111 キマイラの様子を探りにいこう

「偵察ですか? 危ないですよ」

「ヒッポリアスといっしょに行くから大丈夫だろう。ヒッポリアス、いいか?」

『まかせて!』


 そう言ってヒッポリアスは嬉しそうに俺にその大きな身体を押しつける。

 俺はヒッポリアスを撫でた。


「ありがとうな。ヒッポリアス」

「ふうむ。確かに相手の情報は欲しいところだな。よし、私も行こう」

「いや、ケリーは来ないでくれ」

「なぜ!」

「なぜって、ケリーには戦闘経験がないだろう? 戦闘になったらどうしてもな」

「むぐぐ」


 俺は足手まといになると、はっきりとは言わなかった。

 だが、ケリーもそれはわかったようで、それ以上ついて行くとは言わなかった。



 その後、俺たちはみなで昼食を食べた。

 イジェの料理はいつものように美味しかった。


 食事中、俺は尋ねる。

「ところで、ヴィクトル。大丈夫なのか?」

「大丈夫とは?」

「体調だよ。ついこの前までとこに伏せっていたわけだし」

「まだ、完全復調とはいきませんね」


 ヴィクトルは虚勢を張らずに教えてくれる。

 気合いで、虚勢を張って、俺はいつものように戦えると言い切るのは危険なのだ。

 実際に出来なければ、全滅につながる。

 熟練の冒険者であるヴィクトルは、それをよくわかっているのだ。


「でもまあ、戦えますよ」

「何割程度、力を出せる?」

「五分なら十割近い力を出せると思いますよ。ですが、それ以上は残念ながら厳しいですね」

「体力がまだ戻ってないか」


 ヴィクトルは食中毒から回復したばかり。

 五分でも全力で戦えるのならば、充分だろう。


「はい、その通りです。ご迷惑をおかけします」

「いや、最初からわかっていれば迷惑にはならないさ」


 味方の戦力がわかっていれば、それを軸に作戦を立てるだけだ。

 そして、勝てなさそうなら撤退すればいい。


 食事が終わったあと俺は、子魔狼たちをフィオたちに託した。

「フィオ、シロ。子魔狼たちのことを頼む」

「わかた!」「わふ!」

 俺はくんくん鳴いている子魔狼たちの頭を撫でた。


 そして、ヒッポリアスとピイと一緒に偵察に向かう。


「ヒッポリアス、行こうか」

『いく! がんばる!』

「頼りにしているよ」

「きゅお!」


 ふんすふんすと鼻息を荒くしたヒッポリアスと一緒に俺は歩いて行く。

 いつも通り肩にはピイが乗っている。

 偵察をするならば、シロも活躍するだろう。

 だが、キマイラ相手だと少し危険に思えたのだ。


「そういえば、まだヒッポリアスに気配を消す方法を教えてなかったな」

「きゅお?」


 魔熊モドキを遭遇したとき、当初気配を消してやり過ごそうとした。

 そのとき、シロとフィオは上手に気配を消していた。

 だが、ヒッポリアスは全く気配をけせていなかったのだ。


『ひっぽりあす、けはいけせる!』

「そうなのか? ちょっとやってみてくれ」

『わかった』

「きゅぅぅぅおおお」


 ヒッポリアスは小さな声で鳴きながら、小刻みにぷるぷる震えた。

 どうやら、ヒッポリアスは気配を消しているつもりらしい。

 だが、相変わらず全く気配は消えていない。

 震えている分、かえって存在感が増しているぐらいだ。


「……少し教えよう」

「きゅお?」

「気配を消すというのはだな――」


 そんなことを話しながら歩いて行く。


『やってみる!』

「すぐには出来ないと思うから、気長にな」

『わかった!』


 そんなことをやっていると、すぐに畑に到着した。


「よし、畑を荒らした犯人を追跡するぞ」

「きゅお!」「ぴい!」

「どこからきて、どこに帰ったか。それを調べないとな」

『わかった! ひっぽりあすしらべる』

『ぴいも!』


 ヒッポリアスは畑に鼻を付けるようにして、ふごふごと臭いを嗅いでいる。

 ピイも俺の肩から飛び降りると、ぺたんと平べったくなって畑に広がる。

 二メトル四方ぐらいの大きさだ。


『ヤギ!』

「そうだな。ヒッポリアスはやぎに似ているっていってたな。俺も似ていると思うよ」

「きゅお!」

『こっち! こっちいった!』

「む? ピイ、わかるのか?」

『わかる!』

「どういうしくみだ?」

『まりょく! のあとがある』


 そういって、ピイは球に近い形に戻ってプルプルした。


「そうか。ピイは魔力の凝りもわかるんだもんな」

『わかる』


 ピイはよく俺の肩と頭を揉んでくれる。

 そのとき、筋肉のこわばりだけでなく、魔力の滞りみたいなものまで見て揉んでくれるのだ。

 魔力を感知する能力が際立っているのかも知れない


『それにかけらおちてる!』

「かけら?」

『からだの!』

「ふむ」


 もしかしたら、目に見えないほど小さい毛や皮膚の欠片などを察知しているのかも知れない。

 有機物なら何でも食べるピイにとって、小さい毛も皮膚の欠片も捕食対象だ。

 だから、それを探す能力も非常に高いのかも知れない。


「ピイ、凄いな」

『ぴいすごい!』

「ぴっぴい!」


 俺がピイを撫でると、ヒッポリアスも少し興奮気味にピイのことをベロベロなめた。

 そして、ピイは嬉しそうにブルブルしていた。

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