102 ヒッポリアスの活躍
俺がシロの散歩を忘れていたとわかって、ケリーはため息をつく。
「クロ、ロロ、ルルは赤ちゃんだから、まだいいが、シロは魔狼だ。散歩させないとかわいそうだぞ」
「……そうだな。気をつける」
「シロは賢くて聞き分けがいいから、忙しそうなテオを見て、言い出せなかったんだろうが……」
「……うむ。返す言葉もない。お昼ご飯を食べたら、すぐに――」
俺がそういうと、ケリーは首を振る。
「いや、すぐはやめた方がいい」
「なぜだ?」
「食後にいきなり運動すると、胃に悪い。人もそうだが、犬は特にそうだ。いやシロは魔狼だが、恐らくそうだろう」
「犬は食後に運動したらだめなのか?」
「ああ、胃捻転を起す場合がある」
「それはまずいな。気を付けるよ」
ケリーはうんうんと頷くと、ぶつぶつと呟きだす。
「とはいえシロは犬ではなく、狼、それも魔狼の上位種である魔白狼、いや、魔白狼よりさらに上位種である可能性すらあるぐらいだ。食後の運動ぐらいなんともないかもしれないが……」
ケリーにとって、シロたちの正確な種族というのは、研究対象なのだろう。
新種なのは間違いないが、どのくらい魔狼や魔白狼から離れた種族なのか知りたいに違いない。
「とりあえず、シロは休ませてからにするよ」
「うん。そうしてくれ」
シロの散歩は時間をおいてからすることにした。
食堂に到着すると、シロと子魔狼たちが出迎えてくれる。
「きゃふきゃふ」鳴いている子魔狼たちを撫でてから、シロの頭を撫でる。
「シロ、子守をありがとう」
「わふ」
シロはゆったりと尻尾を振った。
それから俺は、いつものように子魔狼たちのご飯を作る。
それが完成したら、子魔狼たちに食べさせて、俺もみんなと一緒に冒険者たちが作ってくれたご飯を食べた。
ご飯を食べ終え、後片付けを済ませて戻ってくると、子魔狼たちはうとうとしていた。
朝から元気に遊びまわっていたので、そろそろ眠くなるのは仕方ないことだ。
「子魔狼たちは、お昼寝の時間だな」
『……あそぶ』「…………」『ねる』
クロは遊ぶと言いながらもう半分眠っていた。
ロロはもうへそを天井に向けて眠っていた。
ルルは眠そうだが、眠っていない。だがクロたちの様子を見て寝ると言っていた。
「そうだな。ヒッポリアスの家で留守番させるのも寂しがるだろうし……」
俺とヒッポリアスは農地開墾に従事しなければならないのだ。
フィオとシロに子守をしてもらうというのがよいだろうか。
「ぁぅ」
クロが俺の腕にあごを乗せ、そのまま眠る。
「仕方ない。フィオ、ロロを頼む。俺はクロとルルを抱っこして行こう」
「わかた!」
畑予定地についたら、毛布にでもくるんで見える場所で眠っていてもらえばいい。
そう考えて、俺はクロとルルを抱っこする。
そして、ロロを抱っこしたフィオと、ヒッポリアスとピイ、シロと畑予定地へと向かう。
ちなみに、イジェは、俺が後片付けをしている間に、ヴィクトルたちと先に畑予定地の方へと向かった。
なにやら準備があるらしい。
俺たちが到着すると、イジェやヴィクトル、冒険者たちは畑を作る範囲を決めていた。
農具も拠点から運び込まれている。
ヴィクトルが丁寧にヒッポリアスにお願いする。
「ヒッポリアスさん。木の伐採を手伝ってください」
『わかった』
「ヒッポリアスはわかったって」
「ありがとうございます」
大きくなったヒッポリアスは、いつものように木を簡単に倒していく。
岩をも砕く、ヒッポリアスの魔法の角で木を根っこから引っこ抜いていくのだ。
その速さは尋常ではない。
「きゅおー……? きゅお?」
木を一本倒すたびにヒッポリアスはこちらを見る。
「ちゃんと見てるよ。凄いな、ヒッポリアスは」
「きゅ!」
そして、次の木を倒しにかかる。
ヒッポリアスは俺に見ていてもらいたがるのだ。
褒めて欲しいというのもあるのかもしれないが、ご飯も食べるところを見ていて欲しがる。
「スゴイ! スグオワリソウ」
「イジェ。木を倒したら次は何をするんだ?」
「スキでタガヤス」
そして運んできた農具の中にある
「
「ソウ。ムラにイタウシ、アクマがゼンブ……」
「そうか」
イジェはとても悲しそうだ。
可愛がっていた牛も村が全滅したときに、やられてしまったのだろう。
「この犂だと、少しヒッポリアスには小さいかもしれないな」
「ガンバレば……」
「頑張れば大丈夫だろうが、まあ新しく作るよ」
「きゅお?」
そのときまた木を倒したヒッポリアスがこちらを見る。
「ちゃんとみてるぞ。偉いぞヒッポリアス」
「きゅ!」
「だがな、ヒッポリアス。少し道具を作るから、目を離す。すまない」
『わかった。ひっぽりあす、ておどーるがみてなくてもがんばる』
「ありがとう」
そして、俺は、ヒッポリアス用の犂の製作に取り掛かった。
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