、そうか、ピイなら、傷口を綺麗にすることもたやすいな」
下水を一瞬で正常な水に出来るピイの能力なら、傷口の汚れも綺麗に出来るだろう。
俺はボアボアにテイムスキルを使って語りかける。
「この子はピイ、俺の従魔のスライムだ。傷口を綺麗にすることが出来る」
「ぶぼ」
「治療の一環として、ピイに触れさせてくれ」
「ぶぼぼ」
「了承してくれてありがとう。ピイ、いいよ」
「ぴいぴぃ!」
ピイはボアボアの傷を身体で覆う。
「テオさん、その子は?」
「ピイか。俺の従魔のピイだ」
「ピイちゃん、よろしくね」
「ぴぃ!」
ピイが返事をした頃には、傷口は既に綺麗になっていた。
血はまだ止まっていない。じわじわとにじみ出ている。
「ボアボア。俺の治療を開始する。染みるし、痛いぞ」
俺は改めて確認する。
「ボボボオオオ」
「よし、相変わらずいい返事だ。始めるぞ」
解毒ポーションを傷口にかける。
毒が体内深くに入っていると考えられるので、傷口を広げて中に入れる。
「ブボオオオオオ!」
「ぶぼぶぼ」
ボアボアがあまりの痛みに叫び声を上げる。
子猪が心配そうにボアボアの顔を舐めていた。
「ピイが綺麗にしてくれたから、毒もかなり薄まっているな」
「ピイ」
「おかげで、すぐに傷薬ポーションに移れる。さっきよりは痛くないはずだ」
「ボオオオオ」
ひと思いにやってくれと言うので、俺は傷口にポーションを振りかける。
みるみるうちに傷口は塞がっていき、血が止まる。
「さすがテオのポーションだね。効果が凄いよ」
ジゼラが感心した様子で言った。
一瞬目をやると、ジゼラの頭にピイが乗っていた。
なにをしているのか聞いてみたい気もするが、今は治療が優先である。
「ボアボア。よく我慢した。次は飲み薬だ。苦いぞ」
「ボボボオオオ」
俺はボアボアの口の中に解毒ポーションを突っ込む。
ボアボアは吐きそうになりながらも、一生懸命飲み込んでいた。
「これで、しばらく安静にしておけば、多分大丈夫だ」
「ボオオオ」
ボアボアがお礼を言う。
「気にするな、困ったときはお互い様だからな」
そして、俺はジゼラを見る。
「で、ジゼラは何を食べて、お腹を壊したんだ?」
俺はジゼラは食中毒だと予想していた。
「特に何も?」
「嘘をつくな」
ジゼラには変な物を口にする傾向があるのだ。
「いや、本当だよ?」
「じゃあ、お腹を壊した前に食べた物を全部教えてくれ」
「ええっと……」
ジゼラは素直に食べた物を思い出しながら教えてくれる。
どんどん食材が列挙されていく。
だが、どれも問題はなさそうだった。
「……えっと、あとは
「それはこの近くで採った物か?」
「うん。美味しかった」
どうやら、ジゼラもヴィクトルたちと同じく
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