110 キマイラ対策会議
キマイラと戦うということを決めたあと、俺たちは一度拠点へと戻った。
種植えしても、また畑で暴れられたら台無しだからだ。
帰り道、イジェが寂しそうに言う。
「タネウエ。シタカッタな」
「そうだな。俺も残念だよ。イジェ。いつ頃までに植えれば、収穫できると思う?」
「……ン~。トオカイナイ、カナ」
「十日か。あまり猶予はないな」
「ウン。イッカゲツゴでも、マニアウカモダケド……」
「冬が早く来るときもあるしな」
「ソウ。テンコウにヨッテは、ソダチもオソクナルし」
農業熟練者が季節を見極めて種植えしても、天候次第では作物が全滅することもある。
それが農業だ。
自然が相手なので確実なことは何もない。
だからこそ、万全の準備を整えなければならないのだ。
拠点に戻った後、ヴィクトルと冒険者たち、そしてケリーがキマイラ対策の会議を始めた。
実際に戦ったことのあるヴィクトルが、キマイラとの戦い方について話していく。
それを皆が緊張した様子で聞いていた。
ヴィクトルは話し終わると、ケリーに尋ねる。
「ケリーさん。私たちの知っているキマイラと、この辺りのキマイラの違いなどはありますか?」
「断言は出来ない。だから、あまり先入観を持たないで欲しいんだが……」
「わかりました。それでも、少しでも予測と対策が出来ればと思っていますよ」
「そういうことなら、まあ」
そして、ケリーは少し考えて語り出す。
「残された痕跡は、足跡と体毛。それにぬた打ってできたらしい穴だけだ」
「そうですね。そこからわかることはってありますか?」
「まず足跡から推測できる大きさだが、恐らく体長は五メトルから八、いや、もしかしたら十メトルあるかもしれない」
「なんと」
ヴィクトルは険しい顔になる。
一般的なキマイラは三から四メトル。それよりもずっと大きいのだ。
基本的に魔獣に限らず、獣は大きい方が強い。
「だがなぁ。足跡は大きいんだが……、柔らかい畑についたにしては、へこみが少ない」
「……つまり体重が軽いと?」
「もちろん断言はできないがな、ぬた打った跡から考えても、恐らくは体長に比して体重は軽そうだ」
「ケリーさん。体長が大きく体重が軽いというのは、どのような場合が考えられますか?」
「最初に思いつくのは、飛べるとかだな」
「飛ぶ可能性があるのですか?」
「あくまで可能性だ」
旧大陸のキマイラには羽はなかった。
ヤギの胴体に獅子の頭。それに毒蛇の尻尾。
それが旧大陸の一般的なキマイラだ。
だが、旧大陸と新大陸でキマイラの形態が違う可能性も充分ある。
羽が生えていてもおかしくはない。
「飛べるとなると……厄介ですね」
考え込むヴィクトルにケリーは冷静に言う。
「続きいいか?」
「あ、失礼、お願いします」
「体毛はヤギのそれに近い。足跡の形状もだ。だがヤギとは違う。キマイラとヤギの体毛の見分け方は毛先が……」
ケリーは俺もヴィクトルも知らない見分け方を教えてくれる。
流石は学者、知識が深い。
冒険者たちも真剣に聞いていた。
「で、だ。ここからが本題なのだが、確かに体毛にはヤギではなくキマイラの特徴があった。だが、獅子の体毛がない」
「ふむ? たまたま落ちなかったとか?」
「もちろん、その可能性もある。私が見つけられなかった可能性もな。だが獅子のたてがみは長い。見つけやすいから可能性は低いと思う」
「では、どの可能性が高いとケリーさんは考えているのですか?」
「頭が獅子ではない可能性もある」
「……獅子でなかったとしても、その体毛が落ちているのでは?」
「獅子はたてがみの体毛が長い。だから見つけやすいのだが……例えば虎なら、見つけにくいかも知れない」
「……ふむ」
「加えて、毒蛇の尻尾を持っていない可能性もある。畑から毒が検出されなかったからな」
もし、キマイラに毒をまかれていたら、畑が台無しになるところだった。
それは不幸中の幸いだ。
話を聞いていた一人の冒険者が尋ねる。
「あの。ケリーさん」
「どうした? 何でも聞いてくれ。答えられるかはわからないがな」
「頭が獅子ではなく、尻尾も毒蛇じゃないなら、もはやキマイラではないのでは?」
「当然、その可能性もある。体毛と足跡にはキマイラの特徴が色濃く表れていると言うだけだからな」
「キマイラではない新種である可能性もあるし、キマイラの姿自体がこちらでは大きく違う可能性もある。ということですね?」
ヴィクトルがそう尋ねると、ケリーは深く頷いた。
「テオさんはどう思われます?」
「
「それは、そうですね」
「キマイラがどういう生き物なのか、知らなければ対策も立てにくいし」
「はい。とても厄介なのは間違いないです」
「ということで、少し偵察に行ってくる」
俺がそう言うと、ヴィクトルは渋い顔をした。
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